そして朝

その日は、目覚め方が少し違った。

やけに体が重い。何かが体の上にのっているような。

しかも、やけに柔らかく、温かい。布団ではこんな風にならないはずだ。

疑問を感じつつ、重たい瞼をこじ開ける、視界に入ってきた重みの正体は、

「あっ、起きちゃいました?」

昨日の彼女だった。

「私の上で何をしているんだい?裸で。」

重さ、柔らかさ、温かさの理由がすべてわかった。人が、それも女の人が自分の上に裸で乗ってきて、さらに自分も服を着ていなければそうもなる。

というか、気づけば自分も服を着ていない。寝る前には来ていたはずだから、私の寝相がよほどおかしくない限りは、誰か・何かに脱がされている。

そして、私は自分の寝相はいいほうだと自負している。ということは十中八九犯人は上にのっている彼女だろう。

そこまでを考えていると、彼女は困った顔で、

「何をしてると言われましても....」

と答えた。

「魔女さんを食べていたというしか....」

聞いた瞬間、数秒思考が止まった。食べているの意味は分かる。分かりたくもないが分かってしまう。

現に彼女の手は私の手を抑え、足は少し絡んでいる。

村の若者が異性同士でこういう行為をしているのも知っている。人間観察のために魔法を使っていたらみつけた。だが、

「こういう行為は普通異性同士でやるものではないのか?」

「んー。少し違いますかねぇ。」

と彼女は言う。

「正確には、好きな人とすることが多いですかね。たまたまみんな異性を好きになるだけで。」

「なぜ今なんだい?別に昨日もやろうと思えば...」

といったところでわかった。昨日と今日の朝の違い。それはただ一つ。

「あの薬か...」

もちろん本来はそんな効果はない。大方彼女が材料の配分をずらしたのだ。

どの材料の量をどうずらすとどうなるか。工程表に書いたのが仇となった。

「別にあの薬だけのせいではないですよ?あの薬が決め手となっただけで。」

「どういうことだ?」

「もとから魔女さんのことは好きだったんです。あまりにも気持ちが強すぎたんで、自分で抑制するための魔法をかけましたが。」

驚く。驚かずにはいられない。彼女がもとから私を好きだったことにも驚くが、それ以上に、

「君も、魔法を使えたのか!?」

「はい。と言っても、魔女さんほどうまくはありませんが。今回も、薬の効果を少し強くしただけで、こうなっちゃいましたし。」

「そんなにあの薬の効果を強くしたのか?君の魔法を打ち消すほどに?」

言いながらもわかっていた。そんなに材料の配分が変わっていれば私が気付く。そんなことはあり得ないと。

そして、魔法というのは時間がたてばたつほど効果が薄れていく。つまり、

「違いますよ?多分効果が薄れてきちゃってたんです。掛けたの一年前でしたし。」

「しかし、解けてはいないんだろう?なら─」

解けたらどうなってしまうのだろう。そんな不安が胸をよぎる。

効果が薄くなっただけでこれだ。解けてしまったらどうなるかなんてわかりきっている。

おそらく、彼女の中では今魔法の効果が自分の思いと戦っている。だからこそ、私が起きる前に舌や指を入れられることもなかった。しかし、この戦いが、魔法が解けるという最悪な形で終われば───想像もしたくない。

寝起きで動きが鈍く、上を取られているこちらと、私より先に置き、上を取っている彼女。

抵抗してもあまり意味はない。

そこで彼女が口を開いた。

「そういえば、自分が欠けた魔法っていつぐらいに解けるかわかるじゃないですか。」

聞きたくない。その発言が今出てくるということは、つまり、


「この魔法、あと10秒くらいで解けるみたいです。」

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魔女と彼女 @natakaya

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