第17話

「今日は どうしたの?」


 いきなり訪問してきた、かなえとイリヤに冷蔵庫からペットボトルのジュースを取り出す多香緒。

 かなえは、受け取った時にペコリとして座る。


「いや 明日から ステージが変わるっしょ

ねーイリヤ ??」


 イリヤの方を、見るかなえ。


「ねぇ これってシャワー浴びてる間って他の人はトイレ使えないよね」


 あくまでも、マイペースなイリヤ。


「あっ うん」


 ファミリー用の間取りではない。


「ちょっと イリヤ」


 話に、水をさされてイラッとするかなえ。


「はいさ」


 キョトンという顔のイリヤ。


「今ね 大切な話をしていたのよ」


 口角を、上げて話すかなえ。


「そりゃあどうも」


 軽く、敬礼するイリヤ。

 ようやく、座って落ち着く。


「でさ 1週間で6ステージが 1ステージになってさ ウチはバイトを増やさないといけなくなってね」


 かなえは、どうやらお金の悩みを話す為に多香緒のもとに来たようだ。


「えっ ユーチューブの収入は どうなったの ??」


 小学校の頃は、多香緒より収入はあったはずなのだが、それ以来そういう込み入った会話にはなっていない。


「それじゃあ まかないきれないほど お金が出てるからさ」


 どうやら、動画の収入は増えていないが衣装にお金をかけて出る方が多いみたいだ。


「そっか 切実な問題よね」


 幼い頃から、人に見られる仕事をしてきた宿命なのだろう。


「多香緒は 大丈夫なの? バイトしてるって聞かないけど ??」


 ようやく、本題に入れたかなえ。


「あぁ 大丈夫よ」


 そこは、あまりつっこまれたくない多香緒。


「お母さんと 仲直りしたとか ??」


 かなえは、多香緒の母親がヤバいことを知っている。


「いや それはまだ」


 苦笑いする多香緒。


「もしかして ウリとかやっていたりしないの ??」


 やたら、隠すのでズバリ聞く。


「いや 違うよ

新しい パパが 家賃とか色々出してくれるからね」


 母親の、再再婚相手が出してくれたと話す多香緒。


「イイなぁ ウチのママもイイ男捕まえればイイのに」


 思わず、唇を尖らせるかなえ。


「そうよね

小6の時に 離婚したっきりなのかな ??」


 せっかくの機会に、普段聞けないことを聞いてみる多香緒。


「うん そうそう

イリヤのとこは どうなの ??」


 イリヤに、話をふるかなえ。


「うん パパが死んで その時に色々 お金が入って来たから なんとかやっていけてるよ」


 勤務中の、不慮の事故死だった。


「亡くなってたんだ ??」


 かなえは、イリヤの家のことをあまり知らないので、申し訳なさげに言う。


「うん そうだよ」


 気を使わせないように、ニッコリ笑うイリヤ。


「そっかぁ」


 なんだか、しんみりとなる空気。


ガタッ


「えっ なんの音? ベランダに誰かいるの ??」


 わずかに、人影も見えたので立ち上がるかなえ。


「えっ いや

いないよ 誰も」


 窓の方に、サッと動く多香緒。


「あやしいなぁ」


 いぶかしがるかなえ。


「ホントに 誰もいないから」


 両手を振る多香緒。


「じゃあ 見せてよ」


「いやぁ」


「イリヤ お願い

多香緒を押さえて」


 イリヤに、指示を出すかなえ。


「はいさ」


 多香緒を、羽交い締めにして動きを封じるイリヤ。


「ちょー

ダメだってば」


 勢いよく、開かれるカーテン。


「あーっ」


「なにぃ」


「って 誰もいないじゃないの」


 かなえの、目線の先にはボロい洗濯機が1台。


「え………」


 多香緒自身も、どうなったのかわからない。


「洗濯機の裏! にも誰もいない」


「はぁ

そうよ誰もいないに決まってるじゃない」


 取り繕う多香緒。


「洗濯機の中にもいないか」


 一応、確認するかなえ。


「そりゃあそうよ」


 冷や汗が出る多香緒。

 あのモンスターのような女は、どこに行ったのだろう。


「なーんだ 男でもいるんじゃないかと思ったんだけどなぁ」


 残念がるかなえ。


「どうして

なんで そう思ったのよ」


 苦笑いする多香緒。


「だって ラウンドアバウトの的!」


 多香緒が、銃の練習に使うのが出しっぱなしだ。


「ギクッ」


「それにBB弾!」


 かなえが、つまんで見せる。

 床に、落ちていた。


「ギクギクッ」


「多香緒が 使っているって可能性もあるよね」


 冷静に、見るイリヤ。


「あーなる」

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タカオタカオの奇行(2)(仮) なばば☆ @bananabanana1E

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