第35話 ヴァレンタインをVTuberと

『ケモミミーズオフコラボ! 美女三人が愛のおすそ分け、孤独な人あつまれ~♡』


「さぁ、今宵は我々三人が何の成果も得られない君たちに愛のおすそ分けをしにきたにゃ。司会進行は主催者ニャン田! では美女たちよ、自己紹介ヨロシク!」

「マレ熊 茶子です。愛をおすそ分けした経験はありませんが、精一杯頑張ります。今日はみんなで楽しい時間を過ごしましょう!」

大神オオカミ アギトだ。私からの愛は期待すんなよ」

「はい、アギちゃんのツンデレも入ったところで本日の流れのご説明~。まずはみんなでカードゲームでもやって、場が暖まったところで本番にゃん! 今日のお品書きは、美少女同士の「愛してるよ」ゲーム!」

「アイシテルヨゲーム?」

「マレ熊ちゃんがハテナを飛ばしているが、ルールは至って簡単。プレイヤーは順番に愛してるよと告白し合って、照れた方が負け! 合法的に愛の言葉を引き出せる、ついでに羞恥に悶える様も引き出せる素晴らしいゲームなのだ! リスナーは美少女同士の愛の告白からてぇてぇを摂取するもよし。「愛してる」の言葉を自分に言われたものとして妄想するもよし。……皆のために一生懸命企画したよ。受け取ってね、吾輩の愛。ちなみに今日、勝負下着だにゃん……♡」


コメント:うおえええええ

コメント:げぇぇぇぇぇぇ

コメント:オボロロロロロ


 ニャン田の発言に対し、チャット欄は嘔吐のコメントで埋め尽くされた。息のあった茶番劇だ。しかしそのノリが通じないものもいる。マレ熊だ。


「やだ、ごめんなさい! 私今日普通の下着です。配慮が足りてませんでした!」


 マレ熊の天然直球発言にチャット欄は反応に困るものが続出する。目の前にいるアギは怒ったようにそっぽを向いてるが、耳が赤い。ニャン田はそのさまをニヤニヤと楽しそうに見ている。


「……おい。下着とかどうでもいいから、早くゲーム始めようぜ」

 横を向いたまま、目だけでギロリとマレ熊を睨んでアギが急き立てる。

「ハイハイ。じゃあ三人でできるゲーム探しから始めましょうかね~」

 ニャン田は多種多様なカードゲームがプレイできるゲームソフトを起動した。配信にゲーム画面が映し出される。


「わぁ、七ならべとか懐かしいですね」

「七ならべとか退屈だろ。ポーカーやろうぜ、ヒリつく勝負がしてぇ」

「まぁまぁ、時間はたっぷりあるから、好きなゲームをしようじゃないの。ちなみに吾輩は大富豪が得意にゃん」

 結局、七ならべ、ポーカー、大富豪の順で遊ぶことになった。



「……くそっ、出せる札がない……。もっかいパスだパス!」


「おい、本当にその手札でいいのか? 私のカードを見たらお前は必ず後悔する……オラ、ワンペアだよなんか文句あんのか!?」


「は、そこで革命って! せっかく強カード温存してたのに!」


 アギのカードゲームの腕は驚異的だった。マレ熊とニャン田はごく普通のプレイをしているだけなのだが、アギは勝手に追い込まれていき、一人ヒリついた勝負をしている。

 

コメント:アギちゃん、清々しいまでのクソザコだな……

コメント:ニャン田が姑息な手でゲーム荒らすと予想してたんだが、自滅エンドか

コメント:三試合して全部最下位とかwめっちゃ台パンしてるしw

 


「はい、アギちゃんのまた負けーwさぁて、カードゲームはアギちゃんのおかげで気持ちよく勝たせてもらったし、そろそろ本番始めますか!」

「勝たせたわけじゃないっすよ! クソ、次こそぜってー勝つ! 次は何する!?」「それでは「愛してるよ」ゲームのはじまりはじまり~。皆、準備はいいかー?」

「お、オーーー……」

「いや、勝負はこれから……、マレ熊も「オーーー」じゃねーんだよ!」

「むぅ、なんだか覇気がないにゃん。そんな気持ちでこのゲームを生き抜けると思うか!?」

「オ、オオオーーー!!」

 素直なマレ熊が精一杯の大声を出す。アギはなんだかんだと騒いでいたが、結局はニャン田の無理やりな進行に折れて諦めた。


「じゃあ、リスナーは画面下に注目~」

 そこには三つの心電図のようなものと細かく変化する数字が表示されていた。

「今から三人の心拍数をアプリで測ってリアルタイムに表示するにゃん。これで我々の動揺具合はリスナーにつつぬけってワケ」

「なんだか気恥ずかしいものがありますね」

「はぁ、心拍数なんかわかったところで何が楽しいんだよ……」


コメント:推しの心拍数がリアルでわかるの正直興奮する

コメント:おい、コメントになんか上級者がいるぞ


「数字に興奮できる紳士も現れたことで盛り上がってきたにゃん! では手本もかねて、一番手はニャン田が行かせて頂こう。どっちに告白しようかな~……よし! カードゲームの名手アギちゃんにしーよう」

「……蒸し返さないでもらえますか」

 アギの額には青筋が浮いている。その鬼のような怒りの表情にもニャン田は全くひるまない。


「吾輩の大人の色気でメロメロにしてやるにゃん。んっ、んっ」

 ニャン田が咳払いをして喉の調子を整える。

「アギ……」

 それはライバーニャン田の声ではなく、マレ熊がドギマギしたような小悪魔ボイスに近かった。

「愛してる……」


(わっわっわっ……)

 色気あるニャン田の声と表情に思わずマレ熊が赤面する。

(これはアギちゃん、ひとたまりもないのでは?)

 アギの赤面を想像して彼の顔をのぞきこんだが……そこにあったのは波ひとつ立ってない水面だった。

「はぁ、ありがとうございます?」

 それを聞いたニャン田の目が半眼になり、しらーっとした雰囲気が流れた。


「あ~~アギの反応つまんないにゃ~少しぐらい赤面しろ! この艶やかボイスを聞いてなんっも反応しないとは。マレ熊ちゃんの反応を見習え! はぁ……次はお前が私に告白してみろ」

「私がニャン田さんにっすか?」

「そういう企画にゃ。神妙にしろ」

「はぁ、わかりましたよ」


「ニャン田さん」

 アギがニャン田の顔をまっすぐにみつめる。配信画面では美少女と猫獣人の取り合わせだが、実際は童顔の可愛い系少年と小悪魔系お姉さんが見つめ合っている。


コメント:おい、なぜかマレ熊の心拍数が一番高いんだが


(いや、だってこの光景は見てる方が照れちゃうよ)

 マレ熊のバクバクする心臓も無視して、告白は続く。

「愛してます」

(キャー! 言ったー!)

 マレ熊は自然と熱くなる頬に手を当てた。

 しかし、言われたニャン田は顔をしかめて「可愛くない」とつまらなさそうに言い放った。


「眉ひとつ動かさず告白しおって。赤面して「私、ニャン田さんのことが前から……」ぐらい言ってみろ。ぜーんぜん心に響かんわ」

「ニャン田さんに対して赤面するとか無理っすね。だって……や、無理っすね」

「オイ言葉を濁すな、かえって傷つくわ。ぼかされた方が傷つくこともあるんだぞ。

うぅ、繊細な吾輩の心はズタボロにゃ。こんな時はマレ熊たそのカワイイ愛の言葉で癒されたいにゃん」

 ニャン田とアギのやりとりを静かに聞いていたマレ熊はいきなり出てきた自分の名前に驚いて、状況を上手く把握できなかった。慌ててチャット欄を確認する。


コメント:おーい、マレ熊応えてやれ

コメント:マレ熊ちゃんの愛の言葉オレもほしい


「えっと、つまり私の番……ってこと?」

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る