第38話
グリフォンの移動性能は非常に高く。遺跡が崩壊した際に空いた大穴が目視で確認できるところまで近づいていた。大穴の手前には多くの魔物がうろうろしている。
「手前で降りましょう!」
ジルさんが大きな声で指示を出したので、魔物がいない安全地帯に降りることになった。安全地帯と言っても魔物がいつ現れてもおかしくない。
「ジルさん。シリウスさんを呼んでおきました」
「ありがとう。優さん」
事前にジルさんから指示をされていた通りに僕は聖域に寄ってシリウスさんを呼んできていたのだ。
「シリウスさん。結界を張ってもらってもいいですか?」
「もちろんです。ここは私がしっかりと守ります」
「ありがとうございます。頼みました」
シリウスさんは安全地帯全域に結界を展開する。これでここが魔物に襲われることは無いと思われる。そして冒険者たちの治療はこの場所で行われることになった。こんな作戦をすぐに思いつくなんてジルさんは頭の切れる人だと思った。
魔物との戦闘が始まる。ここにいる魔物はどれもÅランク以上のものばかり、苦戦を強いられる戦いになりそうだ。
「ザクト!焼き尽くせ!」
海斗さんは上空からザクトに指示を出し、ザクトは巨大な炎の竜巻を作り出す。巻き込まれた魔物たちは骨ひとつ残らずに消し炭になる。そのままザクトは海斗を中心に低空飛行で円を描きながら魔物を焼き尽くしていく。
「行くぜ!行くぜ!」
海斗は地面におり炎を纏わせた双剣で魔物を斬り始めた。魔物を斬れば切るほど炎は勢いを増し燃え上がるようだ。朱雀の円の中に入った魔物は逃げることは許されずに海斗さんに斬られていく。
「海斗さん。私も負けません。リュウキ頼みましたよ」
リュウキは茜さんに答えるように水の渦を作り出す。中心に吸い込まれていく魔物たちは水圧に押しつぶされているようだ。四つの水の渦は茜さんを囲むように生成されており、中心にいる茜さんが対処できる範囲。ざっと数えると十五体ほどの魔物だけを残している。
「次はあなたですね。うふふ」
可憐に振り回される槍はまるで龍のようだ。水を利用して素早く移動し、攻撃を避けながら一体ずつ的確に倒していく。水圧により威力が増しており、ほとんどの魔物は一撃で沈む。
「見ててね!優、香織、柚子。ハクトラお願い」
ハクトラは無数の雷を魔物上に落下させ、魔物を戦闘不能にしていく。
「魔物討伐はやっぱり楽しい」
ハクトラと連携の取れた動き、雷の落ちたところに突然姿を現し、魔物の息の根を止めていく。原理は分からないが瞬間移動をしているようだ。雷の当たっていない魔物も光希の両手剣に触れただけで動けなくなってしまっている。
「優さん。ここは私たちに任せて、元凶をたたいてください。フンドさん行きますよ」
隼人さんの指示でフンドはみんなの迷惑のかからない場所に地震を起こし、魔物の動きを封じる。
「フンドさん。さすがです」
動きを封じられた魔物にフンドの上から矢を放ち、倒していく。矢に当たった魔物にはひびができ、砕けていってしまっている。矢に地割れという現象を付与しているように思える。他の冒険者や騎士団の人たちも精一杯戦っている。その中でも目立っているのは僕と柚子が最初に出会ったウルガさん、ルルさん、ギルさん。しっかりとした連携で魔物を討伐している。そしてギルドマスターとアイゼさん。多彩な魔法を操り次々と魔物を討伐しているアイゼさんに対し、ギルドマスターは持ち前の剣技で魔物を圧倒している。ジルさんも負けていない。若いのに堂々とした戦いをしている。部下の後ろには下がる気配はなく、指揮を挙げているみたいだ。これならば任せてもいいかもしれない。
「行くよ!柚子、香織」
「うん!」
「はいです!」
気合の入った声を出す、香織と柚子。僕たちは隼人さんの言った通りに元凶をたたくために大穴の中に入っていく。ウグルが作り出した火山の上に短髪だが、胸に膨らみのある女性が一人立っていた。僕たちは火口付近に着地する。
「ははははは。はははは。俺の寝床に獲物が迷い込んだ」
「獲物?」
「そうだよ!今から俺に殺されるんだから」
態度がでかい女性。ヤマタノオロチの時と同様で異世界人を完全に乗っ取っているように思える。
「ヒュドラなのか?」
「そうだよ。よく俺の正体が分かったね~」
返答すべてが癇に障る。
「でも俺の能力までは分からないでしょ~」
勝ち誇った顔をするヒュドラ。完全にこちらをなめているようだ。
「それはどうかな。柚子、香織。これをつけて戦うよ」
ヒュドラの毒気を吸い込まないように布で口や鼻を覆う。
「へぇ~……。面白いね~。遊んであげる!」
ヒュドラは弓を構えて、矢を発射する。相手がヒュドラだとするのならば、触れたら即死の一撃必殺の毒矢だ。そして地面に刺さったとしてもそこから毒気が蔓延する。遠くにはじかないといけない。
「それなら風の障壁で!」
僕が障壁を張ろうとしたときに香織が僕と柚子の前に立つ。
「待って。ここは任せて!」
香織は剣聖エクドシルを使って矢の軌道を九十度そらす。ウルガさんお得意の軌道変更剣技だ。普段は盾を使っているので見ることのできないレアな剣技である。矢は近くに刺さることはなく消えてしまった。
「おぉお!すごい!」
「ねえね。かっこいい!」
ウルガさんのレア剣技をマスターしているとは思いもよらず驚いてしまった。
「はぁー!ありえないだろ!おい!」
先ほどまで余裕をかましていたヒュドラはもういない。すっかり警戒しているようだ。
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