その弐 ~アマテラス~
神々の話し合いの末、スサノオに与えられる罰が決定した。
そして、それが終わったら速やかにこの地を出ていくこと。
つまりは追放だ。
スサノオは豪快に笑ってその内容を受け入れた。
今もせっせと壊した田畑の修繕を1人で行っている。
あたしは山の上の巨木の枝に腰かけて、足をブラブラさせながら遠目からその様子を眺めていた。
あたしはどうしよう。
スサノオについて行った方がいいのだろうか。
いや、それは未練がましい気がする。
どの道一緒になれないのならここで別れた方がいいのかもしれない。
そんなことばかりを考える。
「やぁ茨木。相変わらず美人だな」
ぼんやりしていると、突然あたしの横にフワッと神さまが現れた。
美人と言うのは貴方さまのことを言うのですよと思わず返したくなる。
この地の最高神、アマテラスさま。
赤い袴、白地に鮮やかな
長い黒髪の頭につけた黄金の髪留めがとてもお似合いの、みんなの憧れの神さまだ。
「もうやめてくださいって。あたしは鬼ですよ」
プーと頬を膨らませてそう言うと、アマテラスさまはいつものようにあまりに眩しい表情を浮かべてカラカラと笑っていた。
「このぉ、小さいッ。小さいよ茨木。そのうち種族を越えた交流はどんどん盛んになる。いいじゃないか、そなたらがその草分けになったら」
「えっと……な、何を言っているのですかね?」
「またまた~、とぼけちゃってぇ」
言いながら肘であたしをつついてくる。
最高神と言う立場でありながらこの気さくさ。
その辺はスサノオも似ているなぁって思う。
やっぱり姉弟なんだなぁと。
「スサノオは友達ですよ」
「それならどうしてついて行くかで迷ってるのかなぁ?」
「え? いやその、それは……ってアマテラスさま。ついに心まで読むことができるようになったのですか?」
「フフ……そんなの読むまでもないよ。そなたの顔を見れば誰だってわかる」
「……ずるい」
すべてを照らすその存在は圧倒的、それゆえの最高神。
でも、常に先々のことまで考えて行動をしているこのお方でもスサノオの行動だけは読めないという。
それが先日の
これからはアマテラスさまがいなくても各々の判断で行動できるようにと、神々やスサノオに自立を促すために起こした行動だと言うことをこの時初めて教えてもらう。
「我の話はいいとしてさ、茨木にはスサノオと一緒にいてやって欲しいんだよね」
「……アマテラスさまのご命令とあらば」
「やめてよ、命令なんかじゃないって。これはあの子の姉としてのお願いだよ」
「姉として?」
「そう。あの子は誤解されやすいじゃない? 結局、親にも見放されて追放までされちゃった訳だしさ。我だって最高神という立場上、あの子がやったことの責任は取らせなけりゃいけないけど、それはあの子が良い神さまになるための試練だと思ってるの」
「良い神さまになるための試練……ですか」
「うん。それは我にも同じことが言えるんだけどね」
「??」
首を傾げていると、アマテラスさまはあたしの頭にポンポンと何度か触れたあとでパフッと暖かい手のひらを乗せる。
と思ったらすぐに顔を近づけてきて、真剣な表情のままであたしの顔を覗き込んでくる。
なにこれ? 視線の逃げ場がどこにもないんだけど。
「どうかな、茨木? こんなことを頼めるのはそなたを置いて他にはいない。近くにいてやって欲しいんだ。何よりもあの子が望んでいることなのだから」
「……あたしなんかがそばにいて、スサノオの役に立てるのでしょうか?」
アマテラスさまの手のひらを頭に乗せたまま、あたしは上目遣いで唇を尖らせる。
「立てる立てる。まだ気づいていないかもしれないけど、そなたの潜在能力は神々に勝るとも劣らないんだよ」
「本当ですか?」
「ウソなんてつかないよ。我はこれでも神さまだからね」
いつも守ってもらってばかりいたあたしが今度はスサノオの役に立てるかもしれない。
それなら、そばにいても許されるのかも――
「あたし……スサノオの役に立てるのなら強くなりたいです!」
大きな声が出た。
たぶん顔も必死だった。
「そう言ってくれると思ってた。なら早速診させてもらうよ」
そう言うと、アマテラスさまはあたしの額の前に手をかざして目を閉じる。
手のひらからは柔らかい光がこぼれて、不思議な心地よさに包まれる。
「よし、バッチリ見えた。うむ、我の見込んだ通りだ。やっぱりそなたは才能に溢れているね。さすがは
「それで……一体何が見えたのです?」
「うん、詳しくはあとで説明するけど、そなたには二つの術を教えてやれそうだ。そのうち一つは我も使いこなすことができぬ特別な術。まったく恐るべき才能の持ち主だよ、茨木は」
あたしにはその二つの術の適性があるらしい。
天魔法術はアマテラスさまの代名詞とも言える天候を自在に操る術。
そして憧術はアマテラスさまも適性がなく、鬼のあたしだからこそ使える術だと教えられる。
「スサノオがこの地で罰を受けている間、そなたは術の修行に励むがいいよ。我もちょくちょく見に来るから」
「ありがとうございます。こんなあたしに優しくしてくださって……」
「ん~、そんな言い方はしてほしくないな。そなたほど心清らかな存在はこの地を探してもどこにもいないんだよ。そんな茨木にだから、つい構いたくなっちゃうんだよね。それにね、そなたが鬼であることだってきっと理由があるはずなんだ。だから、スサノオと一緒に旅をして、その答えを見つけに行ってくるといい」
「あたしが鬼である理由……その答えを見つける旅――」
アマテラスさまの言葉はあたしに勇気と希望を与えると同時に進むべき道を示してくれたのだった。
それから数ヶ月が経ち、季節が夏から秋へと変わる頃。
スサノオが高天原を旅立つ日が翌日に迫っていた。
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