昔の話

 K小学校にも昔は、タイムカプセルを埋める習わしがあった。

 卒業生が、学校生活の思い出の品や、未来の自分に宛てた手紙などを、金属製の容器に入れて、校庭の隅に埋める。埋めた所には卒業年度と組番号を書いた立て札を立てて、目印にする。十年後の同窓会で掘り起こし、昔話を楽しむ。

 毎年六年生の全四クラスが行っていたので、校庭には掘り返された跡がたくさんある。

 けれどこの習わしは、昔起きた奇怪な事件がきっかけで禁止になった。




 昭和××年。

 K小学校に、まだ不思議な決まりごとなど無かった頃。

 当時、校舎の中庭に、花の咲かない桜の木があった。幹はしっかりとしていて、青々とした葉を付けるが、何故か桜の花を実らせたところを、誰も見た事が無かった。その姿は味気なく、タイムカプセルを埋めるにはあまりにも殺風景だった。その為、咲かない桜の足元は、毎年更地のままだった。


 ある年の卒業生の、あるクラスが、タイムカプセルを埋める場所に、咲かない桜の木の下を選んだ。

 当時既に、校庭の外周は何処を見ても穴だらけだった。そこでそのクラスは、皆と同じ場所ではつまらない、と敢えて地味な、誰も選ばないこの場所に決めたのだった。

 卒業式が終わった昼下がり、他のクラスが満開の桜の木の下にタイムカプセルを埋めていた頃。そのクラスだけが、物悲しい風景の中庭に集合していた。

 春の日差しが薄い雲に遮られ、やや日陰になった咲かない桜の木の根元。季節はずれのひんやりとした空気の中、ちから自慢の男子たちが硬い地面をシャベルで掘り返した。

 やがて地面が真っ黒な口を開けた。クラスメイトは準備していた頑丈なお菓子の空き缶をいくつか並べ、楽しそうに物を詰めていった。在学中の写真だったり、図工の時間に作った作品だったり、、実に様々な物が、埋められていった。

 そんな時、クラスメイトの一人の女子が、密かに手紙を一通、タイムカプセルに忍び込ませた。

 彼女は昔から体が弱く、欠席の多い子だった。色白で大人しいせいか、クラスから浮いている存在だった。彼女は、クラスのムードメーカー的存在だった女子に、密かに嫌がらせを受けていた。筆箱に昆虫を入れられたり、恐喝され金を取られたり、人目につかない所で暴行を受けたり、休み時間のトイレで全裸にされたりした。

 そんな女子が、タイムカプセルに埋めた手紙にこう書いた。


「××さんを、ころしてください」


 翌日、ムードメーカーだった××さんが、忽然と行方を晦ました。


 それからというもの、咲かない桜は立派な花を咲かせるようになった。

 寧ろ一年中散る事なく満開で、不思議な桜として有名になった。


 ××さんは、とうとう見つからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

万年桜 o0YUH0o @o0YUH0o

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ