第13話 精神世界にて ~邪神の魂視点~

*邪神の魂視点です。


――――――――――――――――――――


 懐かしい感覚。


 この温もりは……人間のそれか。


 目の前に阿呆が立っていた。


 我を見て、間抜け面に磨きがかかる。


「あの、誰ですか? 何で、俺の姿をしているんですか?」


「口を慎め、小僧。我は、貴様が気安く話しかけて良い存在ではない」


「邪神ですか?」


「邪神、ではない。我を表現する言葉を人間は持たぬ」


「……なるほど。で、俺に何の用ですか?」


「光栄に思え。今から、貴様の体は我のモノになる」


「嫌ですけど」


「拒否権はない」


「そもそも、俺の体は止めておいた方がいいですよ。臭いし」


「ふん。この力のことか。この力は……我にふさわしい」


「え」


「それに、我ならこの力を十二分に引き出すことができる」


「いや、無理じゃないですか。だって、あなたにはその臭いがわからないでしょ? わからないものをどうやって理解するんですか?」


「侮るな、小僧! 我にはわかる。我は……貴様だからな」


「いや、俺はあなたじゃないですし、無理ですよ」


「何度も言わせるなよ、小僧! 我が貴様になるのも時間の問題だ。なぜなら、貴様の肉体は我のモノだからな。あとは精神さえ奪えば、我は貴様になる」


「……へぇ。肉体はすでに俺なんですか?」


「くどい。何度も言わせるな」


「なら、俺と勝負しませんか? 負けた方は勝った方の言うことを何でも聞く。それであんたは、俺の意識を奪えばいい」


「何? なぜ、我が貴様の戯れに付きあう必要がある」


「怖いんですか? 偉そうに振舞っていますけど、口だけの存在なんですね」


「……良いだろう。あえて、その挑発に乗ってやる。そして、思い知るがいい。いかに自分が愚かであったかを」


「決まりですね。それじゃあ、勝負の方法なんですけど」


「先に相手を殺した方が勝ち。それでどうだ?」


「……いいですよ」


 阿呆は思案した後に頷く。


 馬鹿め。どんな計略を立てようとも、無駄だ。


 人間如きが、かつてこの世界に混沌をもたらした我に勝てるわけがない。


 ふんっ。この体は貰った。


「それじゃあ、今からコインを弾きます。コインが地面についたのを合図に、戦闘開始ということで」


「よかろう」


 阿呆が、親指の上にコインを置き、弾いた。


 金色の軌跡を描きながらコインは舞い、地面に落ちる。


 ――瞬間。我は阿呆の背後に立った。


 鈍重!


 それで我に勝とうなど笑止千万!


 その愚かな首、斬り落としてくれる!


 我が手刀を振り上げたとき、我は膝をついていた。


 ――な、何が起こった!?


 体が動かんぞっ!?


 そ、それに何だこの強烈な臭いは、呼吸をするたびにダメージを受けている!?


 阿呆が振り返って、不敵な笑みを浮かべた。


「ぐっ、貴様、我に何をしたっ!?」


「あんたみたいなやつは、俺の背後に立って攻撃してくると相場が決まっているのでね。先に手を――いや、屁を撃たせてもらったよ」


「へ、屁だとっ!? 馬鹿な、屁ごときで我が。それに、貴様の体は、自分の力に慣れているはず」


「屁、と言っても、それはお前が想像するそれとは少し違う。【厄臭】を凝縮させた空気のことを便宜的に『屁』と呼んでいる。くくっ、俺はこう見えてギャグ漫画とかが好きなんでね。そして、俺はいくら自分の臭いに慣れているとはいえ、それにも限りがあって、あまりにも臭すぎると、体調を崩してしまう。だから、その一発を、俺の体を模倣しているお前に浴びせてやったというわけだ」


「ぐぅぅぅぅぅ。このお下劣野郎がっ! 貴様、こんな形で我を愚弄して、どうなるのかわかっているのか!?」


「知らん。そもそも、そんなことどうでもいいだろう? だって、あんたは、これから俺のいうことを聞くだけの存在になるのだから」


 阿呆の周りに風が渦巻く。


 や、やばい!?


「これから長い付き合いになる。だから、これだけは覚えておけ。俺は目的のためなら恥も外聞も無い」


「ま、待て。はな――」

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