第22話 三人のクエスト
ミオナを先頭に、後ろからレフィーリア、ラドルと続きギルド内へと入って行く。
かなり早い時間だったが、ギルドには出発前のハンター達が列を成していた。昨日よりも人は少ないが、それでもラドルが以前いたキビウにはなかった賑わいだ。
先頭を歩くミオナはその列には見向きもせず、一直線にクエストボードに向かう。
さて、と腕を組み仁王立ちになってクエストボードを端から眺めていく。その隣にレフィーリアも立って同じようにクエストボードに食い入る。
ラドルはその二人から離れて受付カウンターに向かい、列の隣のカウンターの女性職員に声をかける。
「クエストの報酬を受け取りに来たんだが」
「畏まりました。ではハンタータグとクエストの受注書をお願いします」
言った物を渡された職員がカウンターの後ろに下がった。ラドルが離れた事に気付いたレフィーリアが、辺りを見回す。ラドルの姿を見つけるとすぐに駆け寄ってきた。
「昨日の報酬を受け取るのね?」
「ああ。今日のクエストはお前達に任せたからな。選んでる間にと思ってな」
ほどなくして職員が皮袋を持って戻って来た。
「お待たせしました。ラドルさん。あ、一緒に受注されたレフィーリアさんですね。討伐完了の報告確認が取れましたので。こちらがクエスト報告になります」
「悪いが、それを二等分に分けてくれるか?」
職員はズシリと重みのある皮袋からお金を出し、もう一つの皮袋に均等に分けてラドルに渡す。受け取ったラドルがその一つをレフィーリアに差し出す。
「ほら。レフィーリアの取り分だ」
「あ、ありがとう」
「初めての報酬だったか?」
「え、ええ。そうね」
「そうか。おめでとう。じゃあ俺はあっちで待ってるから」
ラドルはそう言い残すと、隣のレストランホールへスタスタと歩いて行った。レフィーリアはその後ろ姿を見送ると、手に持った皮袋に視線を落とし小さく呟いた。
「初めての討伐報酬……」
レフィーリアはミオナの所に戻って、再びクエストボードに熱視線を送った。
ラドルが遠目にその二人を見ていると、周りのテーブルからヒソヒソと話す声が聞こえてくる。
「おい、あれって『ナイアド』のミオナじゃねえか?」
「えっ?そうなの?」
「ああ、間違いない。戻って来たみたいだな」
「隣に居るのは新しい相棒かな?」
「分からん。けど二人ともめちゃ可愛いよな」
「うむ、俺はあの黒髪の方が好みだ」
「……一回死ね、男ども」
そういえばミオナのハンターランクは第四等級だったな。あの歳で四等級ならそれなりに名は知られていて当然か……。
ミオナとレフィーリアはギルド内の注目を集めだしているのも構わず、二人であれじゃないこれじゃないと張り出されたクエストを吟味していた。
やがてこれだ!とミオナの声が聞こえ、二人が嬉々とした表情でラドルの元にやって来る。
ラドルの上に依頼書が置かれた。
「これ!どう?ラドル」
「うむ……」
ラドルがその依頼書を覗き込み、内容を確認する。
グレイジャガー討伐。北の山間の街道近くにグレイジャガーが巣を作ったようだ。既にその街道を通る旅人や商人が襲われており、緊急ではないが昨日のキングスコーピオ同様、早期討伐希望と書かれていた。
グレイジャガーとは森や山に生息する大型の猫型のモンスターだ。大型と言っても体長は5メートルほどで、大型モンスターの中では小さい部類に入る。山の斜面に横穴の巣を作る習性があり、その周辺の縄張りに入った者を襲う獰猛なモンスターだ。
ふむ、と頷いたラドルが報酬額のところに目を落とす。なかなかいい報酬額だ。三人で頭割りしてもそこそこの稼ぎになる。
しかも今回はミオナが報酬は要らないと言ってきている。となればラドルの手元にはかなりの金額が入ってくる。
「どう?どうよ?ラドル!それに私、前にグレイジャガー討伐したことあるし」
「ほう。そうか。レフィーリアもこれでいいのか?」
「ええ。私も大丈夫よ」
うん、と頷いたラドルが依頼書をミオナに渡す。
「いいんじゃないか?これにしよう」
「よしっ!決まり!じゃあ受注に行くよっ」
ラドルはミオナとレフィーリアに腕を引かれ、受付カウンターに向かった。そして三人でクエスト受注手続きを終えると、
「よーし!じゃあ早速出発……」
「待て、ミオナ」
「え、え?何なに?」
「まずはミーティングだ。予定の確認ぐらいさせろ」
「お、おう…。そだね。久々すぎて暴走しちゃった」
やれやれといった面持ちでラドルがテーブルについた。そしてものの数分でミーティングは終わった。
まずグレイジャガー出現場所に一番近いベースキャンプに馬車で行き、そこから徒歩で山の中に入ってグレイジャガーを捜索するという段取りに決まった。
ギルドを出た三人は簡単な食料の買い出しをして、馬車乗り場に向かった。
ロンザリドから馬車で一時間ほど離れた所にギルドが作ったベースキャンプがあり、そのベースキャンプから更に進んだ山岳地帯がグレイジャガーの出現エリアとなっている。
昨日の砂漠船のように大型モンスターの討伐の場合はハンターギルドが近くまで乗り物を用意している事が多い。
今回のクエストもベースキャンプまでの馬車はギルドが用意してくれていた。
三人はその馬車の所まで歩いて行き、御者の男に依頼書を見せる。
御者の男は三人に後ろに乗るように言い、乗り込んだことを確認するとすぐに馬車が進み始めた。
三人を乗せた馬車は予定通り一時間ほどで、ベースキャンプにたどり着いた。
拓けた場所に大型テントがいくつか並び、その周りには他のハンターらしき者達がそれぞれ、打ち合わせをしたり、荷物のチェックをしたりしている。
ハンターギルドではベースキャンプを使用するハンターの数はしっかりと管理されており、それぞれのキャンプでも人数分の宿泊テントも用意されている。
宿泊日数に応じて報酬から天引きされるというデメリットもあるが、ハンター達はよほどの事がない限りは野宿や夜営はせずに日暮れ前にはこのキャンプに戻ってくる。
ラドル達の目的地である山岳地帯の周りには、いくつかのこういうベースキャンプが設置されており、それぞれのパーティーがクエストによって割り当てられたベースキャンプを拠点にクエストを遂行していくことになっている。
馬車を降りた三人は、ベースキャンプ前にいる武装した男に依頼書を見せてキャンプ地の中に入っていき、自分達の番号がふられたテントに入っていく。
クエストを受けた時に、パーティーにはテントが割り当てられているというシステムだ。
三人はテントに入り、腰を下ろすと自分達の武器を装備していく。
ラドルはバレルガンの準備をしながら、
「最後にもう一度、それぞれの動きを確認するぞ」
「はいなっ!」「はい」
二人も手を動かしながら答える。
「山に入って索敵のメインはミオナ。俺も後方から行う」
二人が無言で頷く。
「で会敵したら、二人は近距離戦闘。俺が後方からの援護射撃」
「りょーかい!」「分かったわ」
ラドルが二人の顔を交互に見る。
「で、近距離での連続攻撃は基本的にしない。一撃離脱。それは絶対に守れよ。特にレフィーリア。お前は大剣だけだからな」
「分かってるわよ」
「私がコレで撃つのはいいのね?」
「ああ。少し距離を取っているポジションにいる場合は問題ない。ただ、俺が離れろと叫んだら、絶対にモンスターから離れろよ、いいな?」
「はーい!」「うん、分かった」
弾丸を込めたバレルガンを手にラドルが立ち上がる。
「俺も撃つ時は必ず合図する」
「んー? どうやって? 私達、多分戦ってるからラドルの方は見れないよ?」
ラドルがむぅと唸りながら絞り出す。
「…………『撃つ』って、叫ぶ」
「ださっ!」「……ぷっ」
「それしかねえだろ!」
「やっぱり長く
ラドルの顔が天を仰いだ後、ミオナに視線を向ける。
「そう言われると意識して余計、恥ずかしくなりそうだ……」
「大丈夫よん。他の人には黙っといてあげるからさっ」
準備ができたミオナとレフィーリアも立ち上がる。
「さて、私達パーティーの初陣だね! 手を合わせて、えいえいおー! みたいなヤツやる?」
「やらん! さっさと行くぞ」
「もー、ラドルのイケズ~」
ラドルがテントの入り口を押し開け外へと出て行き、ミオナとレフィーリアもその後に続いて出て行った。
砂漠の狩猟者 〜巨像狩猟戦記〜 十目イチヒサ @tome131
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