初仕事ともう一つの神話級武器
第34話
インフェルノベアーは後ろ脚二本で立ち上がる。両腕を高く上げこちらを威嚇しているようだ。
「ウゥゥゥウゥゥ!」
控えめな咆哮。それだけで十分に効果があったようだ。
「ま、魔物?いやぁぁぁぁ!」
僕の体に体を引っ付けて怯える香織さん。この世界で一度も戦闘を経験していないように思える。もっと小さい魔物で慣れてから連れてくるべきだったかもしれない。ここまできて反省する。
「ち、ち、ち、近い……」
香織さんの力が一層強くなる。胸の谷間に僕の右腕はすっぽりはまってしまっており、やわらかい感触に僕は真っ赤になってしまっている。インフェルノベアーは右手のひっかき攻撃をしてくる。
「柚子。頼む」
「はいです」
右手がふさがってしまっており、行動することもままならない。柚子はすぐに風の障壁を展開し、インフェルノベアーの攻撃を弾き飛ばす。
「おらぁぁ!」
空いている左手で僕はハンドガンを撃つ。インフェルノベアーの胸元に銃弾が直撃し、穴が開くことはなかったが怯んでいる。
「香織さん……。その手を放してくれると助かるのですが……」
「あっ……。ご、ごめんなさい」
香織さんは慌てて手を放す。これで両手が空いたので、攻撃をすることができる。万が一香織さんのところにインフェルノベアーが行った時のために守る準備はしておかないといけない。
「畳み掛けるぞ!」
「うん」
僕と柚子は銃をアサルトライフルに変更する。射程は三百から五百メートルの間で、フルオート。日本語で突撃銃とも訳され、着脱式のマガジンを備えたコンパクトな銃だ。僕と柚子は同時にインフェルノベアーに向かって射撃する。インフェルノベアーの体は穴だらけで、今にでも倒れてしまいそうなのだが、最後の力を振り絞って口から炎を吐く。
「水の障壁を使うぞ」
「うん」
水の障壁で阻まれて、僕たちには炎は届かずにそのまま倒れた。
「よし!依頼達成だ。あとは証拠になりそう素材を持っていこう」
「分かった」
僕と柚子は携帯しているナイフでインフェルノベアーの素材剥ぎ取りを行う。
「けほっ、ゲホっ‼︎うおぇっ……」
慣れていない香織さんには刺激が強かったようで、気分が悪くなってしまったみたいだ。
「大丈夫か?……ごめん……。連れてこなければ、こんな事には……」
「ねえね。大丈夫?」
「けほっ、けほっ‼︎心配かけてごめんなさい……。これからも一緒にいるために慣れないといけないから……」
申し訳なさそうにしている香織さんの背中を僕はさする。ここで寝かせるのは危険なので、お姫様抱っこをしてアルタイルの上に乗る。
「アルタイル。ウルガさんの屋敷まで、ゆっくり飛んでくれ」
「了解した!主人」
冒険者ギルドに報告をいくよりも先に香織さんを寝かせることが大事だ。僕たちはウルガさんの屋敷まで飛んでいき、足早に玄関へと向かう。外にはタイミングよく洗濯を干しているアリーシャさんがいた。
「アリーシャさん。すいません!この子を寝かせるベッドを貸して下さい」
「分かりました。すぐにご用意します」
僕の焦る表情を見て、アリーシャさんは手に持っているものをかごに戻し、ベッドまで案内してくれた。
「どうしたのですか?」
あまりに僕とアリーシャさんが急いでいたものだからサーシャさんも顔を見せる。ベッドには顔色の悪い香織さんが倒れている。
「迷惑をかけます。いきなり討伐依頼に連れて行くべきではなかったようです」
「そうね。耐性がない人もいるから気をつけないといけないよ」
「はい……。気をつけます……」
優しく的確にサーシャさんには注意されてしまった。僕は幼い頃から血抜きを見てきたので、当然平気だ。柚子も最初は少し嫌な顔をしたが、香織さんのようにはならなかった。だからこうなるなんて思ってもいなかったのだ。反省しなければ……。
香織さんをベッドに寝かせた後に僕たちはサーシャさんとお茶をしていた。元気になるまで、そばにいようと思っていたのだが、「ダメです」とアリーシャさんに止められてしまった。
「ところで、優さん。あの子は彼女なのかしら?」
「そんなことは……全然……。可愛いと思いますけどね……」
「あらら。あの子のこと好きなのですね?」
にやけるサーシャさん。ついつい心の声が表に出てしまったことで照れくさくなってしまう。
「そ、そ、そんなわけないです」
「ふふふ……。青春していますね」
笑顔を崩さないサーシャさんには、僕が今まで感じたことのない気持ちを持っていると勘づかれてしまっているようだ。
「だ、だって。自己紹介した後にいきなり、会いたかったですと言われたんですよ。気にならないわけないですよね?ね?」
「あらまぁ〜。お互いに好きだということなのですね。うふふ」
口に手を添えながら話すサーシャさん。(何を言っているんだ……。本当に恥ずかしい)サーシャさんには本音を曝け出してしまうみたいだ。
「やっぱりね。にいには、ねえねの、ことが好きなんだ」
柚子も笑顔になってしまっている。僕は体からあっと燃えるような恥ずかしさを感じている。
「だいぶ、落ち着いてきたようです」
アリーシャさんが僕と柚子、サーシャさんがいる部屋に報告をしてくれた。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
アリーシャさんはそれだけ言うと再び、香織さんの部屋に戻って行った。
「ところで、アリスちゃんとウルガさんはどこにいるんですか?」
「二人は一緒に出掛けています」
「そうなんですね」
ウルガさんはしっかりとお父さんをしているようだ。アリスちゃんとウルガさんと言うペアで出かけることもあるんだと少しだけ意外に思った。
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