第38話 魔女の講演会
投稿が空いてしまって申し訳ありません。諸事情により更新が出来ずにおりました。
本日から最終話まで毎日更新をする予定です。最後まで楽しんでいただけると幸いです。
前回までの内容を覚えていないよという方向けに、簡単にあらすじを載せてから再開致します。
◆◇◆◇◆
前話のあらすじ
「ボクの助手になってくれないかな」と美空月夜に言われた神尾出雲。
助手となってくれるのなら、次に行う講演会に来て欲しいと言われる。
出雲は友人と話しながらも迷った末、覚悟を決める。講演会へ行く事を決意したのだった――
――――――――――――――――――――――
「へえ、来たんだ」
「……来たら悪いか?」
「いえ、全く。それどころか嬉しいわよ」
会場に着くと希咲に出会った。彼女はどこか楽しげな様子で俺を見ていた。
「覚悟、決めたのね」
「ツキから聞いたのか?」
「いいえ? でもなんとなく分かるわよ。友達だもの」
友達、か。
じっと希咲を見ていると、怪訝な表情を向けられた。
「なに、どうかしたの?」
「いや、なんでもない」
俺もそうだが、ツキも良い友達を持ったようで……嬉しくなった。
「でも良かったわ。もし貴方が来なかったら、あの子の愚痴に半年は付き合う事になっただろうし」
「は、半年は言い過ぎ……じゃなさそうだな」
頬が引き攣ってしまう。しかし冗談ではないように思え……前例とかあったんだろうなと考えた。ツキ、ストレスが溜まりやすい立ち位置に居るし。
すると、希咲がまっすぐと俺を見てきた。どうしたのだろうと見返すと、彼女はゆっくりと口を開く。
「一つ、言っておかなければいけない事があるわ」
「……なんだ?」
「私は何があろうと月夜の味方よ」
その言葉は唐突の事で、理解をしようと思っても難しくあった。
そんな俺を見兼ねて彼女はまた口を開く。
「月夜の味方という事は必然的に貴方の味方という事になるわね」
「……それは」
「それと、案外神尾君の味方は多いものよ。何の事か分からなくても良いわよ。近いうちに分かるもの」
ひとまずその言葉に頷いた。
味方、か。
そういえば、ツキからバレないように彼女の両親の友人の学者と一緒に学会を見た事もあったな。
その人達も俺の事をよく褒めてくれたものだ。あの頃はお世辞でしかないと思っていたが、案外ちゃんと褒めてくれていたのかもしれない。
「それじゃあそろそろ行きましょうか。目立ってしょうがないわ」
「……そういえばそうだな」
気がつくと周りから見られていた。それも当然だ。あの【神童】と話している、同学年らしき人物なのだ。珍しいだろう。
会話はそれまでにして、俺と希咲は会場へと入ったのだった。
◆◆◆
会場に入り、そこで俺は初めて自分の席が最前列にある事を知った。
最前列……それは重要人物というか、何らかの会長とかお偉いさんとか関係者が座る場所だ。
横を見ると、少し遠くの方にツキの両親が見え、目が合うと二人ともニコニコと笑いながら手を振ってきた。ギョッとその二人を驚いて見つめる人影がいくつもあった。
そこは一旦置いておいて、隣へ目を向けると……希咲が座っていた。
「希咲が隣だったんだな」
「不満なの?」
「そうは言ってない。顔見知りで良かったよ」
気を使っているとかでもなく事実である。
希咲はふーんと、興味無さそうに息を漏らした。
「どうして前に居るんだ、とか聞かないのね」
「そりゃその辺のお偉いさんに比べりゃ希咲のがよっぽどお偉いさんだろうが」
なんならこの最前列に居る中でもトップレベルの実績を持っていると思う。本当に凄い人物なのだ、希咲は。
「ふふん。さすがは月夜の見込んだ男ね」
「いや、これくらいは別に――」
「あら? 気づいてない人なんて大勢居るみたいだけど」
希咲が一瞬、後方へと目を向けた。同じようにそこを見ると――
「……おぉ」
「意外と多いでしょ。私にも――貴方にも向ける視線も」
その一瞬だけでも多くの人と目が合った。それも、そのほとんどが睨みつけるような目だ。
「年功序列みたいなものね。やっぱり何十年も研究を重ねてきた学者は実績も多いわ。そんな自分の半分どころか、三分の一とか四分の一の歳で……とか。理解できなくもないでしょ?」
「そうだな。俺なんてぽっと出てきた奴だし」
希咲はもちろん、俺にも強い視線が向けられていた。そりゃ面白くないだろうな。俺なんかがここに座ってるの。
「……ふうん?」
「どうした?」
「いいえ、なんでも」
何か面白そうに希咲が俺を見ていた。聞き返しても首を振られるのみである。
まあ良いかと前を向いた頃、電気が消える。講演会が始まるようだった。
舞台袖から一人の人物が現れる。それは――白衣を身につけたツキであった。
会場内に拍手が鳴り響く。
赤い目が真っ先に俺を見て、頬が緩んだ。
マイクの前でツキが小さくお辞儀をする。それが終えると拍手も鳴り止んだ。
「まず最初に。会場まで来てくれてありがとう。中には遠くから来てくれた人も居る事だろう」
ツキが会場全体を見渡し――続いて。その鮮やかな瞳に俺は射抜かれた。
「本当に、来てくれてありがとう」
ホッとするような……安堵するような声色。それに気づいた人物はそう多くないだろう。
「さて、まずは自己紹介をさせて貰おうか」
そこで視線を切って、彼女は一度目を瞑り……開く。
「ボクの名前は美空月夜。【魔女】とも呼ばれている」
その口の端が小さく持ち上げられ――
「この講演会では【美空月夜】という人物について話していこうと思う」
講演会が始まったのだった。
◆◆◆
講演会は【美空月夜】という人物のこれまでについて語ったものであった。
彼女が生きてきた中で、どうして生物学に興味を持ったのか。そしてどうやって理論や研究の方法を見つけたのかを中心に話していた。
講演会という事もあって、論文や研究内容は非常に分かりやすく説明されていた。多分一般人でも理解出来るんじゃないかというレベルだ。
「……という所だが、この部分はボクの友人に気付かされた事だ。彼が居なければ、これは導き出されなかった事だろう」
わざわざ『彼』の部分を強調してツキは話していた。それが出る度に隣で希咲がニヤニヤと俺を見てきて、頬を引き攣らせる事となった。
それはそれとして、講演会も終盤に入ってきた。かれこれ二時間近く話し続けているツキは本当に凄いと思う。
後はまとめと質疑応答……少しだけ時間が余っているが、誤差のようなものだろう。
と、その時の俺は思っていた。
「さて」
彼女の目が会場全体を見渡す。
「先程からボクは『彼』と言い続けているが、皆さぞ気になっている事だろう。『彼』の存在を
彼女はどこか楽しそうに笑っていた。
――その笑顔は、何かを企んでいる時に見せる笑顔だ。
「実はこの会場に『彼』が来ているんだよ」
瞬間、会場がざわめき始める。
「会場に?」
「あの【魔女】にあれだけ言わせたのだ。となると会長辺りか?」
「いや、彼とは犬猿の仲だろう。やはり【神童】ではないのか?」
「私は女よ」
途中で希咲を疑う声も出てきたが、それも仕方ないと言えば仕方ない。
あの【魔女】と仲が良く、そして頭脳も近しいとなればまず最初に思い浮かぶ存在だろう。……本人が否定している通り、性別が違うが。
希咲から視線を舞台へと向けると――赤い瞳と目が合った。
「という事でイズ、舞台に上がってくれ」
……この為に講演会に来てと言われたのか。一本取られたな。
「ああ、今行くよ」
そう小さく返して立ち上がると、隣で希咲が満足そうに微笑んだのだった。
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