第12話 死亡フラグ『邪神の復活』
『それ俺』のAルートでは、闇の組織が復活させた邪神によって世界が滅ぶ。
つまり、『邪神の復活』は、この世界において死亡フラグになりうる。
そして、その邪神の復活に必要なアイテム『邪神の右腕』が、この村の近くに眠っていた。
ゲームだと、闇の組織の動きに気づいた主人公たちがこの村までは辿り着くも、闇の組織に先を越されてしまい、結局手に入れることができなかった。
しかし今の俺なら、時系列的にも余裕でそのアイテムを手に入れることができる。
また、闇の組織よりも先にそのアイテムを獲得できれば、死神の復活フラグを事前に回避することができる。
問題はこの村のどこに邪神の右腕があるかだ。
「あの、ジャック様」
「どうした?」
「何だかこの場所、薄気味悪いのですが」
「……そうだな。でも、少しだけ辛抱してくれ。用はすぐに済ませる」
「はい」
とりあえず、小屋にハシリドリを預けることにした。
小屋に入ると、青白い顔の主が俺たちを迎える。
「こんにちわ、旅人さん。ごほっ。そのハシリドリを預けるつもりかい?」
「はい。お願いしてもいいですか?」
「ああ、だい、ごほごほっ、大丈夫、だよ」
「それじゃあ、お願いします」
体調が心配な主にハシリドリを任せ、俺たちは街の中を歩いた。
モーブも二日酔いで体調が優れないらしいので、俺とルナだけで村を歩く。
トイラは、重苦しい空気が漂う街だった。
空には青空が広がっているのに、住人たちの顔は暗い。
風邪をひいている人が多く、そこかしこから咳が聞こえる。
ゲームでは、この状態を『呪い』と表現していた。
ルナの表情も曇っていくし、さっさと目的のブツを見つけた方が良さそうだ。
ゲームだと、探している途中に『邪神の右腕』に呪われた村娘が『邪神巫女』として出現し、バトルになる。
その際、彼女が右腕をどこで手に入れたかについては語られていない。
だから、自力で見つける必要がある。
そんなときのための魔法をシルフィから教わっている。
俺は、『風水鑑定』を発動した。
これによって、空気の穢れを視覚化できる。
この魔法を通して見る世界は、黒い霧に覆われていた。
やはり、良くないものがこの街の空気に混じっている。
発生源をたどれば、そこに邪神の右腕があるはずだ。
ちなみに、この目を使って、自分の姿を見ると、某推理漫画の真犯人みたいに真っ黒だ。
霧が濃くなる方へ進んでいくと、村の外れにやってきた。
視線の先に、小屋と思しき古びた建物があって、そこが発生源になっているみたいだ。
俺がその小屋へ進もうとしたところで、疲れた表情の少女に声を掛けられる。
「ごほごほっ。旅人さん。その先は行かないほうがいいよ」
「どうしてですか?」
「わかんないけど、こほっ、昔からそう言われているみたい。とくに、ごほっ、あの小屋が危険なんだって」
「なるほど。でも、その言葉を皆が守った結果、あの小屋はボロボロで、良くないものが溢れ出るようになっています」
「わかるの?」
「ええ、まぁ。そういうのに強い上級精霊と契約したんで」
「やはり、そうか。いや、俺は、最近の村の不調は、あれが原因なんじゃないかって思ってたんだ。でも、ごほっ、誰も俺の話を聞いてくれなくて。皆、あれには関わりたくないみたい。こほこほっ。村長に相談して、教会の人間に見てもらうように言ったんだけど、全然対応してくれなくて」
「……へぇ」
「旅人さん。こほっ、申し訳ないけど、見てきてくれないか? 数か月前にこの辺で、地震があってから、おかしくなり始めたんだ」
「はい。もとより、そのつもりで来たので」
「よろしく!」
少女に見守れながら、俺たちは小屋まで進み、中に入った。
そこには井戸があって、蓋が外れ、そこから黒い霧が溢れ出ていた。
地震のせいで蓋がずれてしまったのかもしれない。
俺は井戸に近づき、『風の報せ』を発動する。
この魔法は、地形や魔物の位置などを把握するのに役立つ魔法で、原理的には魚群探知機に近い。反射された風で全体的な構造を把握する。
しばらくこの魔法を発動し、中の構造と魔物の存在を探る。
そして、わかった。
この井戸を降りると、洞窟めいた通路があって、その通路の先に石像がある。魔物はいない。
「よし。じゃあ、俺は一人で行ってくるから、ルナはここで待っていてくれ」
「嫌です」
「え」
「私もついていきます。何だか悪い予感がするので、ジャック様を一人にではできません」
「いや、でも」
――その子の言う通り。その先にあるのは、とても危険なものよ。
――シルフィさん? 何で? まさか、俺のことを監視しているんですか?
――ええ、もちろん。というのは冗談で、あなたが発動した『風の報せ』で良くないものを感知したみたいだから、それについて連絡しておこうと思って。一応、あなたの魔法の使用状況なんかは、私も把握できるようになっているのよ。
――そうなんですね。ちなみに、良くないものって、『邪神の右腕』ですよね?
――あら? 知っていたの? さすがね。それとわかっていて、先に進もうとしているの?
――はい。今、対処しなければ、後々まずいことになるので。
――そう。なら、止はしないわ。安心して。フォローはしてあげる。
――ありがとうございます。
風が優しく俺の頬を撫でた。きっとシルフィの手だろう。
シルフィは納得してくれたけど、隣にいるルナは、納得していない様子。意地でもついてくるように見えた。
まぁ、魔物とかもいないし、危険なトラップとかも無いみたいなので、ついてくるだけなら問題ないか。
「……わかった。でも、俺のそばから離れるなよ?」
「はい!」
念のため、空気の層を彼女にも張って、お姫様抱っこで持ち上げる。
「ちょ、ちょっと! ジャック様!」
「何?」
「いや、これ、えっ」
「大丈夫。羽毛みたいだぜ」
「それは逆に私のことを馬鹿にしていませんか!」
「いいから、いくよ」
俺はそのまま井戸に飛び込み、底に着地する。
不満そうに顔を赤くしていたルナも、異変に気付き、青い顔を通路の奥に向ける。
そこから溢れ出る禍々しい妖気を彼女も感じ取ったようだ。
彼女を下ろし、俺が先導する形で通路の先に進むと、そこに成人女性の石像があった。
胸から額に掛けて亀裂が入り、そこから黒い霧が噴出していた。
風の塊をぶつけて、石像を壊す。
すると、中に隠されていたブツが露わになった。
『邪神の右腕』だ。浅黒く変色したミイラの手が天に向かって伸びていた。
俺がその手に触れようとしたところで、その手をルナに捕まれる。
「ジャック様! これは、触らない方が」
「大丈夫」
不安そうなルナの手をそっと放す。
俺にはこの後に起こることがわかっていた。
邪神のミイラに触れると、精神世界に引き込まれ、ミイラに宿る邪神の魂との戦闘になる。
そこで敗北したら、邪神の魂に体を乗っ取られるのだが、恐れる必要はない。
邪神の魂に関しては攻略法が確立されているし、すでにその準備ができているからだ。
だから、負ける気がしなかったので、迷いなく手に触れた。
――瞬間。目の前が真っ暗になった。
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