第44話

 家を建て始めてから一か月がたった。これでウルガさんに屋敷でお世話になることはなくなってしまう。少しだけ寂しく思った。


「優!家が完成したのか?」

「はい……。今までありがとうございました」

「気にするな。そっちの家にはちょくちょくお邪魔するからな」

「ぜひぜひ!来てください」


 ウルガさん、サーシャさん、アリーシャさん、アリスちゃんに頭を下げる。


「柚子ちゃん……。また遊ぼうね……」

「遊ぼう!アリスちゃん」

「うん!ばいばい」

「ばいばい。アリスちゃん」


 柚子と関わり始めてから、アリスちゃんの引っ込み思案な性格は改善され、人前でも堂々と話せるようになった。それに今ではサーシャさんに弓の稽古をつけてもらっているみたいだ。成長したアリスちゃんをみて嬉しくなる。


「お世話になりました」


 最後は香織が頭を下げる。


「香織さん。優さんを幸せにしてあげてくださいね」

「はい!絶対にします」


 決意のこもった香織の目は眩しく思えた。


「また稽古をしたければ、家に来るのだぞ」

「は~い」


 僕たちはウルガさんたちに見送られながら、アルタイルで完成した家を見に行くことになった。


「うわぁ~。すごい……」

「凄いね……。住むのが楽しみだね」

「わぁ~い。大きい」


 予想以上の仕上がりに目を丸くしてしまう。大きなお屋敷に温泉施設までつながる渡り廊下。さらに聖域も敷地内に入っており、魔物が入ってこられないようにシリウスさんの結界が守っている。外周には外敵の侵入を防ぐために堀が掘ってあり、巨大な門、頑丈な壁で囲まれている。そしていつでも冒険者の人たちが泊まれるように宿まで完備。もちろん使用料金は貰う。それからルミナスに定期的に水を売り出すための施設まで整っている。湧水からくみ上げられた水が巨大なろ過装置に入り、八十度以上の高温で温められる仕様になっている。これは向こうの世界で調べていた知識で、大工さんたちに説明するのに苦戦したことを覚えている。屋敷の入り口に僕たちは着地して、家の中に入っていく。


「優、香織、柚子ちゃん。おかえり」


 玄関に姿を現したのは光希だった。これが整地を手伝ってくれた報酬である。僕たちが考えた家は広すぎたため、三人では管理しきれないと思っていた。もちろん、香織と柚子には許可は取ってある。各々のプライベートスペースも管理されている。この家には玄関のカギのほかに五つの室内カギが存在しており、お互いのプライベートスペースには入れないようになっている。共用スペースのいくつか存在している。温泉施設、食堂、調理場、共用のリビングは自由に使ってもいいことになっている。各々のプライベートスペースにもキッチンとダイニング、リビングがあるので一人で食べたいときはそちらを使う。要するにシェアハウスみたいなものだ。土地代や家を建てたのは僕なので、家主なのである。だから一か月に一回、四人から家賃をもらうことで、負担を減らそうと考えている。四人ともSランク冒険者なのでたくさんのお金をもらっている。そのことからルミナスの宿よりは圧倒的に高い家賃だ。


「ただいま!もう引っ越してきたのか?」

「うん!完成した初日にここに入れるようにね」

「さすがだな」

「当たり前だよ。この家に住めることを僕は楽しみにしていたからね。香織、温泉に行こう」

「ちょっと待ってくれ。荷物もまだおいていないし、四人に説明しないといけない施設があるから、お風呂はお預けで」

「えぇぇぇ!優のケチ~。むっうぅぅ」

「光希。あとでゆっくり入りましょう」

「分かったよ。優、共用リビングで待っていればいい?」

「うん!よろしく」

「は~い」


 光希は渋々、共用リビングに向かった。僕たち三人が暮らすプライベートスペースにカギを使用して中に入る。廊下の先には二階へと続く階段もある。右の扉を開けると広いリビングにダイニングとキッチン。その手前には和室がある。トイレは一階と二階で一つずつ。二階に上がると空き部屋が六つ。その中で一番広い部屋を僕たちの部屋にする予定だ。部屋を分けるかどうかの話も出たが、全員一緒の部屋で寝るという話になった。家具は生活できるようにあらかた整っているので買い足す必要はない。そして持ってきた荷物を全員で協力して収納し、共用リビングへ向かうことになった。


「お待たせ!待たせてごめん」


 僕たちが共用リビングに入ってたのは最後だった。四人はすでにソファーでくつろいでいた。


「遅いぞ。優」

「待っていましたよ。優さん」

「早く神話の話をしたいですね」

「お風呂入りたいから、早く~」


 四人それぞれ、とこれからいろいろな話ができそうなのでワクワクしていた。僕が家主なので、みんなに敬語はなしと言われているので、恥ずかしいがため口を使うことにした。


「みんなに言っていない、便利な装置があるんだ。ついてきて」


 温泉施設までの渡り廊下を歩いて、右手の扉の奥の部屋まで案内する。


「にいに、あれは何?」

「優。この魔法陣は?」


 柚子は目を輝かせている。知りたそうな顔をしている香織。


「あれはね。転送装置だよ。行きたい街魔法陣にマーキングすればどこにでも移動できる」

「優。どこにでも行けるの?」


 興奮気味の光希。


「誰がこんなものを作ったのですか?」


 質問する隼人さん。


「冒険者ギルドにいたギルさんと商人ギルドのギルド長さんが作ってくれたんだ」

「あの人が……。素晴らしいですね」

「アウル伯爵様が出資をしてくださっていて、Sランク冒険者が必要な時にすぐに応援に駆かつけてほしいと伝言をいただいている」

「なるほど……。人使いが荒いですね」


 あきれ気味の茜さん。


「優。使い方を教えてくれるか?」


 すぐにでも使いたそうな海斗さん。


「うん、分かった。説明するね」

「おう!頼む!」

「まずは魔法陣に触れます。そうすると行きたい街の魔法陣が選択できるようになります。最後に浮かび上がった街の魔法陣に触れるだけ」

「簡単だな」

「うん!魔法陣に触れると、各地にある冒険者ギルド支社の魔法陣部屋に出れるみたい」

「へぇ~。明日にでも行きたい冒険者ギルドに行ってくる」


 説明を聞いた海斗さんはウキウキしながら言う。


「話しは以上。温泉に入ろう!」


 みんなの明るい返事が戻ってきた後に温泉に入りに行く。

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