第36話
「おーい!ウルガ、ウルがはいるか?」
家の外で叫んでいたのはルミナスの領主であるアウル伯爵様だった。アリーシャさんはアウル伯爵様の突然の訪問に足早に迎えに出向く。昨日は婚約の話があり、今日はアウル伯爵様がウルガさんの屋敷に訪問している。一体何が起きなのだろうか……。ウルガさんの許可を得て、僕たちも同席させてもらっている。アリスちゃんと柚子はまだ寝ているみたいだけど。
「兄上。急にどうしたのですか?」
「聞いてくれ。ウルガ。ローラット家の秘宝の剣聖エクドシルが急に輝き出したのだ」
「それはすごいですね。もしかして、神話級と呼ばれるこの武器に選ばれたものが現れたのですか?」
「分からないのだ。ただ昨日の夜、お城の宝物庫がやけに輝いていると思って見にいったところ輝いていた」
剣聖エクドシルはレイピアと呼ばれる武器で、細身で先端が鋭く尖った刺突用の片手剣のことだ。
「あのう……。アウル伯爵様。僕の仮説を話してもよろしいですか?」
「なんだ?遠慮なく申せ」
「はい。昨日の夜に剣聖エクドシルが輝き出したんですよね?」
「そうだぞ」
「昨日の夜といえば、隣にいる婚約者の香織がウルガさんの屋敷で目を覚ました時間と一致します。さらに香織は僕と同じ異世界人です。もしかしたらなのですが……。香りに反応したのではないかと思います」
「そうか。それよりもいつの間に婚約していたのだ?」
「昨日、婚約しました」
「昨日⁉︎」
「はい。サーシャさんに背中を押されまして」
僕は照れながらアウル伯爵様に話す。
「そうなのか?サーシャ」
「はい。お互い好き同士だったみたいだったので背中を押しました」
笑顔のサーシャさん。昨日よりも嬉しそうに答える。
「そうか、おめでとう」
「ありがとうございます」
素直に祝ってくれたアウル伯爵様に感謝する。アウル伯爵様だったら、自分の娘がいたら僕に押し付けると言うイメージを勝手に持っていたので、その事に関しては申し訳なく思ってしまう。
「話に戻るが、そこにいる香織が剣聖エクドシルに選ばれたと言うのだな?」
「はい」
「香織。この武器に手を触れてみてくれ」
「分かりまた」
香織が剣聖エクドシルに手を触れた瞬間に部屋全体を光が包み込む。
「これは……」
アウル伯爵様とウルガさんは共に驚いている様子だ。
「兄上。剣聖エクドシルが香織を選びましたよ」
僕は銃を自分で作り出したので、こんな反応はなかった。しかし本来は神話級の武器に選ばれた時には光るようになっているみたいなのだ。
「よかったね。香織」
「よかったの……かな?」
「勿論。神話級の武器は武器の方が主人を選ぶ。それに世界に十本もない武器の所有者になるなんて、凄いことだと思わない?」
「そう……だね。これで優の力になれるかも」
「うん。ウルガさんに剣技を習おう」
僕と香織は神話級の武器に香織が選ばれたことを素直に喜んでいた。
「お二人さん。二人の世界を作らないでくれるか?」
「す、すいません」
アウル伯爵様に話しかけられて現実に戻ってきた僕と香織。
「これで解決したな。ウルガ、しっかりと香織に稽古をつけてあげるのだよ」
「承知!」
アウル伯爵様はそれだけ言い残すとお城に帰っていった。
「まさか、香りが選ばれるとはな」
「そうですね。今まで、ルミナスに来た異世界人には全く反応しなかったですのにね」
嬉しそうなウルガさんとサーシャさん。
「よし、香織!明日から稽古をつける。良いな?」
「はい!優の役に立てるように頑張ります!」
決意を決めた香織は次の日からウルガさんに徹底的に鍛えられる事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます