第8話 大団円
自分が呼んだデリヘル嬢が、会社の部下ということを考えると、本来なら、チェンジしてあげるのがいいのだろうが、勝沢は敢えて、チェンジをしなかった。彼女に何かを感じたからなのかも知れない。
しかし、何を感じたのか、すぐには分からなかったが、少し見つめていると感じたのは、
「そうだ、ルナにどこかしか似ている気がするんだ」
ということで、思わず口から、
「ルナ」
という言葉が漏れた。
すると、ななせは、急に怯えたようになり、
「ど、どうしてそれを?」
というではないか。
「どうしてって」
と言いかけて、勘の鋭い勝沢は、この狼狽えから、一つの仮説を立ててみた。
それは、2段階によるもので、最初の段階は、普通に考えられることなのだが、それも、勝沢のように、風俗慣れしているから気づくものであって、普通の人だとなかなか気づくこともないに違いない。
まず、勝沢が気づいたこととして、
「このオンナ、レズなんじゃないか?」
ということだった。
「ルナ」
という言葉は、レズビアンの隠語である。
どこから来ているのか分からなかったが、想像するに、女性の身体には、男性にはない生理というものがある。それは、別名で、
「月経」
と言われるもので、ほぼほぼ、月の満ち欠けに似ているということから、月が連想される。
月のことを、ラテン語で
「ルナ」
というが、その言葉を、そのまま、レズビアンの隠語にするというのは、
「ルナというのが、神話の世界では、月の神と言われているからではないだろうか?」
と考えると、レズビアンというのも、神秘的なものであり、人間の営みが、男女のセックスが基本だというだけで、決して異常性癖ではないということを示しているのかも知れない。
ただ、昔から、ゲイやレズというのは、隠しておく性癖として、自分がそうであるということを知られたくないという意味から、それだけで結婚するという人もいたくらいだ。
いわゆる、
「偽装結婚」
というものであろうが、それだけに、想像することすらタブーなのかも知れないが、逆にいえば、それだけ、人間の性癖として、古代から続いてきたものだと言えるだろう。
レズの人からみれば、
「男女のセックスの方が、よほど汚らわしく見える」
と思っているかも知れない。
なぜ、自分たちレズやゲイだけが、異常性癖と言われなければいけないのか、納得がいかないに違いない。
ただ、世の中の力関係としては、
「数の多い者が圧倒的に強く、いつの時代も、少数派は迫害されてきたのだ」
といえるであろう。
そんな状態を考えると、もう一つの妄想が頭に浮かんでくるのだった。
「まさかと思うが、ルナの相手は、このななせだったのではないか?」
という妄想だった。
だから、思わず、
「ルナ」
と言った時に、必要以上にビックリしたのではないか?
人間は核心を突かれると、条件反射のようになるという。さっきのななせは完全に条件反射だった。
ルナと言われて、そこからレズの発想に行くまでには、いくつもの発想を経ることになるだろうから、ここまで一気に発想が浮かんでくることはないだろう。
それを、条件反射のようになったのだから、勝沢の発想も無理のないことなのかも知れない。
だとすれば、
「やりようによっては、ななせを自分のものにできるかも知れない」
と感じた。
さらに、ルナだって、同じではないか?
そんなことを考えていると、勝沢の中の恐ろしい部分が顔を出してきた。
勝沢は、この時以降。二人の女を蹂躙することに成功した。
それぞれ一人ずつと遭うことの方が多かったが、たまに一緒に呼び出して、二人にレズプレイをさせて、それを見ているというレズ鑑賞や、二人に奉仕をさせる。ハーレムプレイのようなものも味わった。
「これこそ、男冥利に尽きる」
と思っていたのだが、そのうちに、
「何か、これでも物足りない気がする」
と思うようになった。
それは、
「人間の欲望というものは、果てしないもので、追いかければ追いかけるほど、果てがないということを思い知らされる」
と感じるのだった。
「二人を蹂躙して、いいなりにさせる」
こんなおいしいことはないはずなのに、なぜか、すぐに飽きがきたのだ。
「これ以上の男冥利はないはずなのに、何に飽きが来たというのだ?」
と感じた。
「何かのピースが一つ足りない」
ということは分かっているはずなのだが、そのピースというのが、
「自分のことだ」
と分かるまでに、少し時間がかかった。
いかに、男冥利に尽きるといっても、相手が言いなりになっているのは、
「弱みを握られている」
というだけのことだった。
勝沢が、自分のための快感や、欲望を満たしているわけではなく、いわゆる、
「余興」
として、演じさせているだけのものだろう。
次第に、感動だったことが、自分の予想もしていなかったことで、独り歩きを始め、そのうちに自分が見えないところに行ってしまっているということに、そのうちに気づくことになる。
それは自然に気づくというのが、一番平和なことなのだろう。
誰が好きなのか、自分を好きなのは誰なのか?
これが、恋愛であったり、自分のプレイの本質なのかも知れないと思ったが、これは、普通の恋愛でも同じことなのだ。
異常性癖であっても、自由恋愛であっても、行き着く先が同じなら、過程での感情も同じ、つまり、
「目指しているものが同じだと感じると、その先に同じものが見えていることくらい、すぐにわかるというものだ」
ということなのだろう。
そんなことを考えていると、
「隠れている最後のピースが、近いうちに現れるのではないか?」
と考えるようになるのだった。
「女を凌辱するということが、こんなに楽しいことだったなんて」
と思うようになり、自分の抑えが利かなくなってきた。
最初は、
「少しだけ、自分の立場がよくなれば、ただそれだけでよかったんだけどな」
と思っていたが、オンナというものが、これほど、凌辱を求めているものだとは思ってもみなかった。
もちろん、女の全員が全員、そんなことはないのだろうが、少なくとも、まるで自分がアイドルにでもなったかのように、自分の固定客から、
「推し」
ということで、おだてられたら、まるでアイドルになったかのように思うのも無理はないだろう。
しかし、そんな中で、
「誰か一人に尽くしたい」
という気持ちが強いのもありえることであった。
それが、女心というのか、レズビアンでありながら、本人は、
「私は両刀なのよ」
というだけ、男に尽くすということも、ハンパではなかった。
しかも、話をよく聞いてみると、ルナと知り合いのようだった。どうやら、ルナにレズを仕込まれたかのように言っているが、何とでも言えることで、ひょっとすると、ななせの方が、自分の方からルナを虜にしたのかも知れない。
勝沢が感じるところ、
「果たしてどっちが?」
というのは難しい。
どちらも、
「男にもオンナにもなれる」
という意味で、どちらも両刀なのかも知れないと思うのだった。
そのおかげで、最近は、ルナに対しても、勝沢は、食指を伸ばしている。
ルナに関しては、ルナの方から寄ってきたのだ。
どうやら、勝沢が、ななせという、
「自分のオンナを手に入れた」
ということを感じたのだろう。
しかし、まさか、それが前の自分のレズ相手だとは、夢にも思っていないはずだ。
そんなルナは、完全に勝沢の言いなりだった。自分から言い寄ってきたのだから、それもそうだろう。
だから、もう、お店にも行っていない。もし、これがルナという女が、レズだということを知らず、さらに、究極のM女だという状態なので、飽きることはなかった。
ななせに対しても同じだった。ななせには、元々、
「弱みを握っている」
というのがあった。
二人の女を、しかも、お互いに知り合いなのに、
「まさか、お互い一人の男に凌辱されているとは思ってもいないだろうな?」
と考えることで、これほどの快感が得られるとは思ってもいなかった。
別にお互いを騙しているわけではない。何も言わないのは、騙しているのとは違うだろう。
しかも、二人とも、充実した毎日を送っているという。それはあくまでも、男の側が聴いたことで、女の方は、そう答えるしかないのだろうが、女の性がそこにあるのだとすれば、男として、
「二人のオンナを飼っている」
という感覚になり、自分がここまでサディスティックだったのかということを思い知った気がしたのだ。
完全に、勝沢は自分に酔っていた。ハーレムもいいのだろうが、飼っているオンナが知り合いなのに、お互いに、惹かれている男が同じで、一緒に凌辱されているということを知らないのだ。
勝沢は、二人に、
「レズ禁止」
を言い渡している。
ここで、二人が会ったりして、自分のことをバラされると、せっかくの関係が壊れてしまう、
だが、本当はそれでもいいと思う自分と、もったいないと思う自分がいる。
ここまでできるのだから、もっと自信をもって、他のオンナを自分のものにしてもいいのではないかとも思うのだ。
ただ、そんなことをしているうちに、いや、前から変わらず、勝沢は、風俗遊びを辞める気はなかった。
そのことは、二人のオンナも分かっているようで、
「あくまでも私は、ご主人様に飼われている立場なので、文句はいえません」
といっていた。
そういう意味で、自由に動けるのだった。
そのうちに、勝沢は、ルナが辞めた店に、今度は別のお気に入りの女の子を作って、遊びに行っていた。
ルナが、そのことを知ることはないだろうと思っていた。
ルナは、店を半分逃げるようにして辞めた。それは、勝沢を追いかけてなのだが、彼女のプライドから考えて、そんなことを店に知られるようなことはしない。だから、勝沢も気楽に店に通うことができるのだ。
その店において、勝沢は、その女を見た時、ショックを覚えた。ぼかしが入っていても、胸の鼓動が止まない。
その女は、勝沢を骨抜きにしていた。しかも、彼女はその天性の勘からか、
「この男は、複数のオンナを飼っている」
ということが分かったのだ。
そして、彼女が抱いた関係は、ちょうど、
「三すくみ」
という関係だった。
それでは、どこかバランスだけで成り立っているように思えたことから、
「だから、今度は私がこの男を飼ってやろう」
と感じるようになったのだった。
この様子を傍から見ている人がいると、彼女のことをきっと、
「リーサルウェポンだ」
といえるだろう。
そうまるで、神々からいろいろ送られることで、人間界に不幸をもたらすためにやってきた、
「パンドラ」
のようではないか?
そう、勝沢にとって、彼女は、
「パンドラのようなもの」
であった。
そして、彼女の登場は、実は最初からであり、話の端々で出てきていたのを、誰も気づいていなかった。それがフィクションというものだろうか?
そういうストーリーを、頭の中で描いている人物がいた。
それが、前作品から続いている、
「マサムネ」
の作品だったのだ……。
( 完 )
最後のオンナ 森本 晃次 @kakku
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