第3話 ドワーフ英傑王

 歩く家…いいわこれ快適。デッキチェアに座ってくつろぎつつ瘴気を吸収中。

 トリセツに鑑定してもらったところ、歩く家は直接邪気を含んだ瘴気に触れるのはまずいが、少し離れていれば問題ないとわかった。

 また、魔女の魔力を吸収したことにより、少し離れていても瘴気を強力に吸い込める吸引力を習得出来たらしい…これは吸引力の衰えないサイクロンってヤツか。

 エウリュアレ…魔女として結構ヤバめだったみたい、トリセツが対処してくれなかったら今頃自分がミイラになってたかも…ガクブル。


 魔女の歩く家の中には、様々な薬草や素材、書物がところ狭しと置かれていた。書物に関しては魔法書や錬金術関連のものが大半を占めていたが、中にはこの大陸にある国々についての歴史書なんてものもあった。

 とても参考になるので薄黒いモヤの外周を回りながら、デッキで読書タイムとシャレ込んでいるところである。

 トリセツからは質問してもらえれば、お答え致しますのに…あのクソ魔女、余計な事しやがってと激おこプンスカにご立腹中である。

 

 知りたかったのは、この薄黒いモヤが広大に覆っているこの場所が一体なんだったのかである。

 魔女の歩く家にあったこの大陸の国々についての歴史書を読むと、大陸の名前はボアダム大陸。そして今いる場所はボアダム大陸の中心ということであった。

 元々この場所には、栄華を極めたドワーフ族のドベルグ王国が存在していたと記されている。

 それがなぜ、邪気を含んだ瘴気に覆われる事になってしまったかについても歴史書には記されていた。

 ボアダム大陸の中心にあったドワーフ族のドベルグ王国は、英傑王ヴァンダルによって治められていて、ドワーフロックと呼ばれる巨大な一枚岩の上に堅牢な城塞都市を築いていた。

 一枚岩の中にも縦横無尽に穴が掘られていて、迷路の様に入り組んだ構造になっていたらしい。

 元々ドワーフ族はあまり外に出ることがない。単一種族主義という訳ではないが、堅牢な城塞は難攻不落と言われ、長い歴史の中で様々な他種族国家に攻められて様とも1度も陥落した事がなかった。


 大陸の中心にドワーフ族が長く居座っていることをよく思わない国家も多く、その最たるがヒューマン族の一種であるホワイトヒューマンのヴァイス大聖国である。

 単一種族至上主義を教義とするヴァイス大聖国は、ホワイトヒューマンのみが階級社会の頂点にあり、それ以外の種族は従属か隸属のみ許されると定めている…ずいぶんと高慢ちきな国家だこと。

 だいたい、御大層な大義名分を掲げている時点で胡散臭いことこの上ない。ドベルグ王国に何度も討伐軍を差し向けているが、ことごとく退けられたようだ。これだけ執念を燃やすのは、物流の重要拠点とドワーフ族の高度な鍛冶能力を自らの勢力下に置きたい、という利己的な考えが見え透いているよね。


 武力で押さえ込めないと判断したヴァイス大聖国は、ドワーフ族の弱点を突くことにした。

 ドワーフ族の弱点…それは酒だ。普段は屈強で優れた匠であるドワーフなのだが、酒となるとだらしなくなる。毒耐性も持ち合わせていることから、酒に警戒するということがなかったのであろう。

 ドベルグ王国の建国祭に合わせて、ヴァイス大聖国の子飼いの商人によって持ち込まれたアルコール度数の高い、強い酒に毒耐性無効効果を付与した毒が仕込まれているとは誰も疑わなかったのである。


 毒によりバタバタと倒れていくドワーフ族、それを玉座で自らも毒に侵されながら見ていた英傑王ヴァンダルは、戦場でいつも共にあったドワーフの宝剣を床に突き刺すと、

「おのれ…自分らの思い通りにならぬと、この様な卑劣な手段を取るヴァイス大聖国なんぞに、神聖なドワーフロックは絶対に渡さん。例えこの地が未来永劫、呪われようとな!

 大事な酒を汚されたドワーフの恨み、思い知るがよい。種族の違いや肌の色の違いで優劣を決めつける貴様らの思い通りにはさせぬわ!」

 そう言うと英傑王ヴァンダルは毒に侵された自らの魔素を宝剣へと注ぎ込む、すると宝剣は汚された魔素により魔剣へと変貌した。

 魔剣から放出されるドワーフの恨みのこもった魔素は、邪気を含むとどす黒く変色し瞬く間に城塞都市を覆う。呪われた土地となったドワーフロックは生きる者を寄せ付けず、魔剣から放出される瘴気は途絶える事がなく、その範囲を今も拡大させ続けているのだ…ドワーフの酒の恨みスゲー。


 これによりヴァイス大聖国の野望は潰え、それどころか中央から広がって行く呪われた瘴気により、各種族国はボアダム大陸の端へ端へと追いやられているのである。

 元凶のヴァイス大聖国であるが、ドベルグ王国との国境いにある谷に巨大な防壁を建設し、拡散する瘴気への障壁として、自分のところには被害が及ばぬ様に準備している。

 周辺の国々からは原因を作っておきながら、身勝手過ぎると大ひんしゅくを買っている様だ。

 この場所の薄黒いモヤってドワーフの酒の恨みで生み出されたんだ。と言うことはこのままグルグル円に沿って瘴気を吸収していると、最終的にドワーフロックにたどり着くことになりそうだ。


 ふと思いついた事があって、歴史書を閉じると歩く家の中に入る。

「トリセツ、今の魔素量で錬金術は使用可能?」

「創作するモノにもよりますが、あまり体積が大きいモノはまだ無理です」

「アルコール度数の高い、強くて旨い蒸留酒を作りたい。イメージ的には高級ウイスキーがいいかな」

「それでしたら可能です。作成致しますか?」

「お願い」

 イメージ通りの高級ウイスキーのボトルが目の前に現れる。ラベルにはたくみの文字が刷られている。トリセツ、心配りが素晴らしい。

「おお!スゴいね、ありがとう。それでボトルを割らない様に持ち運びしたいんだけど、何かいい方法あるかな?」

「無限収納に入れておけば問題ありません」

「ああ、なるほど……あれ?無限収納は魔素量不足でまだ使用出来ないって言ってなかった?」

「そんなこと言いましたか?」

「うん、彷徨う魔女エウリュアレのミイラを収納する時に言ってたよ、確か」

「…クソ魔女に無限収納の空間なんて、もったいなかったからじゃないですかね」

 おうふ…トリセツさん意外とえげつない。

「ぴゅ~ぴゅ~」

「なんで口笛?」

「私に口はありません」

「いやいや、今吹いてたよね口笛?」

「クソ魔女の家がボロいので、スキマ風が吹いたんでしょう」

 優秀なくせして、ごまかし方がベタ過ぎるよねと笑いつつ、ウイスキーのボトルを無限収納に納めたのであった。


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