第36話 愛を込めて告白を

「つ、次はわたしの番……ニャン田さんに告白して照れてしまった方が負けですね」

「その通りにゃ! 濃厚な愛の言葉、期待してるにゃ~フフフ……」

「ゲ、ゲームですもんね、これはゲーム。ちゃんとやりますよ」


 マレ熊はふぅと息をついて、ニャン田の顔を見つめた。ニャン田の口角がキュッと上り、意地悪そうな、でもなんとも魅力的な笑い顔になる。

(うわ、オフラインの弊害がここに。ニャン田さんが小悪魔過ぎる!)

 照れと焦りをなんとか飲み込んで、「ア、アイシテ、マス……」と現実ではまず使わない言葉で告白した。しかし————


「誰が誰を?」

「え?」

「ちゃーんと宣言してもらわないと」

 どうやらマレ熊のカタコトめいた告白では解放してもらえないらしい。


(ニャン田さんめ……でもここはなんとかして切り抜けなきゃ)


「あ、わたし……」

「ニ、ニャン田さんのこと」

「すき、です……」

 

 告白が終わった途端、カーッと身体が熱くなり、同時に冷汗も吹きだしてくる。恥ずかしいという気持ちを抑えられない。これは負けた。

 目の前にいるニャン田は何故か無言だった。からかうような笑みも消えている。マレ熊としてはさっさと負けを宣告されて、自分の告白をいじってもらった方が気が楽だった。反応なしが一番辛い。


「ど、どうでしたか、ニャン田さん。点数つけるとしたら何点でしょうか?」

 無理に明るい声を出して、おどけた振る舞いをする。

「…………」

「うーん、無言ですか。もしかして点数つけられないぐらいよかったとか? なーんて。アハハハ……」


パンパンパンパン……


 マレ熊の言葉に被せるようにして鳴らされた手のひら。無表情のニャン田が拍手をし始めた。一見すると無表情だが、よくみるとその目のふちには涙がたまっており、口元は小刻みに震えている。


「いや、 なんで拍手!? 怖い、今日のニャン田さん怖い!」


コメント:無言拍手わらう

コメント:気持ちはわかる。いい百合浴びた

コメント:マレ熊の声めっちゃ後輩感あった。後輩からの告白は永遠のロマン

コメント:マレ熊は緊張にあえいだ。憧れのニャン田先輩が目の前にいる。この機会を逃せば先輩は卒業して遠くにいってしまう。その崖っぷちな状況が背中を押してくれた。今日私は先輩に告白する。笑われたってかまわない。気持ち悪がられたら一晩泣いて、それでも勇気を出した自分をほめてあげよう。「わたし、わたし……」先輩は優しい瞳で私を見てくれている。「ニャン田先輩のことが」先輩の名まえを口に出した瞬間一段と心臓が高く鳴った。

「すき、です……」

コメント:おい、コメント欄に百合小説書き込むやつ現れたって


 コメント欄も非常に盛り上がっているが、マレ熊の頭は目の前のニャン田で一杯だった。涙ぐみ、ただ拍手し続けるニャン田にかける言葉が見当たらない。

 助けを求めて、アギの方をちらりと見た。アギは腕を組んでチャット欄をみつめていた。マレ熊の視線に気づき、面倒くさそうに顔をしかめる。その口がパクパクと動き、マレ熊に無音のメッセージを送ってきた。

(み、る、な)

(お、ね、が、い、た、す、け、て)

 マレ熊も口だけ動かして助けを求めた。普通にマイクをミュートにして会話をすればいいのだが、二人ともそれに気づかず、しばらくパクパクと応酬を続けていた。が、とうとうアギが業を煮やした。


「あ~もう、しつけぇな! この状態のニャン田さんに関わりたくねぇんだよ!」

「そんなぁ、アギちゃんの方がニャン田さんとつきあい長いでしょ。何とかして!」

「知らん、お前が引き起こしたことだろ」

「うぅ、わたしは告白しただけだよ。そういうゲームだから! ニャン田さん、アギちゃんの時は普通だったのに、なんで……」


 それを聞いたアギは少し口をとがらせた。

「そりゃあ、お前の告白が良かったからだろ。ニャン田さんが尊さで泣くぐらいな」

「尊さ!? それでこんなになってるの?」

 謎だったニャン田の感情が明らかになったが、より彼女への謎は深まった。


「いやぁ、素晴らしかったにゃ。遠い青春の日々が蘇ってきたにゃ」

 アギとやりとりしているうちに、ひとまず落ち着いたのであろう、ニャン田が復活してきた。とりあえず普通に話し始めたニャン田を見て、マレ熊はほっとした。

「そんなによかったならよかったです。あ、なんか日本語おかしいですね。アハハ……」

 ニャン田の感想を深く追及するのはやめておいた。深淵はのぞかずに放っておくのが一番である。


「ところで、ゲームの勝敗は? やっぱわたしの負けですかね?」

 大分恥ずかしかった自覚があるマレ熊がそう言うと、フルフルとニャン田が首を振った。

「この勝負、吾輩の負けにゃ」

「え、そうなんですか? 別にニャン田さん照れてはいなかったような」

「照れ以上の大きな感情に揺さぶられたにゃ。ということでこの勝負、マレ熊の勝ち!」

(勝ってしまった、よくわからないうちに)


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一般人がゆく!一年間のまったりVtuberスローライフ。 黒と灰 @kurotohai

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