第40話

「香織!」


 ウグルは空中で香織方向に進み、背中に乗せる。そして地面に着地したのと同時にアルタイルの上まで飛び上がった。香織が僕の腕の上に落とされる。ウグルは体を縮めて、僕の肩に着地する。


「はぁっ……、はぁっ……、はぁ……、はぁ。苦しいよ。優」

「香織!香織!今、毒消しを撃ち込んであげるからな」


 香織に毒消しの弾を撃ち込んでいるが、毒の回るスピードが早すぎるため追いつかない。


「わ、わたし……。このまま……、はぁっ……、はぁっ……。死んじゃうのかな……」

「そんなこと言わないでくれよぉ……。頼むから戻ってきてくれよぉ……」


 溢れ出る雫。止めることができない。


「泣かないで……。で……、でも……。心残り……、なのは……。はぁっ……、はぁっ……。優の子供を産めなかったこと……、かな……。はぁ……。はぁ……」

「戻ってきて……。お願い……、だから……」

「主人。力を使え!」

「我の力もだ!」

「なんだ……?この感覚は……」


 アルタイルとウグルから送られてくる聖獣と怪物の力。Sランクの四人が人間離れをしていたのはこのせいなのだろう。力が溢れ出てくる。


「主人様。私の力を使ってください」

「うん」


 柚子にもと僕と同様で、ベガから力が送られているようだ。


「こ、これなら……。毒を抜くことができるかも……。香織、もう少し頑張ってくれ!」


 聖獣であるペガサスの力は人間離れした治癒能力。自分以外相手でも使えるみたいだ。その他にも高度な浄化能力、結界。怪物フェンリルの力は身体能力大幅強化。当たったのものは粉々に崩れ去ってしまうとのこと。アルタイルとウグルから力をもらった時に脳裏に浮かんでいた。柚子もアルタイルの上に騎乗して、同時に香織に手をかざす。効果は二倍。これならば体全体に毒が行き渡る前に取り除くことができるはずだ。


「うっ……。ああっ‼︎うーっ!うーっ!い、痛い!……」

「頑張れ!頑張ってくれ!」

「ねえね。頑張って!」


 強烈な痛みに襲われている香織。今にでも気絶しそうなはずだ。体の外に浮き上がる紫色の塊。これが毒なのだろう。毒が完全に体から抜けたのと同時に香織は気絶してしまった。


「柚子!香織を頼んだぞ!」

「うん!」


 アルタイルから飛び降りる僕。抑えきれない怒りが溢れ出ている。僕の指示のミスで香りを危険にさせてしまったこと、何より愛する人を危険に晒したヒュドラは許す言葉できなかった。


「お、おい!近づくな!近づくなぁ!」

「お前だけは絶対に許さない!覚悟しろよ!ヒュドラ!」


 アルタイルから力をもらった僕には毒気は全く効かない。魔法も銃を通さなければ使用できないわけでもない。今までは魔力の消費量を抑えれるから使っていただけだ。それに今はウグルの力もある。近接戦闘でも遅れは取らないだろう。


「一斉浄化!」

今まで蔓延していた毒気が一瞬にして消え去る。

「お、おい……。近づくな……。近づいてこないで……」


 ガタガタに震えるヒュドラ。


「ヒュドラ!先程までの威勢はどうした?お前の実力はそんな程度なのか?」


 ズルズルと後ろに下がるヒュドラ。戦意を失っているようにも見える。


「終わりだよ!」


 僕は瞬間移動したかのようにヒュドラの背後に回り込む。そして頭にハンドガンを当てる。発砲音と共にヒュドラの頭は一瞬で粉々になる。


「焼けろ!」


 追い打ちをかけるように炎を纏わせた銃弾を撃ち込んだ。ヒュドラの首は焦げてしまい。再生することはなかった。


「あらら、負けてしまいましたか〜。やっぱりあなたも使えませんね〜」


 どこで戦闘を見ていたのか全くわからないが、再び現れる。全身を漆黒の服で纏った男。


「お前は……」


 僕はすぐにハンドガンをショットガンに変更して撃ち込む。男は魔刀で、ショットガンの弾を斬った。


「効きませんよ!私をこいつと一緒にしないでください!ヒュドラ!せめてもの償いです。私の一部になりなさい!」


 そう言うと男は魔刀をヒュドラに突き刺す。力を吸収してしまっているようなのだ。ヒュドラの姿は消え、残っていたのは男のみ。


「こいつのおかげで、人間の魂がこんなに集まりました。ふふふ。ふはははは」


 男の頭の上には巨大な塊。人間の魂が収納されているみたいだ。


「ヤマタノオロチ!お前は何を考えてる!」


 ウグルの怒りの矛先はヤマタノオロチだ。


「そんなこと、一つしかありませんよ。この世界に顕現することです!さぁ、魂たちよ、私の一部になりなさい!」


 ヤマタノオロチは人間の魂を全て取り込み、媒体となっていた男の体を突き破りながら大きくなっていく。「ゴゴゴゴゴ!」地面が揺れる。大地震が起きた時みたいに立っていることが困難なほどだ。


「な、なんだよ……」

「ヤマタノオロチ!禁術を使いおって!」


 全長は二十メートルほどで八本の首に八本の尻尾。これはまさしくヤマタノオロチ本来の姿だった。僕はポカンと口を開けてしまっている。柚子も同じみたいだ。


「主人!ここは危険だ!早く上へ!」


 アルタイルの言葉ではっと目が覚める。僕はすぐにアルタイルに騎乗して穴の上に上がった。外にいる冒険者や騎士団の人たちも目を疑ってしまっている。魔物はあらかた片付いており、残すはヤマタノオロチ一体と言ったところだ。


「優さん!あれはもしかして……」

「そうですよ……。隼人さん。まさしくヤマタノオロチです」


 体を震わす隼人さん。それもそのはず、ヤマタノオロチの目を見るだけで腰が引けてしまうほどの恐怖に襲われるのだ。


「人間よ!滅んでしまえ!」


 大声で叫ぶヤマタノオロチ。八つの口からはこの世界全ての属性のブレスが放たれた。


「いけない!柚子、アルタイル、ベガ!みんなを守る!」

「神術!広範囲結界!」

 

 巨大な聖なる結界がヤマタノオロチの攻撃を受け付けない。手に負えないほどの怪物をこの世界に顕現させてしまった。

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