第35話
しばらくして香織さんが緑色のドレス姿で僕たちの目の前に現れる。僕が買ってあげた服は汚れてしまったみたいだ。
「可愛い……」
心の底から出た言葉。僕は香織さんに見惚れてしまう。
「か、か、か、可愛い⁈……」
僕の突拍子もない言葉に香織さんは顔を赤らめている。
「うふふ……。こちらに座って一緒に話しましょう」
「は、はい」
「緊張しなくてもいいのですよ」
「わ、分かりました」
緊張しながらも返事をした香織さんは僕の隣に座る。
「名前を聞いてもよろしいですか?」
「は、はい。瀬戸内香織です」
僕と初めて会った時は、こんなに聞こえる声で話してはいなかったのに、今は別人みたいだ。身分の高い人の前に出ると人はこうなってしまうのかもしれない。それから僕たちは香織さんと会った経緯や異世界人だと言うことを洗いざらい話した。
「優さんと一緒で異世界人だったのですね」
「はい」
「ところで、香織さん。優さんのことを好きですね」
僕の隣で先ほどから落ち着きのない態度をしている香織さんを見て、サーシャさんは言う。僕は口に含んでいたお茶を吹き出しそうになってしまう。
「ゴホッ、ゴホッ。いきなりそんなことを言われても困るよね?」
僕は香織さんの方を見て、質問する。
「いえ、困りません……。ひ……、ひ……、一目惚れだったので……」
「えぇぇぇぇぇぇ!」
驚愕の余り、大きな声が出てしまう。僕が生きてきた中で初めて言われたかもしれない。
「素敵ねぇ〜。二人とも婚約するといいですよぉ〜」
「婚約ですか⁉︎」
「ええ、お互い好き同士。条件を満たしていますよね」
「そう言われても……」
恋話になると言葉遣いが変化するサーシャさん。そして僕は香織さんの顔を見る。
「はい!します!」
「いきなり積極的だな!」
ウグルと同じ感覚で、香織さんの軽く頭をチョップしてしまう。
「ご、ごめん……。ウグルと似たことを言うものだから、つい……」
「……」
無言で僕にチョップを返す香織さん。顔は笑顔なので、怒ってはいない様子だ。そして僕は香織さんと婚約する事になった。
「今帰ったぞ!」
「ただいまです」
ウルガさんとアリスちゃんの声。そして二人は僕たちがいる部屋に入ってきた。
「あなた、アリス。お帰りなさい。」
「おう!って一人増えていないか?」
ウルガさんは返事をするなり、香織に気がついた。
「あなた、聞いてください。優さんとここにいる香織さんが婚約しましたよ」
「婚約か〜。って婚約⁈」
「そうです!私が承認になりました!」
「優。本当にしたのか?」
「はい……。先ほどしました」
「そうか。こんな奴でいいのか?」
「こんな奴。って酷くないですか?」
ウルガさんは笑いながら僕をいじる。
「はい!」
「そうか、そうか。それならよかった。優のことを頼んだぞ」
「任せてください!」
「お父さんかよ!」
香織の嬉しそうな顔を見たウルガさんは安堵している様子。話している内容がお父さんみたいだったので、そこはしっかりとツッコミを入れておく。僕と香織は婚約者になったことでお互い下の名前を呼び捨てで呼ぶと言うルールを作った。
「パパ様。柚子はどうなるのですか?」
アリスちゃんの純粋な質問にウルガさんは頭を少しだけ捻った後に答える。
「そうだな。優と香織の娘として養子にしたらどうだ?一緒にいれるし一石二鳥だと思うのだが」
「確かにそうですよね。その肩書きがあれば色々解決できそうです」
ウルガさんが言っていたことも一理ある。あとはゆずの気持ち次第なのだが……。
「にいにと、ねえねが、パパとママになるの?やった〜!」
嬉しそうな柚子。この方向性で進めていっても良さそうだ。
「今日は優と香織の婚約祝いを兼ねて、豪華な食事を用意しよう」
「そうですね!私もアリーシャを手伝いますね」
「よろしいのですか?ありがとうございます」
アリーシャさんとサーシャさんは二人で料理を作る部屋まで歩いていった。僕たちもウルガさんたちにお礼を言って、食事が出来あがるのを話しながら待った。そして今日食卓に並んだ料理はどれも美味しかった。
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