第4話:どこから

 少しだけここまでのあらすじを紹介

 十九歳、七時得房あらかたときふさはかつてプチテーマパークと言われた現在ゴーストタウンにある廃屋をリノベし、主となった。

 そこでエトランゼという人外が現れ、この世界に存在しているこの地点と変わらぬ廃屋の空間をパラレルワールドを観賞することに。


 そこで別の世界で廃屋を無許可で利用しようとした男子高校生達がこの世界線での廃屋の主、せきせいによって軽く暴力を振るわれここで起きたケモノに襲われたこと、自分のことを忘却するよう男子高校生に約束。


 それからニーダス、ミーダスと呼ばれるモンスターが主の世界と烏の世界が繋がりを持ち、ニーダス達が廃屋内に潜入する人間から掠めとった金銭が烏の世界にも現れることが発覚。

 それをニーダスの世界で現金にして解決した烏は


「場合によっては似た世界への干渉が出来ること」を七時にも警告するかのようにトラブルを解決させた。


 すっかり烏が主人公のようだがこの物語を含めて「売却されぬ廃屋」は二話。

 ここにきて、ある世界の廃屋でまた何かが起こるのだが…。



 自衛



 周辺がゴーストタウンで買い手がつかない廃屋。

 そんな場所に住もうなんて物好き、俺しかいないっしょ。



 龍寿室公りゅどらねはりは高卒社会人として特に稼ぎもないのを自覚しながらくたびれないように身体を鍛えていた。

 多分二人相手なら倒せるかもしれない。

 喧嘩ではどういう風に対処してたっけ?

 まあ強さなんて人間であるならたかが知れているし、端的に言えばこの廃屋を自分で改築するぐらいのパワーはあるってことか。


 一時期貯金が押されていて、特に金の使い道もないと欲がなかった中学生活を送っていたが高校生最後になって謎の病が一般化されつつあって一時的に大混乱にあった。

 それも上手いこと乗り越えてやっと手にした。


 アパートやマンションを借りるのも良かったがあの会社でずっと食っていくつもりもなかったし、思ったより社会人は大卒でも金はない。


 人間の欲望には際限がないらしいが、長い無趣味の時間によって積み重なった金は今こうして快適な二十代前半の生活を享受できつつある。


 いくらゴーストタウンにいるからってこの土地のルールや倫理を守らないわけじゃないが、従えばつまらない人生を送らされることは知っている。


 前から嫌いだったんだよなあ。

 レインボーだかなんだか多様性を勝手に広めて先進的なことを潰す権威主義者のあの歪んだ教育と伝播が。


 んなもん現実に存在してねえじゃねえか!

 会社勤めで唐突な下痢に襲われて女子トイレ使えない中、上手く漏らさずに乗り越えなきゃいけない現実を無視しておいて気持ちの悪い連中だ。

 そんな性格の悪い俺はさっさと若くしてファイアー生活。

 でもサバイバルには悪くない場所で、喧嘩ふっかけれて物事を解決した後に謎の友情が喧嘩相手と芽生えて一通りのサバイバルは教わった。

 そいつは人間の弱さをぶっ壊すとか行って単身秘境へ行ってしまった。

 帰ってこないのがその証拠。

 そこから先は彼を信じることにした。


 しっかし人間関係の気持ち悪さから降りて、この廃屋を見つけた時は驚いた。

 ランニング感覚で海へ行けるし、森もある。

 サバイバルによる人間関係なら大歓迎だ。



「あの糞夫婦がぁぁぁぁ!」



 引っ越したらやってみたいことの一つとして、サンドバッグに嫌いな連中の顔を絵に描いて殴る蹴るを行うという、ストレス発散で未練を断ち切る。



「俺の好きなアーティストこけおどしておいて、急に「友達だよね?」と脅して若くして結婚したことを伝えに来やがって!

 SNSでやれ!もうブロックしてるどころか俺はアカウント持ってねえんだよ。

 こっちが年齢によって武力や暴言を使えないことを言いことに結婚生活を早口で営みまでいいやがって。

 昔はオタクトークをバカしたこともあったが羨ましかっただけだ。

 あっちの方が何千倍も面白いしマシだ。


『どの話題も言ってることとやってることって変わらないのか。

 優劣作るなんて遅れてるよね。』


 ぐらい言えや!

 はたちのつどい終わってもうすぐ過去になりつつあるがてめえらのマウントを取るためにスーツ着たんじゃねえんだよ!


 クロ◯ワさんと俺に謝りやがれクソボケウンコたれ。」



 はぁ…はぁ…はぁ…サンドバッグって結構強いんだな…脱サラ二十一歳如きじゃビクともしねえ…


 おっといい忘れていた。

 サンドバッグには恨みどころか感謝しかしてないのにバラバラになった食えない肉である人の写真に向かって一言。



「そして死ねぇぇぇぇぇ!」



 てめえらより…てめえらより最高のマイホームと余生が待っているぜ。

 そのままてめえらの子供達がお前らの面倒を見てくれる可能性が低いことを想像しながら「廃屋飯」を配信しようと用意していたら奴が立っていた。


「相変わらずゴーストタウンだからって楽しんでるねえ。

 同じホラー好きとしては興味深い。」


 うわぁぁ!

 ってお前かい!


 彼も早生まれの二十歳でファイヤーした只者ではない若者だ。

 名前は翁縄万就るどなまいつ

 彼の経歴は筋金入りで高校中退後、かつあげハンターをして報酬を受け取り、十六で地下格闘技でタイトルを獲得した後インフルエンサーと結婚。

 はたちのつどい時に

「別の世界だったら飽きない死ぬまで飽きない生活だったと思う。

 面倒な女でごめん。」

 と言われて巨万の額を支払われて離婚した過去がある。


 つまり室公にとっては「話が合うね。あと気も。」とかつてやっていたFPSゲーム仲間として親交を深めている。



「ホラーには人の恨みがつきものって考えた作家すげえよなあ。

 そういう天才だとかどうだとかくだらない感想よりシンプルでかつありそうでなかった発想をコンテンツにできる仕事があったら別の道があったかもしれねえ。嘘!無い物ねだりなんて必要ねえ!」



 全然未練が断ち切れていない!

 だが万就の前では愚痴にもならない。


「ここ、チーズフォンデュできるんだっけ?

 俺、金持ちになったばっかでよく分からないんだよ。

 そういう幸せ?というか歓びというか。」


 可哀想に見えるか?

 脱サラファイアーは今や俺達にとって、いや、この空間ですらいい選択肢だ。

 また何かあれば働くかもしれない。

 それか、前の喧嘩相手のように強い生き物を倒しに世界をめぐるかもしれない。


 それか万就みたいに波乱な人生を謳歌してやる。

 室公には無理だと分かっていても過去を懐かしむ人生なんてもうしない。



「すげえ!チョコフォンデュもあるのか?

 あのホストとかがやるような。」



「万就はここで楽しんでくれればいい。

 俺の過去の未練断ち切り儀式を楽しめるのなら尚更。

 ここにくる友人なんてお前しかいないから少しぐらい散財するさ。」


 金はファイヤーの為の資金。

 先輩達が残してくれた参考例を更新しながら生き続けていく。

 痛みを知らないディストピアの住人は誰からも相手にされない。

 俺達の関係も長く続くかは分からないが、それでもいい。



「俺たち、話題なら。」


「尽きないしなあ!」



 そこで見てる奴!

 前から気になっていたがここ空間歪んでる。


 剥がれかけの空間をめくると黒髪の若い男性が驚いていた。


「驚くのこっちだ。

 何?新手の強盗?」


 すると万就が彼の肩を掴んだ。

 しかし、彼が振りほどく。


「君、だいぶ強いじゃないか。」


 やっぱただの筋肉してないか。

 でも欲に溺れている若さとは違う。

 ちゃんとこちらを恐れている。



「ここは…整備されている?

 なら、何故俺は…。」


 この世界の住人ではない…か。

 こんな説明をされても自分達が電波に思われるかもしれないが、物理的に空間が裂けているのだ。

 それに世の中は多様的なんだろ?

 空間が歪んで別世界の誰かがいても不思議じゃない。


 しかしこちらの思惑とは違い、彼は格闘技経験があるような動きでジャンプして構える。


 万就はここは任せろと半裸になって服をこちらに渡す。


「へえ。

 ここ、噂になってるんだよね。

 俺達の世界でも。」


 だから室公は買ったのだが。

 若い男性も半裸になり、武器を持っていないことを証明した。

 何故なら、この二人の間なら余計なやり取りはいらなかったからだ。



「不法侵入?それとも強盗?俺は君より歳上だが大人気ないと評判がある。

 君が事情を話さないのなら、こっちが話させるけれど。」


 互いに不器用な人達だ。

 しかし二人は乱闘をおっぱじめる。


 空間内なら法も適用されず、怪我も治る。

 え?なんで俺達はこんなルールを知っているんだ?



 ただただ拳が皮膚を当てる音と、ガード時の音がこだまする。


 へへっ。

 人生良い事がなさすぎた。

 これぐらいの非日常、どおってこともないわあ!


 ただ万就が勝つ事をこちらは祈るばかり。


 しかし二人共強いようで長引いている。

 割って入るしかない!

 勇気を出してジャッジを下す。


「お前らやめろ!

 ここは人の家…空間がどうたらって話だが君から説明してもらえないか?

 ユーは何しにここへ?」


 彼の名はせきせい、十九歳。

 暦は共通で彼の世界も二◯二三年。

 二つ歳下か。


 廃屋の持ち主であるなら空間に入れること。

 廃屋の持ち主なら隣合う事があれば入れる事。

 廃屋の中は持ち主の色が出る事。

 廃屋の主が人間とは限らない事。


 を教わり、どうやら彼と似た世界の廃屋と繋がっている主はモンスターのようで人間の法…いや、彼の家のマナーを覚えるのに時間がかかるらしい。


 そしていつものようにその空間へ行こうとしたら室公の儀式を見て凍りついたとか。


 さっきまで万就と互角以上に戦っておきながら妙な所で年相応というか。


「君も過去は苦労ばかりのようだな。

 チーズフォンデュ好きか?」


 彼は少しだけ頷いた。

 どういう意味で頷いたのかは分からないけれど。


「ワケありなんて卑屈になる必要はない。

 人間はそうやってマイナスをゼロにするしか出来ない。

 決してプラスにはなれないんだ。

 辛い事があったら…万就を止めるから来ても良い。」


 烏は少しだけ立ち止まりながらチーズフォンデュを一本持って行って自身の空間へと戻った。



「良い腕と脚だった。

 こりゃあ、ますます飽きないな。」


「今日も…いや、俺達に予定はなかったな。」


 いつか彼の世界の廃屋について教えてもらおう。


 最も。

 それは俺達に話すことではないかもしれないけれど。


 季節外れのシャンパン(ノンアルコール)で乾杯するのだった。

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