第5話:最終回

 売却できない廃屋達。

 無数の物語と分起点を担う異空間交流。

 無数のパラレルワールド。


 そこへ干渉できるようになった来道烏ふるすせきせいの過去が明かされる。



 -離れたい



 シャドーボクシングばかりしていた高校時代。

 来道烏ふるすせきせいはかつて格闘技をしていた。

 小学生の頃にSNSでネットリンチにあい、人間不信になった。

 更に自己肯定感を高めるといったやり方で語気が強く、主語が大きいが誰も助けず自身の利益のために頭の弱い人間から金を捲揚げる弱者ビジネスにも心を痛めていた。



 この地方都市でもそんな馬鹿な奴らが多くひしめきあっていて、そいつら一人一人を殴らないために客観性を失わず空を殴る。

 良い運動にもなったし、おかげで腹筋の形においては誰にも負けなくなった。



 高校時代では皆が未だに希望を語る。

 大体似たような夢を皆、経験が違うのを利用してオリジナリティを気取っている。


 烏はその人間関係を降りたくて、ずっと住みたかったゴーストタウンにそびえる廃屋に高校卒業後住むことが出来たのだ。



「土下座なんてしなくていい!

 もうそんな時代じゃないのに。」


 管理者は困っていた。

 そこまでしてでもここへの執着を伝えないといけなかった。

 ローンはいくらか?

 ルールは何なのか?


「う~~ん。

 お金が足りないからともう二度と来ないだろう買い手を手放したくはないなあ。

 仕方ない。

 少しずつでいいから、ある程度君が買取料を払ってくれるのなら主人でいいよ。

 けれど、家具の用意とかはこのままで大分不便な生活になっちゃうけど…WiFiとかいるでしょ?

 そういうのもないけれどいいのかい?」



 烏は喜んで頷いた。

 変わった人なのはもう既にこの廃屋に住みたいと頭を下げてから印象づけられている。


 WiFiがないとリモート的な仕事は流石に出来ないか。

 かといってこんなゴーストタウンで出来る仕事なんてたかが知れてる。

 別に労働に来たわけでは無いが。


 しかし管理者は気を遣ってくださったのか、WiFiは後に用意してくださった。

 リモートで出来るバイトがあれば使うし、ないならないでこの身体を使うだけだが。


 それから管理者からあるミッションを達成して欲しいとも頼まれている。



「夜に現れるケモノを倒して欲しい。」


 と。

 烏の肉体美が相当良かったから本来はお願いされない頼みも引き受けた。


 そして、夜な夜な表れる類人猿型のケモノをいつも倒しているのだった。


 そうして生活を送っているうちに烏はこの世から隠居していた。

 世を捨てざるを得ないから。



「あのぉ、管理者さん居ますか?」



 懐かしい声だ。

 秘密を守るように伝えた、かつてここへ侵入したモデル姿の男子高校生がやってきた。



「何の用だ。」



「じつは…」



 彼の名は遮沸偶奇まこうきほりっく

 モデル業を行う二〇二三年時点で高校三年生の男子。

 ここを心霊スポットと思ったのか侵入して撮影されたのを烏が入念に消したのだ。

 それからここで見たことを言わせないように秘密を守らせていた。

 勿論タダではなかった。



「またアンチに虐められたのか?」



 彼はこくりと頷く。

 あれから彼の友人ともコンタクトをとり、烏は他に再生数だけなら稼げそうな心霊スポットを教えた。

 今時簡単に登録者は増えない。

 もうSNSを発信しても儲け話にはならない。

 それを皆に伝え、今後どうすればインターネットでの事業を食い繋げるかもみなで話しているうちに烏は彼らの良き先輩になった。



 モデル業で彼女と精一杯の人生を楽しむ彼やその友人達を烏はいつの間にか守りたくてしょうが無かった。



「今日はお前の学校で張り込みをする。

 それと…もう隠し事は増える一方だ。

 ちょいと見せてやる。

 この廃屋の秘密を。 」


 彼の前で手品のように空間に手を突っ込んで、本来なら誰も見ることがない隣合わせの廃屋の主、ニーダス、ミーダスを引っ張り出した。


「おいおい。

 俺達を急に引っ張ってどうするんだ!」


「何も金に関して干渉してないけれど。」


 烏は二人に彼の張り込みを頼んだ。

 人的なやり方では限度があったから。


「お前ら、俺が合図したら…」




 -偶奇の高校にて



 あの人に頼んじゃったけれど大丈夫かなあ。

 彼の対峙した時に発生する圧力はかなりのもので、そりゃ自分が見えない所かつ未だに不思議だけどゴリラを倒せるだけあるし、彼が偶奇を見張って秘密をばらさないように張り込まれているうちに説得してたら友人達が話しかけに来て、今じゃすっかり先輩。


 たまにやってくる高校内のアンチやからかいに来る野次馬に偶奇が襲われる度に立ち振る舞いだけで追い払える力がある。



 怖いよね。

 彼に嫌われるタイプの人間じゃなくて良かったとつくづく思う。



 だが今度の敵は複数のヤンキーチックな人間だった。

 これはやばい!


 先輩はまだ来ないのか?

 くそっ!無抵抗のままでは良くない!

 でも暴力には頼れない!


 すると謎のモンスター…この前、彼に見させられた者達が預かり知らぬ力でヤンキーチックな人達を倒した。

 綺麗な峰打ちで思ったよりも平和に解決した。



「いちばん怖いのは烏だよ。

 ああ、君は名前知らなかったのか。

 あんなに仲良さそうだったのに。

 彼の名前を明かしたのは、ちょっとした憂さ晴らし。

 」


「あ、ありがとうございます。」


「え?礼を言ってくれるの?

 初めてだ。

 なら、また協力するよ。」


 そういってモンスター達は去っていった。


 なんだよ。

 あっさりと脅威は消えた。


 その後、自分達がSNSに晒されることは無くなった。

 代わりに自分達が目立つ行為を間違えてしてしまった時には怪奇現象が起きるらしい。

 今時心霊写真はないけれど、端末が真っ先に壊れるとか。

 なんか、これっていい事なのかな?

 偶奇はそうはいいつつも彼女と待ち合わせていた場所に集合し、デートを続けるのだった。





 -烏の世界



 烏は海の家で焼きそばを作っていた。

 もう一通りの料理は作れてしまう。

 腕っ節の強さからか店員達とも無駄なコミュニケーションは取らなくていい。


 その姿を見ていた七時あらかたとエトランゼ。



「烏もすっかり現代に適応しておるのぉ。

 ソレガシ達のようなリッチな生活には程遠いがなあ。」



「よせエトランゼ。

 同い年のああいう現実との折り合いは、頼もしいからな。

 からかうな。」



「こんな廃屋を気に入る酔狂な存在がこうして何度も現れるのだ。

 物語が生まれぬはずはない。」



「まだ知らない物語もあって、次々とその主がここにも来るかもしれないのか。

 格闘家で良かったと思える瞬間だ。」




 あなたのそばにもこんな噂はありませんか?


「売却できぬ廃屋」


 の噂を。

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売却できぬ廃屋 釣ール @pixixy1O

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