猛毒の代償 黄衣の爪痕

 それは今から百年前、前回の苦痛龍復活の兆しがあった頃のこと。当時、苦痛龍と相対する筈だった茂垣の僧は重い病に蝕まれており、苦痛龍復活を目論む僕、“深きもの”たちと対峙しながら、苦痛龍を封印するだけの力は残されていなかった。


 当時の村の者たちは一計を案じ、対策として、村の外より術者を招き入れて深き者たちと対峙させ、茂垣の僧は苦痛龍の封印にのみ徹するという策に考え至る。


 その折、当時の玖津ヶへやって来た術者というのが、異国よりやって来た強大な力を携えた人間。否、人間と神との境界にあるという、現人神あらひとがみだったのだ。


 結果から語るならば、苦痛龍の復活は阻止することができた。その者の率いる“黄衣の軍勢”は、圧倒的な力の元に深きものたちを打ち払い、苦痛龍復活を阻止するのに大きく貢献したのだという。


 しかし、その者が用いたのは、邪法の中でも禁忌の先にあるという恐ろしき術。醜悪しゅうあくな猛毒を以て毒を制した結果、術者が去った後も、村には多大な爪痕が残ることとなってしまう。


 術者が残した呪い。それは苦痛龍を退けた後も消えることなく村を蝕み続け、何人もの村人が命を落としていった。それをはらう為、苦痛龍の封印に力を尽くした当時の茂垣の僧は残りの力を振り絞り、村から呪いを退けた。


 その命と引き換えにして。


 全てが終わってみれば、村は凄惨な有り様だったという。それこそ、外からの術者の力を借りずに苦痛龍と対峙した方が良かったとさえ言われる程に。


 そうして百年経った今。悔やみきれぬ程の後悔と、幾多もの犠牲を出して尚、玖津ヶ村にはその呪いが残り続けている。

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