むかし話

 それは今より約三百年ほど前のこと、この村に苦痛龍という邪悪な神が降り立った。苦痛龍は自らの腹を満たす為に生贄を欲し、海より現れた下部たちに村人を連れ去るように命じたのだった。


 村人たちは次々に犠牲となってゆき、村を捨てて逃げようとはしたものの、海も山も苦痛龍の僕たちに取り囲まれ、誰一人として逃げることは叶わなかったそうな。


 村の異変に気付いた当時の大名がすぐに討伐隊を編成したものの、魚人や地中から襲い来る異形の怪物に手も足も出ずに全滅。その後数回に亘って討伐隊が編成されるも、皆返り討ちに遭い、苦痛龍の生贄にされたという。


 そうして遂に、大名はその村を見放し、玖津ヶ村は存在しない村とされてしまったのだった。


 そんな折、どこからかこの村の噂を聞きつけた旅の僧、“茂垣蒼蓮もがきそうれん”が陸の孤島と化したこの村を訪れる。蒼蓮は不思議な力と奇妙な本を携えており、村に蔓延っていた魚人や怪物たちを退けることができたそうな。


『自分ならばこの村を救えるやもしれぬ』


 そう考えた蒼蓮は、連れていた二人の子供を残し、お供たちと共に苦痛龍の根城へと繋がる祠へと出向き、対決を決意する。


 蒼蓮が苦痛龍との対決に出向いてより半日。程なくして海は静まり、村を取り囲んでいた怪物たちは姿を消し、村には遂に再び平和が訪れた。


 しかし、青蓮とそのお供は、苦痛龍の元から帰って来ることはなかったのだそうな。


 その後、村の者たちは蒼蓮とお供の者に感謝と敬意を表して寺を建て、二人の残した子供を大切に育てましたとさ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る