「生憎の雨」
みやのことり|短編小説家
「生憎の雨」
久しぶりに帰ってくる姉の迎えに駅までついていくことが決まっていた。
前日に用意をしておくようにと言われ朝から支度をし、待っていた。
当日の朝は、なんだか憂鬱で行くか行くまいか、なんとも冴えない感じだった。
予定が決まっているという事が嫌いだった。
予定を入れられてしまうと、その1日の前後の予定も埋まってしまう気がするからだ。予定がある1週間は、なんだか落ち着かず、自分のものであって自分のものでないような気がしてくる。そわそわして落ち着かない。
姉を迎えに行く時間が迫ったが、誰も家を出る様子がなかったので、時間をつぶそうと、2階の自室に戻ると、車のエンジン音がする。
慌てて階下におり、ドアを勢いよく開けると、ちょうど、家族が家の玄関の前を車で通り過ぎるところだった。
雨が降っていた。
母が窓から顔を出し「行ってくるからね」と私に伝える。
理不尽だと思った。「家で待っていても、どうせすることなんてないんでしょ?、それなら、おまえもついてきたらいい」そう昨日誘ったのは、母だったから。
そういったことがあった手前、置いていかれたことに、ひどく腹が立ったので、近所迷惑も顧みず、大きな声で助手席から覗く母を罵倒した。
誰かに聞こえようとかまうものか。そう思った。
バタンっ乱暴にドアを閉める。
怒りに任せてなにを言ったのか覚えていない。ただ、とても汚い言葉を使って、母を罵った。
ドタドタと、音を立てて、2階の自室に戻ると、余所行きの服のまま、ベッドの上に倒れ込んで、そのまま眠ってしまった。
何時間経ったのかわからない。
閑散とした部屋にぽつんと、予定のない私がいた。
1日を無駄にしたと思った。
駐車場に車を止める音がし、やがて鉄の門扉を開く音がした。姉を迎えに行った母たちが帰ってきた。玄関のドアが開き、ドタドタと2階の私の部屋にまっすぐに向かってくる。私には、怒った表情の母が想い浮かんでいた。
朝方、近所迷惑を考えず、大声で母を酷く罵ったことを怒られるのだと思った。こどもの心のケアよりも、近所にどう思われるのか、そういったことで怒る。母は、そういう人だ。
ただ、今回のことに関しては、私も黙ってはいられなかった。徹底抗戦をする構えがあった。
この気持ちの強さは、母譲りかもしれない。
勢いよく、部屋の扉が開き、母が言葉を発した。
「さっきのあれなに?」「なにって?私もついてくって言ったよね?」
母の後ろで、父も姉も、黙ってこの状況を見ているだけだった。私と母がもめるのは、いつものことでこれは恒例行事のようなところがあったから、父も姉も「また、はじまった」というくらいの気持ちだったのだろう。
外の雨のように、長くなりそうだと感じたに違いない。
母は私を怒った顔で見ている。
私は前日、約束をしていたのに、置いていかれたことに腹が立っていたので私のほうから仕掛けた。
「お母さんが昨日言ったんだよ?あんたも来なよ?って!どうせ暇なんでしょって、だから、私はちゃんと用意をしていたし、その様子だって見ていたよね?それなのに、なんで置いてくの?」
「おまえなんて連れてくわけないだろ、最初から連れてくつもりなんてなかったよ、まったく近所迷惑に騒いでさ」
はじめから連れてくわけがなかったという言葉にカチンときた。
「意味わかんないんだけど?最初から連れてく気がないなら、なんで昨日誘ったの?そのつもりがないなら、最初から誘わないでよ?もし、この予定がなかったら、別の予定を入れてたんだから!」
そう強く言った手前、おそらく誘われてなかったとしても、私に予定なんてものはなかった。そう思ったから、不憫に思い、母は誘ったのだと思う。
「付き添いで車に乗るはずが、乗れなかった」たった、それだけのことで、これはたいした話ではないことなのに、いろんな感情がこみ上げてきた。
「どうせなら、家族みんなでって」感じの話ぶりだったから。
私だけ置いて行かれて、仲間外れみたいで悲しかったから
なんだ、私は乗ってかなくていいんだ?
家族じゃないんだ?
私が乗っていないことにすら、気づかなかったのかな?とか
いろんな想いが巡っていた。
家族として存在を軽んじられたことが悔しかったし
置いてかれたことが、なにより悲しかった。
感情がこみ上げてきた私は泣きながら怒った。
「私も行くって!約束したじゃない!約束・・」
一気に感情のボルテージがあがり、嗚咽した。
感情が高ぶって、体の震えが止まらない。
過呼吸になって、息ができなくなって
意識が遠のいた。
「・・・・・・・・・」
穏やかな朝の日差しが差し込み
目が覚めた。
今日は家族の命日だった。
BGM:Petrichor/「雨のパレード」
https://youtu.be/YKo7giJyUbk
「生憎の雨」 みやのことり|短編小説家 @kotori_1019
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