第42話
「やっと抑え込めたわ!この力いいね~。破壊衝動が抑えられないわ」
僕たちと同じ姿の人間。
「俺の名前は佐藤大地。よろしく」
体を突き破られたはずのヤマタノオロチ媒体の男が、そこには立っていた。
「このあたりの木は邪魔だね」
そう言いながら魔刀を一振り、東京ドーム一個分くらいのはげ森が出来上がる。
「降りてきてよ!俺の攻撃が届かないじゃないか!」
大地の重力操作により空に飛んでいた僕たちは地面に落とされる。一層強くなる重力。
「くっ……。体が重いよぉ……」
「なんだ?これは……」
「押しつぶされそうです……」
「自由が利きません……」
「にいに。動けないよぉ……」
Sランク冒険者の四人と柚子が這いつくばる中、身体強化されている僕だけ動けるみたいなのだ。
「へぇ~。お前は動けるんだぁ……。楽に破壊してやろうと思っていたのに……」
「あいにく……。体が丈夫なもので……。解除結界!」
僕は自由の利かないみんなと大地を囲むように結界を張る。重力の効果は一切なくなり、全員が起き上がる。
「アルタイル。ありがとな。この力がなければ全滅だったよ」
「主人に感謝されるのは嬉しいな」
少し照れているアルタイル。僕の肩の上に乗っている。人間相手だとでかい体の聖獣たちは的になってしまう。だからみんなの聖獣も小さくなっていた。
「最高傑作の技を解除するだと!どこまで俺の邪魔をするんだ!お前は!」
「目的は知らないが。六対一だよ」
「数が多くたって俺に勝つことはできない!」
大地は高速移動して僕と仕留めようとしてくる。
「優には近づかせないよ」
ハクトラの力で強化された移動速度。僕の前に一瞬で姿を現した光希は大地の刀を止める。
キーン!
鳴り響く金属と金属がぶつかる音。二人は膠着状態になる。
「隙だらけだぞ!大地」
爆発の力を使って、ものすごい勢いで突撃してくる海斗さん。
「ちっ!」
大地はその攻撃を避ける。
「後ろを確認しないとだめですよ!大地さん」
大地の後ろには、隼人さんが土で作った壁。壁に直撃した台地は前に吹き飛ぶ。
「とどめですよ」
作り出された水の渦。大地は中央に向かって吸い込まれていく。そして上からは槍を持った茜が衝撃音とともに大地の胸を貫いた。
「ぐはっ……」
口から血を吐く大地。すぐに穴の開いた胸を再生し、不利だと思ったのか僕たちから距離をとる。
「大地。僕と柚子のことを忘れていないか?」
大地に銃口を向ける僕と柚子。ハンドガンから銃弾を発射する。空中に浮いている状態では避けることは不可能だ。僕の銃弾は大地に直撃して粉々に砕く。
「ウグル!ありがとう!この力最高だよ!」
「我の力をそんなに気にいったか?嬉しいぞ!」
「柚子!最後に仕上げだ!」
「はいです!」
柚子が大地に撃ち込んだ銃弾からは炎が出現し、粉々になった体をひとつ残らず焼き尽くし、灰になった。もう再生することはできないはずだ。
「終わったぁぁぁぁぁ!」
「優。おいしいところを持っていくなよ」
「ごめん、ごめん。光希」
「さすがだ!優」
「ありがとうございます。海斗さん。みんなもお疲れ様です」
首を縦に振る茜さんと隼人さん。
「にいに。柚子ね、頑張ったよ!ご褒美ちょうだい」
両手を広げる柚子。僕は柚子を抱き上げた。
「頑張ったな!柚子。よしよし」
「えへへ」
僕に頭を撫でられて嬉しそうな柚子。僕たちの雰囲気が明るくなった。
「ルミナスへ帰ろう!」
みんなの返事を聞いた後、僕たちはアルタイルとベガに乗ってルミナスに帰還した。
ルミナスの大門の前に着地した僕たちは、門に向かって歩いていた。大門にはウルガさんと香織が立っており、香織は僕の姿を見た瞬間に走ってこちらに向かってくる。
「おかえり!」
僕は勢いよく飛び込んでくる香織を受け止めて支える。
「ただいま!無事でよかったよ」
「うん!優と柚子のおかげだね」
僕に抱き着いている香織を見て、柚子は不満そうな顔をしているように見える。それでも柚子は何も言わなかった。
「柚子もおかえり!」
柚子を抱き上げる香織。お母さんみたいだ。
「ただいま!ねえね」
柚子は満足そうな表情に変わった。四人のSランク冒険者のみんなも笑顔になっている。
「さぁ、行こう!ギルドでみんなが待っているぞ」
ウルガさんに連れられ僕たちは冒険者ギルドに向かう。ギルドの入り口ではルルさんとギルさんが待っている。
「優さん。いつの間に婚約していたの?」
「言ってなかったですね……。半年前です」
「だいぶ、前だったのね。で、どっちが求婚したの?」
「それは……、秘密です……。ははは」
「もう……!ケチだなぁ……。ケチな優さんにはこうしてあげる!」
僕の腕にくっついて胸を接触させるルルさん。いつまでたってもこれだけは慣れない。僕は顔を赤くしてしまう。
「私の優にくっつかないでくださいー!」
ルルさんを引っ張る香織。周りの目が僕たちに集中する。
「恥ずかしいから……。やめてよぉぉぉ!」
ルルさんは最後に、ギルさんに僕から引きはがされて大人しくなった。多くの冒険者たちが席に座る。ウルガさんが前に立つと一斉に静かになった。
「冒険者のみんな!今日は宴会だ!私がおごるから自由に飲んでくれ!」
「ウルガさん!ばんざぁい!」
「飲むぞぉぉぉぉ!」
周りから大きな声が聞こえる。
「そして、みんなに報告がある。聞いてくれ」
再び静かになる。
「今回の作戦で功績をあげた、優と柚子、そして香織をSランク冒険者とする!」
「やったな、優!」
「柚子ちゃんさすが!」
「香織ちゃんもおめでとう!」
今回はみんな歓迎してくれている様子だ。そして僕はウルガさん、ルルさん、ギルさんを超えて、Sランク冒険者になったのだった。宴会は朝まで続き、十分に楽しむことができた。
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