エピローグ
第45話
バタバタとメイドたちが走り回っている。僕たちはアウル伯爵様のお城で準備をしていた。今日は僕と香織が結婚する日。そして柚子が僕と香織の養女になる日でもある。香織のウエディングドレスの着付けに僕の支度。さらには柚子の支度まで大忙しなのだ。結婚式は教会で行われる。教会でもいろいろな人が準備をしている。
「調子はどうだ?」
声をかけてきたのはウルガさん。
「とても緊張していますよ」
「そうか、そうか。私にもこんな時があったな……。頑張れよ。優」
「はい!頑張ります!」
がちがちの僕をほぐすために声をかけてくれたのは非常にありがたい。
「優。おめでとう。頑張ってね」
「光希……。来てくれてありがとう」
いつもとは違って、ドレスを着ている光希。見違えてしまうほどかわいいと思う。
「優。元気か~」
「海斗さん~。緊張しているよ」
「俺も向こうの世界では結婚していたからな!良く分かるぞ。その気持ち」
「海斗さん~。ありがとう」
海斗さんも立派な服を着ている。向こうの世界で結婚していたのは初耳だった。これからいろいろ教えてもらうことが多そうだ。
「緊張していますね。優さん」
「はい……。もちろんしているよ」
「気楽にいかないと持たないですよ」
「分かっているよ。ありがとう。茜さん」
茜さんもドレスを着ている。いろいろの男の人にモテそうな美人さんになっていた。
「優さん。次話したい神話は日本神話だ。楽しみですよね」
「もちろんだよ。あとでゆっくり語ろう」
「いつも通りの優さんに戻りましたね。その調子で頑張ってください」
「ありがとう。緊張がほぐれたかも」
神話の話をして今まで以上に仲良くなっている隼人さんのおかげで、少しだけ緊張がほぐれた気がしている。隼人さんも立派な服を着ており、かっこいいと思う。
「にいに。今日からパパって呼ぶね」
「柚子。可愛いなぁ~」
「えへへ、えへへ。パパ抱っこ」
胸を撃ち抜かれたような強烈な衝撃。甘やかしてしまいそうだ。僕は柚子を抱き上げた。
「そろそろ時間ですよ。優様」
「アリーシャさん。すぐに行きます」
柚子を抱っこしたまま、アリーシャさんに連れられ、馬車に乗る。香織よりも先に教会に行くという決まりがあるようなのだ。
「アリーシャさん……。香織はどうでしたか?」
「うふふ。教会に行ってからのお楽しみです」
「教えてくださいよ~」
「ダメです!香織様と約束しましたから」
「分かりました……。楽しみにしています」
アリーシャさんのおかげで本調子に戻った僕は香織の姿を想像してしまっていた。不思議と笑顔になってしまう。
「パパ?何で笑ってるの?」
「な、なんでもない……」
「パパ。ここに座っていい?」
「いいよ」
隣に座っている柚子に僕の表情を見られたことで、照れてしまった。柚子は僕の膝の上に座る。柚子のパパ呼びには全然慣れない。いわれるだけで顔を赤くしてしまう。アリーシャさんはさっきからずっと笑顔でこちらを見ている。
数分が経過し、僕たちは教会に到着する。中には大勢の人が椅子に座って待っていた。僕が教会に入ると、みんなの視線が僕と柚子に集まる。心臓の鼓動が早くなる、先ほどまでほぐれていた体がぎゅっと縮まる感覚だ。
「柚子ちゃん。こっちこっち」
アリスちゃんに呼ばれて、柚子は最前列にいるアリスちゃんの隣の席に座る。サーシャさんの姿もあった。僕はお辞儀をする。サーシャさんはにこりと笑いながら、僕の真似をする。サーシャさんの隣には空席が一つ、ウルガさんが座るのだろうか。
「これから、優様と香織様の結婚式を始めます。新婦様、入場してください」
神父の一声で、結婚式は始まった。会場全体が拍手で包まれる中、香織とウルガさんが入場してくる。香織はウルガさんの腕の内側に手を添えており、ゆっくりとこちらに歩いてくる。明りによって白いウエディングドレスは一層輝いており、ウエディングドレスに包まれた香織の姿は見惚れてしまうほど美しかった。香織が僕と見つめあう。ウルガさんは先ほど空席だった場所に座った。
「夫たる者よ。汝、健やかなる時も、病める時も、常にこの者を愛し、慈しみ、守り、助け、この世より召されるまで固く節操を保つ事を誓いますか」
「誓います」
「妻たる者よ。汝、健やかなる時も、病める時も、常にこの者に従い、共に歩み、助け、固く節操を保つ事を誓いますか」
「誓います」
「では誓いのキスを」
僕は香織のベールをあげて、キスをする。
「それでは結婚指輪の交換を」
僕と香織は順番に左手の薬指に指輪をはめる。会場からは盛大な拍手があがる。僕たちは退場した後、パーティー会場へと移る。パーティー会場では食事がテーブルに運ばれており、アウル伯爵様が直々に指揮をしていた。教会から移動してきた人たちが続々と会場へと入っていく。
「みんな、よく来たな!今日はめでたい日だ!存分に楽しんでくれ!」
アウル伯爵様の一声で会場が一層盛り上がる。僕と香織は会場に入場する前から緊張してしまっていた。
「香織。大丈夫か?」
「うん。優こそ、大丈夫?」
「もちろんだ」
お互い震える声で会話をした後、入場の合図を待った。
「では優と香織の入場だ。入ってよいぞ」
アウル伯爵様の合図で二階から入場をする僕と香織。みんなにお辞儀をした後に手を振りながら一番前の席に座る。真ん中に小さい席が用意されていた。
「そしてみんなにもう一つ報告がある!今日、柚子は優と香織の養女となった。前に出ておいで柚子」
アウル伯爵様に言われて緊張しながらも前に出てくる柚子。そして僕と香織の真ん中の席に座る。
「パパ。ママ。大好き」
僕と香織は柚子の言葉にキュンっとしてしまう。異世界に来ていろいろあったが、柚子は絶対に僕と香織で守ると誓った日でもある。
「さぁ、みんな。パーティーを楽しもうじゃないか!」
歌やダンスの披露においしい食事。一週間以上前からこのパーティーの準備をしてくださったアウル伯爵様やお城のメイト、執事。ウルガさん一家、そして四人のSランク冒険者には感謝してもしきれない。僕たちはパーティーを存分に楽しんだ。
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