髟キイ夜縺ョ籠蝓 フェ繧、繧コ伍:蜉ゥケテ

 気付けば暗い道を歩いていた。周囲の景色は全てが白黒で、そこには音も匂いも温度も無い。波飛沫なみしぶきが立つ岩場。見慣れないその光景は、いつかどこかで見た覚えがある気がする。それも多分、つい最近のことだった筈。ならばここは、一体どこだろう。


 思い出せそうで思い出せない。そんな気持ちの悪さを覚えていると、次第に目の前に巨大な岩場が広がってくる。あぁ、そうだ。確かここは昨日誰かに連れられてやって来た、願いの叶うという岩場じゃないか。そうそう、こうして洞窟の中を進んで行くと、もう少し進んだところに、水晶の乗った岩の祭壇があるんだ。


 白黒の景色を先へ進めば進む程強くなっていく既視感きしかん。そうして岩の祭壇の前まで辿り着いて真っ黒な水晶に触れると、水晶は台座ごと一緒に崩れ去り、同時に世界は音もなく揺れ始める。天井が崩れ、このままでは岩の下敷きになってしまと感じた俺は、すぐに踵を返して入口の方へと走った。


「――――」


 洞窟の入口へ辿り着いたそのとき、音の無い世界で誰かが俺を呼んだような気がした。理由も無く、不意に今来た道を振り返ると、視線の先、祭壇のあったその場所に、誰かが立っていた。ハーフパンツに青のノースリーブシャツ。身長は、多分俺と同じくらい。セミショートの髪に、くりっとした目。しかしその目には光を灯してはおらず、片方の腕には奥の暗闇より伸びている黒緑色の触手のような何かががっちりと絡みついている。


 誰だろう。俺はあいつのことを知っている筈なのに、どうしても思い出すことができない。再び思い出せそうで思い出せない気持ちの悪さを再び覚えていると、少女は触手の絡みついていない方の手を伸ばし、口を開くと――。


「――すけて、隼人」


 そう言葉が聞き取れた瞬間、天井から落ちて来た岩が俺とあいつとの間を遮った。

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