とある彼女のななコマ
ジャンル:ラブコメ
キャッチコピー:これで最後なのか……ある意味感慨深いなぁ。
紹介文:
大学生のフユは、桜が咲いたある日、恋人のハルの家に着いた途端に土下座をされながらいいわけを聞かされ―― まったり恋人同士のとある日常の一コマ。
お題:「いいわけ」
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朝のニュースで桜の開花宣言を聞いた。
気候も春めいてきたけれど、日が暮れればそれなりに寒い。足早に帰り着いた同棲中の恋人のハルのマンションの玄関の扉をあけながら、ほっと一息ついたフユは、そのまま思わず息を呑んだ。
なぜか、恋人が玄関先で土下座して出迎えていたからだ。
小さな頭をしっかりと床につけて、微動だにしない。
うん、気候も春めいてきたからなあ。
やや遠い目をして、ハルの左巻きのつむじを見つめる。
ちなみに、フユのつむじは右巻きだと言われている。
うん、どうでもいいな。きっと混乱しているからだろう。
「ただいま、ハル」
「いいわけさせてください」
「いいわけ?」
「病に侵され余命いくばくもない妻の意識がなくなったある夜、政略結婚相手の夫のもとに妻からの手紙が届きます。それはまだ意識のあるうちに妻が書き上げた手紙でした。愛のない冷めた夫婦関係だと信じて疑わなかった男は、その手紙を読まず机の引き出しにしまってそれきりに。けれど妻が亡くなって数年後、子供が勝手に引き出しから手紙を取り出し封を開けてしまいます。そして、父である男に向かって、自分の両親は愛し合っていたんだねと嬉しそうに告げるのです。訝しんだ男が手紙に目を通すと、そこには幼い時に命を助けられたこと、そしてずっと慕っていた旨の内容が記載されているのです。そうして男は初めて、妻に愛されていたことに気が付き、そして自分も彼女を愛していたことに気が付くのです……っ」
声を震わせ叙情たっぷりにハルは語りだし、フユははっとした。
「あ、まさか――!!」
フユは靴を脱ぐと、土下座するハルの真横を通り過ぎ、冷蔵庫へと向かう。冷蔵庫は一人用の小さなものなので、開ければ一目で中に何が入っているのか確認できた。そして、すぐに部屋のテーブルを振り返った。
そのうえには空っぽになったプラスチックの容器が置いてあったのだった。
短話・単話 マルコフ。 @markoh
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