怪物討伐作戦前編
第37話
カキン!カキン!
金属同士のぶつかり合う音が響く。
「やぁぁぁー」
「香織。良い突きだぞ!」
香織はウルガさんに鋭い突きの攻撃をしていた。それをウルガさんは剣であっさりと受け流した。練習を始めて、半年ほどが経過し見違えるほど強くなった。今では僕と柚子の冒険者の仕事についてくるほどだ。それでもまだウルガさんには敵わないらしい。僕もウルガさんと全力で戦ったことはないが、勝てるかは正直自信がない。
「今日はここまでだ。朝食を食べに行くぞ」
「はい!ありがとうございます!」
香織とウルガさんの稽古は日が昇ってすぐの時間から始まる。僕は毎回、それを見学させてもらっていた為、すっかりと朝には強くなっていた。
「香織。お疲れ様」
「お疲れ様」
二人で見つめ合い、笑顔で挨拶する。
「朝から仲がいいこと」
ウルガさんはにこりとしながら僕たちを見守る眼差しを向ける。僕たちは料理を食べる部屋に向かう。
「朝食の準備はできています。どうぞお召し上がりください」
「ありがとう。アリーシャ」
ウルガさんとアリーシャさんのこのやりとりにも慣れてしまっている。先に席についているサーシャさん。そして眠そうな柚子とアリスちゃん。これも見慣れた光景だ。柚子とアリスちゃんは一緒の部屋で寝ており、食事を作る前には必ずアリーシャさんが起こしに行っている。
「優。家を建てるために必要なお金は貯めているのか?」
「もちろんです」
今の貯金額は金貨三百枚ほどで、そろそろ家の構造とかを考えなければならない頃合いだ。このことは柚子や香織を含めて一緒に考えていこうと思っている。
「あなた。そういえば今日はギルドの緊急会議が開かれるのでしたね」
「そうだった。急がなくては……。優たちにもしてもらうから準備をしといてくれ」
「分かりました」
香織の剣の稽古が面白すぎた為、会議があることを忘れていたのだろう。このタイミングで話すサーシャさんはさすがだと思った。朝食を終え、僕たちはアルタイルとベガの背に乗って飛んで、冒険者ギルドに向かう。人数が四人になってしまった為、アルタイルだけだと狭いので、ウルガさんにはベガに乗ってもらった。柚子を乗せたかったベガは少し不満そうな表情をしていた。
「たまにはベガにも乗ってあげないとな」
「主人。このままでいいではないか」
少しだけ寂しそうな顔をするアルタイル。こう言うところも嫌いではない。
「そうはいかないよ。アルタイルもベガに僕を独り占めにされたら嫌だろ?」
「確かに……。たまにならいいぞ」
「はいはい。分かったよ」
僕はアルタイルに好かれているのだと改めて実感して清々しい気分になった。僕たちはいつも通りのところに着地する。
「ウルガたち。こっちじゃ」
いつもと比べて引き締まった顔をするギルドマスター。なんだか嫌な予感がして胸騒ぎがする。会議室の中に入るとAランク以上の冒険者。総勢三十名が集まっていた。ルルさんとギルさんの姿もある。僕はしっかりと挨拶をする。ここ半年で実績を上げて僕たちもAランク冒険者になっていた。
その中には現在、四人しか存在しないSランク冒険者の姿もある。全員が僕と同じで聖獣と契約した異世界人だ。一人目は赤色の髪をした二十代前半くらいの男性。朱雀と契約しており、双剣を使う。二人目は空色のロングヘアをなびかせた同じ年くらいの女性。青龍を契約しており、槍を使う。三人目は銀色のショートヘアをした同い年くらいの女性。白虎と契約しており、両手剣を使う。四人目は茶髪でウルガさんと同い年くらいの眼鏡をつけた男性。玄武を契約しており、弓を使う。名前を聞いたことはないが四人とも神話級の武器を持っているらしい。
「お久しぶりです。海斗さん、茜さん、光希、隼人さん」
「おう!久しぶりだな。優」
フレンドリーな朱雀のザクトと契約した内村海斗さん。
「久しぶりですね。優さん」
お嬢様のように丁寧な言葉遣いを使う青龍のリュウキと契約した谷口茜さん。
「久しぶり。優。香織とはキスより先のことをした?僕にも教えて」
「ここではそんな話するなよ……」
「えぇぇぇー。気になるから教えてよぉ〜」
「また今度な……」
「うん、分かった!楽しみにしてる」
いつもこんな調子の白虎のハクトラと契約した篠崎光希。
「お久しぶりです。優さん」
堅苦しい挨拶をするところは全く変わっていない玄武のフンドと契約した新堂隼人さん。全員とはそれぞれ一回ずつ仕事をしたことがある。その中でも一番仲のいいのは篠崎光希だ。仕事以外の時にも何回か一緒に遊んだことがあり、会うたびに香織との進展具合を聞いてくるから困っている。軽い挨拶を済ませてギルドマスターの方に顔を向ける。
「ここ最近、えーと、なんだったかの……」
いつも通りで重要なことまで忘れてしまっているギルドマスターに笑ってしまう。先ほどの緊張感が嘘のように消えてしまっていた。
「はぁ〜……。私がギルドマスターに変わって説明しますね」
アイゼさんの表情が引き締まったのを見るとみんなが真剣な表情に戻る。
「ここ最近、再び魔物の動きが活発になってきています。念の為、優さんには聖域の状況を確認しにいってもらいましたが、前回のように結界が破壊されていることはありませんでした。そうなると原因は魔物を統率するものが現れたと言うことになります。犠牲になった冒険者の数は数え切れません。さらに死体は誰も触れることのできない毒に侵されていたこと。優さんの言葉を借りるのならば怪物が現れたと言うことになります。これ以上の被害を抑える為に討伐隊が組まれたと言うわけです」
「毒を使う怪物……。とこかで聞いたことがあるような気がする……」
アイゼさんの言葉に僕は向こうの世界の知識を思い出していた。
「ヒュドラではないですか?」
隼人さんは眼鏡を触りながら言う。
「そうです。ヒュドラです。首を切っても切っても再生し、中央の首を滅ぼさない限り倒すことができないと言うやつです。もしかして隼人さん。神話好きですか?」
「じ、実はそうなのですよ」
「いいですよね。神話」
「分かりますか?神話はいいですよね」
「はい」
「んんんっん!」
僕と隼人さんが神話を語り始めて会議を遅らせると思ったのか、ウルガさんは喉を鳴らす。僕と隼人さんはウルガさんに謝った後、アイゼさんの話を聞く為に顔を向ける。
「Sランク冒険者の方々に事前に調査を依頼して元凶の怪物がいる場所には目星がついているのですが、途中で多くの魔物に襲われると予想されます。ですのでここにいる全員で討伐に向かいたいと思っています」
アイゼさんの話を聞いた後、会議に参加した全員で魔物の森の元凶の場所に向かうことになった。元凶の怪物がいる場所はもともと遺跡のあった場所だ。ヤマタノオロチに破壊されて、誰も立ち入ることができないと思っていたのだが、それは間違いだったようだ。人数は三十人いるので、アルタイルやベガに乗っての飛行移動はできない。歩いて行くとなると大量の物資が必要で用意するのも大変なのだ。
「みんな、お疲れ様」
突然現れたアウル伯爵様にみんなはただ呆然と立ち尽くすのみ。
「兄上。どうしたのですか?」
「これから戦いに行くみんなに差し入れだ」
アウル伯爵様はそう言うと、会議に参加していた冒険者たちを連れて行く。
「ルミナス屈指の飛行部隊。グリフォン隊を使ってくれ」
ずらりと並んだグリフォン四十体。そしてその前には総勢四十名のグリフォン隊の騎士団の人たちがいた。
「街の危機と聞いて、伺いました。私の名前はジル・ローラットと申します。私たちグリフォン隊も伯爵様の名を受け討伐に参加します。よろしくお願いします」
茶髪で青少年と言えるほどの整った容姿。そして騎士服を着用し、アウル伯爵様とどこか雰囲気の似ているジルさんが明るい声で言う。
「私の息子だ。連れて行ってくれ」
アウル伯爵様の息子だと言うことは次期領主になる人だ。冒険者のみんなは頭を一斉に下げる。僕たちもみんなの真似をする。それに二人乗りできる大きさのグリフォンに乗って目的の場所に移動することもできるようになった。これはアウル伯爵様からのありがたい差し入れだ。僕たちは一斉に空に飛んで目的の場所へと向かう。僕と柚子。そして香織、光希はベガの背中に乗って移動する。アルタイルの上にはウルガさん、海斗さん、茜さん、隼人さんが乗った。
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