第15話 とある幹部のミイラ探し ~???視点~

*ジャックが右腕を回収して、?ヶ月後の???視点です。


――――――――――――――――――――


 この村が呪われている。そんな噂を聞きつけたのは、数日前のことだ。


 トイラ。ウエスト・ハシーンの辺境にある村で、これといって特筆するものはない。


 しかし、こういう場所にこそ、あの方のご遺体が眠っている。


 小屋で馬を預けた際、主に聞いてみた。


「この村に近づかない方が良い場所があったりしますか?」


「ああ。それなら、村の東の方にありますよ」


「そうですか。ちなみに、ご主人は『青い鳥の宝探し』という童話をご存じですか?」


「それくらい知ってるよ。地域によって、宝物の中身が違うんだよな?」


「そうです。私はその違いを聞くのが趣味でして、この地域では、何が見つかると言われているんですか?」


「ダイヤモンドです」


「……そうですか。ありがとうございます」


 ダイヤモンドということは右腕か。人除けされている場所もあるみたいだし、ここに右腕がある確率はかなり高いな。


 今は回収するつもりはないが、確認だけはしておこう。


 俺は主に礼を言い、小屋を後にした。


 村を歩いてみる。


 そして、違和感に気づく。


 噂だとこの村は呪われているらしいが、そんな雰囲気はない。


 村人の顔は明るく、牧歌的だった。


「ねぇ、あなた、旅の人かしら?」


 女の声がしたので振り返り、「ぎゃっ」と悲鳴を上げてしまった。


 化粧が濃い不気味な少女が立っていた。


 少女は俺の態度が不服だったのか、ムッとした表情で俺を睨む。


「レディを見て驚くなんて失礼しちゃうわね」


「レ、レディ?」


「すみません!」と少女の弟思しき二人組がやってきて、少女の代わりに頭を下げる。


「姉ちゃんは、ちょっと変わっている人でして、悪気はないので許してください」


「変わっているってどういうこと? 俺……じゃなかった。あたしは普通だよ」


「いや、べつに怒ってはいない。ただ、少し驚いただけだ。それにしても、どうしてそんな化粧をしているんだ?」


「素敵でしょ?」


「……」


「姉ちゃん、この前、都会の男の人にナンパされたのがとても嬉しかったらしく、それからはこんな調子なんです」


「な、なるほど」


「あの、正直に教えていただきたいのですが、この化粧は、都会でも変ですよね?」


 確かに変ではある。


 しかしだからこそ、指摘はしない。


 その姿で都会に行って、恥を掻けばいい。


 その方が私にとって面白いことになる。


「いや、そんなことはない。とても魅力的だよ」


「ほらね! やっぱり、あたしはレディなんだよ」


「マジか。都会の人って、何を考えているかわかんないな」


「なー」


 少女は胸を張り、弟たちは顔を見合わせる。


 仲睦まじい姉弟のようだが、彼女たちの相手をしている暇はない。


「すまない。この辺りで住人が入ることを禁じられているような場所はあるかい?」


「それなら、あの小屋のことね」


「案内してくれないか?」


「あそこは、入るのを禁じられているけど」


「うん。だから、遠くから見るだけ」


 三人に件の小屋まで案内してもらう。


 遠くから小屋を眺めたところ、確かに何かがありそうな建物だった。


「ねぇねぇ、旅人さん。都会ってどんなところなの?」


「本当に姉ちゃんみたいなのがいる場所なの?」


 目的の場所を見つけたのは良いものの、少女たちがうるさくてじっくり観察できない。


 これだから田舎者は困る。黙って、どっか行けばいいのに。


 彼女たちが邪魔なので、いったん、その場から離れることにした。


 ――その日の夜。


 俺は小屋の内部に入った。


 小屋には井戸があって、蓋がされていた。


 蓋を外して中に入る。


 ひんやりと肌寒い岩の通路が奥に続いていた。


 下級の炎魔法を使って、人差し指の先に炎を灯す。


 その明かりを頼りに奥へ進むと、女の石像があった。


 石像には、無数のヒビが入っていた。とくに、胸から額にかけてのヒビが大きい。


 一見で理解する。


 あの石像の中に、あの方の遺体が封印されている。その石像からは禍々しい邪気みたいなものを感じた。


 今日は回収しないが、中にあるものだけは確認しておこう。


 石像に近づき、違和感を覚える。


 何か、臭い。


 もしかしたら、あの方の遺体が、異臭を放つほどに傷んでいるのかもしれない。


 いずれにせよ、一度確認した方が良さそうだ。


 炎魔法で石像を破壊した瞬間、脳天を突くような異臭に襲われ――目の前が真っ暗になった。

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