第11話 帰り道にて

 ルナの死亡フラグを確信し、ショックを受ける俺。


 ここまで世話になったからこそ、彼女には長生きしてほしい。


 が、よく考えたら、そのフラグを回収するのは、他でもないこの俺だ。


 だから、俺が変な気さえ起こさなければ、彼女は死ぬことは無い……はず。


 そうだよな? 死神の皆さん。そうだと言ってくれ!


「あの、ジャック様。その、ずいぶんとスマートになられましたね」


「ああ。それが精霊との契約条件だったから。変かな?」


「そんなことは全然ないです! むしろ、カッコいいです」


「え?」


「あ、いや、そうじゃなくて、客観的な事実に基づいて、感想を述べただけです!」


「そうか。ありがとう」


 ルナは照れながら必死に答える。ふふっ、可愛い奴め。その姿を見ると、彼女が年相応の人間であることがわかる。


 こういう平和がいつまでも続けばいいのに、そう簡単にはいかないところが、世知辛い所よな。


「スキルもちゃんと克服されたんですね! 流石です!」


「まぁ、克服と言っていいかは、悩ましいところだけど、対策はちゃんとできるようになった。これも、今までルナがサポートしてくれたからだ。ありがとう」


「いえ、こちらこそありがとうございます! それで、あの……」


 と言いかけ、彼女は口もごった。


 何か言いたいことがあるらしいので、俺は彼女の言葉を待つ。


 しかし彼女は、その言葉を口にすることは無く、苦笑を浮かべて言った。


「すみません。何でもないです」


「……ん。そうか」


「それでこれからどうしますか?」


「そうだなぁ。とりあえず、帰るか」


「そうですね」


 帰る前に、村長へ感謝を伝えに言ったら、幽霊が現れたかの如く驚かれた。


 帰りが遅いから、死んだと思っていたに違いない。


 前世の同窓会でも、俺は死んだことになっていたし、そういう扱いには慣れているから、いちいち目くじらを立てたりはせず、大人の対応をした。


 ルナが宿泊していた宿に行ったら、モーブという警備隊員を紹介された。


 ルナから話は聞いていたが、モーブは年老いた男で、警備隊員としてどこか頼りない。


 しかし人は見かけによらないというし、いざというときは頼りになる人なのだろう。酒臭いけど。


 そして、父親が用意してくれたというハシリドリに乗って帰ることにした。


 ハシリドリは、ダチョウみたいな見た目の鳥で、ダチョウよりも首が太く、気性が穏やかだった。


 そのためこの世界では、馬と同じくらい、移動手段として重宝されている。


 むろん、上級の風魔法を取得した俺なら、空を飛んで帰るくらいのことはできるのだが、せっかくだし、この世界の空気を味わうことにした。


 ハシリドリに揺られながら、山道を歩く。


 来るときは、臭いが原因で動物を利用できなかったら、帰りは楽ちんだ。


「父さんは、俺が勝手に出て行ったこと、あんまり怒っていなかったの?」


「はい。と言っても、直接お話ししたわけではないので、私の勘違いの可能性もありますが」


「ふぅん。何で、怒っていないかとわかる?」


「すみません。私にはわからないです」


「そうか」


 ウザいほど外出を禁止していたが、勝手に外出したらお咎めなしか。


 よくわからないな。帰ったら何かあるのかもしれないので、一応、確認しておくか。


 いずれにせよ、これからは親子として付き合っていく必要があるのだから、彼に対する理解は深めていく必要がある。


 幸いなことに、自由に行動できるようになったから、いくらでも調べようはあるだろう。


 しばらく進んでいると、分かれ道が現れた。


 どちらに進むべきかを地図で確認する。右の道に進むのが、正解のようだが、左の道の先にある村の名前に覚えがあった。


「どうかしましたか?」


「ん。この道を左に進むと、トイラって村に到着するんだけど、この村、どっかで聞いたことがあるんだよなぁ」


「何でしょう? そこまで有名な場所ではないですけど」


「何か気になるから、ちょっと行ってみるか」


「え、でも」


「いいから、行こう!」


 渋るルナを連れ、俺はトイラへ急いだ。


 トイラに到着し、俺は自分の記憶が正しかったことに気づく。


 街並みに見覚えがあった。


 ここは、『邪神の右腕』によって呪われている街だ。

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