第2話:後から

 あらすじ


 タレント活動をしている高校三年生男子、遮沸偶奇(まこうきほりっく)はかつて地域で人気だった廃屋に友人達と喋りながら向かっていた。

 友人は偶奇が順調な生活を送っていると弄っていたのだが廃屋を前に逃走。

 ここで色んな意味で武勇伝を作るために、廃屋の中へ向かっていくのだが。


 本編


 もう高校三年生か。

 遮沸偶奇まこうきほりっくはタレント活動を続けるほど見た目に恵まれていた。

 本当はそんなに目立ちたくなく、ある程度の大学へ進学したら夢のない日常を逞しくスルーして生きるつもりだった。

 彼女もそれを理解しているらしく、受験生でもあるのでスケジュールを調整するためにコミュニケーションは取っている。


 あんまり迂闊なことができないなあ。

「将来の夢は?」なんて聞かれたら誰もなりたくないしなれやしない適当な職業を言うのではなく、非日常感溢れる将来の話を彼女と共に言い放ってみたい。


『どうせ年収とかで長続きしないんだろうなあ。』


 とか、


『幸せそうじゃない歳上の逆張りだと思われるのも癪だし。』


 だの。

 欲がないのだ。

 自分には。



 もう自分が義務教育を終えた段階で面白そうなゲームもアニメも多数派がどうだの、教育的だのなんだの。

 無理やり本を読まされている弟や妹達を見た後に歳上の読書好きなコミュニティをSNSで見ても『醜い』争いばかり。


 そりゃあ言いたいことはわかる。


「昔はそうじゃなかった。」

「科学が発達しなかったから。」


 いやいやいや、いやいやいやいや、いやいやいやいやいやいや!


「昔から変わらないってどんなトンデモ理論だよ。」


 ああそうだった。

 偶奇は友人達と過去に沢山あったコンテンツについて語っていた。

 懐古趣味じゃない。

 たまたまだ。



「何十年同じこと繰り返してんだろう。

 悪い意味で人間は。」


「お前は人間やないかーい!

 けどほんと格差って広がるばっかりで改善しないんだな。」


「もうアホらしいことなんて繰り返すの俺達だけでもやめようぜ。

 問題のある連中と低賃金かつ高い税金払って、今更旅行したところで似たような景色ばかりで使えないお金。


 何が面白いの?」


 三人は偶奇に返事を求める。

 全く…。


「ま、まあそういうのって生まれで決まってるし。」


 しまったと偶奇は後悔した。

 火の油を注いでしまった。

 あれ?そう思うってことはちょっとこの三人を見下しているのかもしれない。


「そうだよなあ。

 ルックスとか、そういうの揃ってる人に言われるとしっくりくる。

 ってぇ、それが一番終わってる人間のルールだろぉがよぉぉ?」


「だからって俺に当たる必要ないじゃないか。

 俺もユートの言ってることには概ね同意なんだ。

 あれだけオタクがどうのとか言ってたアラサーアラフォーがただ友が独身、自分が既婚というだけで見下したり。

 生活が変わったら気が合わなくなることも知ってるけれど、家族だのなんだのも正直気持ち悪いよ。

 基本的には五体満足か知的が健常かどうかとか、そういうばかり見ていて未だに現実を見ておらず偏った空間で幸せなんて言ってる歳上を見たら俺達は堂々と若くて迸る異性愛キスシーンを見せるくらいにはウンザリしている!

 あ、これはユート達に対することじゃなくてせめてもの世の中へ反抗するティーンエイジのやり方だ!

 だから…そんないじらないでくれ!」


 あまりにもストレスが溜まっていたので拙いけれど三人に心の中の一部を解放した。


 三人は拍手をし始め、ある映画みたいに「おめでとう、我が友よ」と讃え始めた。

 いや、そういうところだからぁぁ!

 同調圧力なんて今時遅れすぎ。


「本当、俺達も含めて人間って馬鹿だよ。

 男女関係なく。

 あと友だから言うけど、好きだとか嫌いとか偏るのも詐欺とか居場所とかに引っかかる罠だし遅れてるから。


 年寄りかよっ!

 ってね。」


 等しく生きづらい格差まみれの男子高校生。

 それで手を打とう。

 俺達は今までもそうやって生きてきたじゃないか!


「けどさっきの拍手は無しだ。

 気持ち悪いよ。

 それをするとしないではこの先に多くの差が出る。


 どうせ友の発言を讃えるのなら…」


 番組で何故か余った炭酸飲料をF1の優勝者並みに教室でぶちまけた。


 もったいなくはない使い方で。

 ちゃんと全員で飲んだし。



「俺達、この先もこうやって楽しめるのかな。

 偶奇みたいな経験がないと自信が持てないよ。」


 自信なんてよっぽどの手応えと他者評価があったときに生まれるだけなのに。


「凹んだら遊ぼう。

 彼女の友人達って面食いの割にスリルを求めている。」


「無理じゃないか!

 そんなインフルエンサーみたいなタイプの性癖なんてちゃんと調整されているだろう?

 地方のハローワークみたいな乏しい人間より白金高輪しろがねたかなわの底辺がいいって言うよ。」


 いやあ影響されすぎだろお前ら!

 そんな失礼な女の子達じゃない…と自信があまり持てないのが悔しい。


 すると他の友人が地図を出してきた。


「今はもう廃屋らしいけれど、昔はちょっとしたテーマパークみたいな場所だったらしい。」


 また昔?

 いつの時代の話をしているんだお前は。

 そう言おうとしたら似た指摘をユートがしてくれた。

 するとそこから続きがあるらしく…



「歴史があるってことはさ、闇もあるってことだ。

 ここって街の中の割に少子高齢化の影響で空き家ばっからしいんだ。

 都心に近いから若い夫婦がやってきてはいるんだがどうもこの廃屋周辺には誰も近寄らなくて、限定的ゴーストタウンだとか。」


 やばいじゃんそれ。

 確実にきっと来るよ。

 隠し井戸が見つかって入ったら水の中で霊に連れてかれるよ。


「まあいい感じのホラースポットだ。

 それ系のYouTuberも数字にならないって切り捨てているが要は腰抜けばっかってわけ。」


 つまりこのまま自分達が向かえば先駆者として富を得られるかもしれない…か。

 本当に都合が良い若さしてるよ。

 俺達は。

 と偶奇は心の中でつぶやいた。

 つまらない未来より面白い今。

 四人で手を取り廃屋へと向かう。

 これくらいの体力は備えているのさ!



 -そして現場へ着く。



「ここで俺が残ったってわけ。」



 腰抜けはどこのどいつだあい?

 お前らだよ!


 気持ちは分かる。

 怖いよこの廃屋。

 周りも地方の田んぼ並みに誰もいないし。

 お年寄りも主婦もいないよ。

 当然子供も。


 だからこそ偶奇はこの廃屋の中へ進んだ。

 彼女が出来て、ここで逃げたら色々と男が廃る。

 勿論!怖さに男女は関係ないし彼女なら真っ先に逃げてと言ってくれるかもしれない!


 だが!

 ここでかつては賑わっていたスポットが今では恐怖を生み出している場所なんてもう二度と来ないかもしれない!

 何かしら情報を掴まないとまた三人に「タレントだからいいよなあ。」と逆マウントを取られる。


「この場所を利用し、俺は一攫千金を狙う!」


 俺は強い!と建物にアピールしながら中へスマートフォンと仲間が残したカメラを使って取材するのだった。



 無許可で入ってしまったけれど、タレント業をしているのはこちらの動画を見せれば一発で分かってもらえるのでそれを利用して編集しよう。



 ここまでに撮影した空間をショートムービーアプリを使って投稿するだけでバズりそうなくらい、フィクションで観る廃屋とは違う不気味さが廃屋内から伝わってくる。



 誰かが寄贈したであろうぬいぐるみ。

 夏を子供達に楽しんでもらおうと大きなビニールプールもあった。

 脚の悪いお年寄りか誰かのために車椅子や杖もあった。



「完璧ではなかったけれど、昔の方が余裕あったんだな。」


 彼女も言っていた。



「ポリコレだのなんだの言われてたけれど、シーシェパードとかみたいな事ばかり昔からやって言わなければ幸せだった生活が崩れた人達を見るのが辛い。」


 そしてもう一つは


「不便でも幸せそうな昔に今の技術や経験を知った自分達がワープしたら倫理観を終わらせないようしっかりと叩き込みたい。」


 という捨て台詞。


 はぁ。

 何が廃屋だ。

 ここの空間の方がよほど安心できる。

 あの三人もビビりじゃなければ無許可とはいえ後でどうとでもしたのに。

 寂しいなあ。


 偶奇はそれでも撮影を続けていると荒い息ずかいが聞こえた。

 え?

 人間?

 それだったら怖いんだけど。


 少しだけ隠れ、様子を伺う。

 ドスンっと裸足なのに脚力の強さが伝わる音がした。

 どうしよう。

 帰れるかな。



「ハァ…」



 あっ…

 人間ではなかったが危ないゴリラがいた。



「がはっ!うぅ…」



 壁に叩きつけられ、首を掴まれる。

 普段は蚊も殺さないのに一発殴って見たが、迂闊に刺激したからか反撃を腹部に食らった。

 絶対効いてないのに逆上されるなんてヤバい動物だ。



「うぅぅ…があっ…」



 ここは何とかこいつを撮影して帰らないと。

 首を掴むだけで他に何か攻撃はしてこない。

 殺意はないのかもしれない。



「おおっと。

 誰かいんのか?」


 声が若い。

 自分と同世代?

 だが高校生では無さそうだ。

 一つ上の男性か。



 ケモノはその声の方向へと向かった。

 そして音が止んだので出口へと向かう。



 すると声の主らしき人間が一人着替えていた。

 傍には傷一つなく倒れているケモノがいる。

 返り血もないのに着替えるなんて変だ。

 そして着替えている最中の人間の身体はしっかりときめ細か筋肉に覆われていて、黒髪なのに暗い屋内で鈍く輝いているのが只者ではないことを強調している。



「制服着て、一人でここに着たのか。」


 は、話しかけてきてる!

 怖いんですけど。

 偶奇は恐る恐る返事をした。



「こ、この廃屋って昔は観光スポットらしいと聞いたので…その、お遍路のついでに。」



 こんな異性を射止めるためにお洒落した男子高校生がいつの時代でも見苦しい言い訳をしているのは自覚している。



「楽しそうな高校生活送ってるんだな。

 後は見れば分かる。」



 彼はケモノをいつの間にか廃屋内にある庭に埋めてこちらへ早足で近づいた。

 そしてまたも首を掴まれ壁に叩きつけられた。



「がはっ!」


「今時数字稼ぎでここへ来るやつで、同世代が来るとはな。

 俺は二〇二三年で十九歳だ。

 お前は恐らく高校三年生。

 出なきゃ、友達を連れるしかない。

 例外は目立つからなあ。」



 この筋肉ってあれじゃないかな。

 競技的なやつ。

 しかも同世代なのに自然な力で掴まれている。


「ここでの生活守るの大変なんだよなあ。

 許可さえ取ってくれれば、厳選したこの屋内のスポットを見せるくらいしたのに。」


 今殺すつもりで掴んでいるのに?

 これは警告かもしれない。


「わ…わかった。

 ここで帰る…があっ…は、はなせ…」


 そっと下ろされ、偶奇は咳き込む。


「この程度耐えてみろ。

 出ないとこの先やっていけない。」


 倫理観守らないで何言ってんだよ!

 といつものノリでツッコミを入れようとしたが頭はクールでないと。


「こ、ここの管理者でしたら無許可で侵入したことを謝罪します。

 ですが、ここの景色を俺が…僕が使えばいい販促になるのではないかと考えていたんです。」


 彼は軽く偶奇を蹴って脅した。


「数字稼ぎは必要ない。

 俺のためにもお前のためにもならない。

 」



 彼は後ろに何か気配を感じたのか声のボリューミー厶を下げる。


「今日のことは忘れろ。」


 撮影した端末は念入りに彼によって厳選された。

 折角の苦労が…。


 だが命があるどころか首を掴まれたとはいえ、ほぼ無傷で帰ることが出来た。



 彼は一体何者なんだろう。

 上手いこと友への伝え方を考えないと暮らしを守るために彼が学校へ潜入しそうだ。

 それくらいに何処か住む世界が違うオーラを感じ取った。


 思い出の写真は何とか撮れたのでヘタレでは無いことを逃げた三人には言わないと。



 偶奇は何事も無かったように帰るのだった。




 -ここからは別空間


 七時得房あらかたときふさ、エトランゼはさっきの様子を見ていた。

 一人、こちらの世界を確認できた者がいたが。



「エトランゼ。

 これがこの廃屋だった場所の物語か?」


 どうやらエトランゼによって「見せられた」らしい。


「そうとも。

 少なくともこの世界ではなく、別の世界にあるここの話だ。」



「まったく歴史が違うな。

 つまり、平行世界に似たような設定の廃屋があってそこに住む人間かエトランゼのような奴の話を観させられるわけだ。」



 いつの間にかリビングが歪む世界へと包まれた。

 そこへ先程、男子高校生の首を掴んだ青年が現れた。



「一応別世界の家主だから入ってこれるわけか。」


 別世界の二〇二三年を生きる同年代の青年。

 彼は七時にスコップを向ける。



「お前の所には不思議な力を持つ奴が加担しているな。」


 君にも同じ言葉を返したい。

 七時はそう心の中で呟く。



「ソレガシの力なら、あの廃屋へ住むことを決めた猛者達をこうして呼び込むことも可能。

 ただし、この廃屋内限定だがなあ。」


 彼は「ここは廃屋じゃないよな。」

 といつの間にか分析されていた。


「俺はせきせい

 何かあればここへ来る。

 ここの方がリッチだしな。」


 そういう理由になるのか。

 七時は烏に先程の物語が本物かを聞いた。



「本物だ。

 ついさっき終わった話。

 彼はここの出来事を隠そうとして隠せなかった。

 それでも拡散しないよう、俺と彼の話は続く。」


 エトランゼは尺が足らんぞと忠告し、彼はそれ以上は話さなかった。



「悪趣味なあんたらには観劇の報いがおとずれるかもしれない。

 それだけは忘れるな。」



 どうやら彼は忘れろと忘れるなが口癖らしい。

 しかも強そうな人。

 いずれ戦うこともなるのかも。

 エトランゼの恐ろしさを結果的に覚えることになってしまった七時だった。





 

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