第20話 どういうことですかね……

「頼み事……?」


 嫌な予感しかしない。

 最近は、色々なことが起こりすぎている。

『頼み事』なんてしてくるやつは、つまりトラブルを抱えているわけで、気持ちのいい話になるわけがない。


 縦ロール女子高生――金城アゲハとやらは、おーっほっほ、と笑いながら、宣言した。


「わたくしの兄と、白銀さんの関係をめっためたのぎったぎたのばったんばったんにしてほしいんですのよ」

「表現は古いし、言いたいこともわからねえ……ということもないか」


 つまり、二人の関係を無茶苦茶にしろってことで。

 ようするに『許婚関係を壊せ』ってことだよな。


 俺の理解したような態度に、金城アゲハは満足そうにうなずいた。


「そうです。兄を殺してほしいのです」

「警察ーーー! 110番ーー!」

「ちょ、ばっ、なにをスマホを取り出しているんですのっ。バレるじゃありませんかっ! バラス仕事を頼みましたが、バレるようじゃ困りますわっ」

「うまいこといってるつもりか! 犯罪を頼むような人間に聖域なんぞねえからなっ」

「百万払いますわっ」

「金の問題か、あほ」

「一億」

「……金の問題じゃないだろ!」

「今、考えましたわよね?」

「考えてない」


 ……一億ってすげえなぁ、って思っちゃただけだから。

 金の為とはいえ、許嫁の命をうばっちゃいけないよ。

 ホントダヨ、ウン。


「あんなクソ男は滅されるべきですわ」

「兄貴をクソとか言っちゃ駄目だろ」

「あんなごく潰し、金城家の恥ですわ。女の尻ばかり追いかけてるんですの。金城家を継ぐのは長女であるわたしがふさわしい――のに、あの男は、生まれた順番が先だからって、きいいいいいい」


 金城アゲハが縦ロールを振り乱しはじめた。

 どうどう、と落ち着かせる。


「なんとなく理解した。つまり、兄を失脚させたいわけだな」


 許婚一人、自分のものにできない長男は、跡継ぎ失格だ! とさせたいわけか。


 それにしても……。


「金城家ってなにもんだよ。そうとうな金持ちか」

「お菓子をつくっておりますわ」

「……はい?」


 お菓子?


「ええ! 金城家お菓子メーカーです。それも超有名な、とてもうまそうな棒状のスナックに匹敵する日本有数の駄菓子メーカーですのっ」

「駄菓子か……」


 話が一気に平和になってきたな……。


「白い粉もつくってますわ」

「聞き捨てならねえな!?」

「いやですわ。ソーダ味のパウダーにきまってるじゃありませんか」

「だよな……?」

「葉っぱもやってますわ」

「お菓子か」

「大麻ですわ」

「おまえの家はなんなんだ!?」


 お菓子って何かの暗喩か……?


 アゲハは自信満々に胸を張った。

 そのときこいつの胸が規格外にでかいことを理解したが、俺のオレは無言だった。


「大麻製造は大規模化するのも難しい、繊細な活動なのです。事業化まではいたらないけれど、医療用などの大麻を治療や研究用に栽培してるんですわ。利益なんてあまりでません。けれども、今このときも苦しんでいる方のために金城家は動きます。国から土地がらみで依頼されたんですの」

「お前が一番喋ったのが、すごい真面目な話で俺はびっくりしてるよ……」


 まあ、金城家ってのは、どうにせよ金持ちなのだろう。

 お菓子メーカーとのことで、社名を聞いてみたら、確かに聞いたことのある会社だった。本物のお嬢様だった。


 俺はうなずいた。


「まあ、わかった。引き受けるかは別として、それなりの動きはするさ。最低限な」

「毒、ですの?」

「致死量の話じゃねえよ……」


 利害一致しているって話だ。

 白銀の望みを聞けば、金城アゲハの望みも叶うだろう――ん? ならなんで、白銀はコイツに依頼しないんだ?


 ああ、待てよ……?


 白銀の依頼って、許嫁の解消ってわけでもないのか。

 色々とボディガードをしてくれって言われたけど、許嫁を解消させてとは言われてないか? ニュアンスだけか。


 ……なんでだ?


 その時である。

 金城アゲハは目を光らせた。


「これで白銀さんの体はわたしのものですわ……ああ……愛しの姫君……」


 ……なんか、聞こえたけど、今は聞こえないふりをした。

 話が非常にややこしい気がする。





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「恩は体で返すから」と言い寄る学年一の美少女は絶対に恩を返せない 斎藤ニコ・天道源 @kugakyuu

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