第3話:今から

 この話は、廃屋内に住む人間関係によって荒んだ二人の人外による駄弁りと進展。



 -マイホーム



 人間が手放した元プチテーマパーク。

 自分達がなんなのかを説明しなければいけないのはちと面倒だ。


 二人組のクリーチャーかモンスター…可愛く言えば動物かな。


 ここはほぼ誰もこないゴーストタウン。

 この周辺だけみんな避けていくし、高齢化でみな外出者が少ないのさ。


 手入れはされているがいつでも売却できるように準備を持ち主の関係者がしていて不況の今で買い手がつけばすぐに手放すのかもしれない。


 人間なら許可が必要かもしれないが、自分達は勝手に住まわせてもらう。

 フィクションみたいにわざわざ悪戯なんてしないし、侵入してきたやつを食いはしない。

 脅かしはするが。



「何勝手に入ってんだお前!

 倫理観守るのはお前ら人間やねんぞ?

 こちとら正当防衛だ!

 金を渡せ金を!」


「悪いねえ。

 人間の金銭を所持していないとこっちも食っていけないからさあ。

 かといってお前らの下につくなんて万が一もあり得ないし。

 ここに入ってきたことを後悔してね。」


 殴ったりもしない。

 憑依できるからそれでさっとことを済ますのさ。



 一時的に生気の抜けた人間を追い出し、記憶も消す。



「どうだ?俺のシナリオ。

 侵入者は何故かここに惹かれ、財布を落としちまうドジをし、ここにあるとは思わないで帰っちまうってのは?」


 荒い。

 もしあの人間に善性が残っていて、少しここのことを思い出し、管理者を呼んで帰ってきたら破綻する。

 お前のシナリオはだいぶツッコミ所がある。


「だけどあいつは戻ってこない。

 失くしても大丈夫な財布を失くしただけだから。」


 そうやって稼いできた。

 塵も積もれば山となる。


 勿論、金銭が必要だけで稼ぐのは趣味じゃない。

 ただ俺達はボランティアはしない主義だ。


「人間が同じ事を繰り返す頭でよかった。

 その割には飽きない行動をしてくれるし、なんか憎めないんだよねえ。」


「俺達を恨ませることなんてあいつらには出来ないさ。

 この廃屋の存在はもう人の手からとっくに離れている。

 知ってるか?ここの廃屋について。」


 座標までは分からない。

 だがこの廃屋はあらゆる世界に存在し、場合によっては海外にも似た設定の廃屋があるらしい。

 条件が整えばそちらの物語も見られるとか。

 人も獣も蔦も鳥も地面もモンスターも何も関係なくこの場所の物語は第三者に観劇されているらしい。



「にわかには信じられんねえ。

 俺達、勘は鋭くないからなあ。」


「この廃屋の関係者すら広まっていなあ話だ。

 俺達のような存在ですら知らされているソースは信頼に値しない。」


 この話を聞くようになったのは、庭に倒れている人型の跡があったからだ。


 何もしていないのに現れた。

 そこで誰か足跡がして、今の情報を呟いて去っていった。

 廃屋内や周辺を探し回ったのにその誰かの痕跡は残っちゃいねえ。

 しかもあの匂いは人間の香りだ。


「嘘だろ?

 人間が俺たちを脅かす側に回ったのか?」


「違いねえ。

 元々ホラーなんて何百年も継承させているイカした頭の連中だ。

 ミイラ取りがミイラになる。

 怪談を話していた人間がついに超えちまったのさ。


 なあ、そこの細マッチョさんよぉ!」


 俺は手から穴の空いた空間へ衝撃波を飛ばす。


 黒い髪に鋭い目つき。

 若い男性の身体が現れる。


「こいつぁ困った。

 いるのなら人間の愚痴だけにしておくつもりだったのに。

 まさかあんたがいることに気づいていた俺を見張っていたのか?」


 空間は無数に俺達を包み、モンスターである俺達と人間とのバトルフィールドが出来上がった。


 こちらもまだ何か人間と、俺達の同類の気配を感じる。



「俺はせきえい

 名刺を忘れたからわざわざ自己紹介をした。」


「余裕の態度だねえ。

 大方このおんぼろ廃屋の持ち主か。

 この世界とは違う。


 おっと、喋らないとな。

 俺はニーダス。

 もう一人はミーダス。

 人間でいう双子と思ってもらっていい。」


 茶番的なやり取りだ。

 烏と名乗る男の話を聞こうか。

 すぐに殴れるように態勢を整えている辺り、相当な訓練を積んだ人間だからな。


「俺が倒したケモノの跡が、お前達の庭に現れたのは悪かった。

 だが、お前達が集めた小銭が俺の家から発見されて裁判沙汰になりかけている。

 記憶が消えているのは共通だが、こちらに置かれた金をそっちの世界に置いても意味がないかもしれない。」


 ほう。

 そんな共通項があるのか。

 そして大多数の世界ではここの世界の変わった持ち主は泣き寝入りし、この男のような欲はないが攻撃的な変わり者にこうして侵入されるわけだ。


「俺達殴ったって貯めた金は減らせねえよ。

 もうとっくに資本主義の時代じゃないのにお前らは食えない食えないといいながら働いてんだろう?

 好きなことで稼げず、遅れた考えに阻まれてディストピアだ。


 そんなの、俺達には関係がない。

 怒るなら金をくれ!

 ただじゃねえんだよこっちも。」


 すると彼はポケットから札束を持ちながら、こちらを恐れず頭を下げる。


「その金を俺が、この世界で両替する。

 記憶が消えているのは確かだ。

 こちらの世界では財布が何故か俺のマイホームになった廃屋に集められていた。

 それを警察に嗅ぎ回られた。

 記憶も消されているからお前達の存在は証明できない。

 この世界で両替えしてくれるのなら、穏便に済む。

 俺は…金は要らないんだ。」


 彼は空間で出来た地面を殴り、ヒビを入れる。


 多分自然な行動なんだろうが脅しか牽制に見える。

 怖い人だが法はなるべく犯したくないようだ。


「両替か。

 あんたがこの世界に侵入できると言ってもおそらくこの廃屋の中だけ。

 俺達じゃ…」


 彼は間髪入れず「近くに両替できるゲームセンターがある。この世界の廃屋周辺は俺の世界とほぼ同じだ。」


 使い方を教わってなんとか生きている人間のふりをし、小銭を少しずつ両替した。

 人の目が気になったがこれと札束を交換した。


 なんの意味があるのかわからないがこれで解決か。


「俺も、できれば何ももう殴りたくない。」


 できれば…か。

 年齢を考えるとしばらくは俺達のような存在に当たられそうだが、簡単にはやられないようにしよう。


 彼は空間へと入って消えた。

 こんな傍迷惑なシステムがあるのか。


 彼の世界と共通するのなら、俺達以外のやばい奴がいたら彼が倒してくれるってことになる。

 あの跡をみると。

 そして小銭稼ぎは人から奪うのではなく、今もらった束を大切に使えば空間を破って彼が現れることはない…か。


 面倒な世界だ。

 観劇者もこれを楽しんでいるのか。

 観劇者の廃屋内はどうなっているんだ?


 どうやら…時代は不便なパラレルワールドも入り組んで来たようだ。


「あの人間とは友好関係を結ぼうぜ。」


「勿論。今後役立つからな。」


 悪いねえ烏君。

 君の攻撃的な肉体もじっくり使わせてもらうよ。


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