初の対人戦

第30話

バン!


 鳴り響く銃声。僕と柚子はウルガさんが普段から使っているという練習場で射撃練習をしていた。的は不規則に動くため、照準を合わせるにはもってこいの場所だ。


「優さん、柚子ちゃん。全弾命中、さすがですね」


  後ろから声をかけてきたのはサーシャさんだった。今朝、僕が銃を触っていると突然、射撃の腕を見たいというお願いされたのでここにいる。サーシャさんの隣にはアリスちゃんが少しだけ顔をのぞかせてこちらを見ていた。アリスちゃんの視線の先には柚子が銃を撃っている姿が見える。アリスちゃんはそれを見て、目を輝かせていた。


「柚子。次はこの銃で練習しようか」

「はいです」


 僕が変形させたのはマークスマンライフルだった。柚子の腕がどれだけ上がったかが見たくて、僕は後ろに下がって柚子を見ることにした。復活した的が再び不規則に動き始める。柚子はしっかりと狙いを定めて、一つずつ的確に的を貫いていく。アリスちゃんは柚子が撃つタイミングに合わせて楽しそうに体を動かしている。


「銃の腕を見たいと言ったのは、アリスちゃんに見せるためですか?」


 僕はサーシャさんにだけに聞こえる声で質問する。


「そうです。柚子ちゃんの姿を見て、弓の練習に力を入れてもらえるのではないかと思いまして……」

「アリスちゃんの姿を見てください。楽しそうですよ」

「本当ですね。期待した通りになってくれると幸いです」

「多分、大丈夫ですよ」


 一通りの射撃練習を終えて、一息ついている柚子。僕はすぐに声をかける。


「お疲れ、柚子」

「疲れたの……。にいに。だっこして」

「分かった。待ってな」


 僕はゆっくりと柚子を抱き上げる。そして柚子はご満悦そうな顔をする。


「柚子ちゃん。アリス、アリスもね。しっかりと的に当てられるようになる!」

「アリスちゃんならできる。頑張ってね」

「うん!」


 やる気に満ちた表情をするアリスちゃん。効果はあったようだ。僕はサーシャさんと笑顔を見合い。食事をする部屋へと向かう。アリスちゃんも柚子のようにサーシャさんに抱き上げられていた。食事をする部屋につくとウルガさんが座って待っていた。


「おはよう」


 元気に挨拶をするウルガさんに僕たちは挨拶を返す。


「優、練習場はどうだった?」


 アリーシャさんから僕たちが練習場で射撃練習をしていると報告を受けていたウルガさんが質問をしてくる。


「規則に動く的が射撃練習にもってこいでした」

「そうか、そうか。それならよかった。私もあそこで剣の鍛錬を行ってるからな」

「サーシャさんから伺っています。気に入りました」

「おぉお、嬉しいな。これからも自由に使うといいぞ」

「はい!ありがとうございます」


 満足そうなウルガさん。全員を席につかせてから、アリーシャさんは食事を運んでくる。


「優。今日は冒険者ギルドに行くのか?」

「はい。そのつもりです」

「飛び級をした優と柚子をよく思っていない連中もいるだろうから気を付けるのだぞ」

「肝に銘じます」


 ウルガさんの言いたいことは良く分かる。突然、冒険者ギルドに姿を現して正規の手順を踏まずに飛び級したのだ。そういう人がいても無理はないと思う。それでもできるだけ争うごとは避けたいものだ。

 食事を終え、アルタイルに乗って冒険者ギルドに着地する。ウルガさんは今日、外せない仕事があるみたいだったので、僕と柚子の二人で来た。


「よぉ~し。稼ぐぞ」


 気合を入れて柚子の手をつなぎながら冒険者ギルドの中に入っていく。「例の飛び級したやつらだな」とか「C級の実力はしっかりとあるのかしら」なんていう声もちらほらと聞こえてくる。それに対して「あいつらとパーティー組みたい」とか「稼がしてもらおう」と近づこうとする者たちもいる。


「にいに。見られてる……」


 少しだけ不安そうな顔をする柚子。


「絶対に僕から離れてはダメだよ」

「うん……」


 僕は柚子の手を少しだけ強く握って安心させる。


「すいません。この依頼受けたいんですけど」


 Cランクで一番報酬の高い、熊みたいな魔物。名前をインフェルノベアと言うらしいが、それを描いた紙を手に取り、受付の人に話しかける。


「は~い」


 明るく返事をしたのは金髪の女の子。女の子は僕を見るなり、顔を赤くする。


「か……、かっこいい……」

「はい?何か言いましたか?」

「いえいえいえ。な、なにもいってませんよっ」


 何かを隠すように慌てる受付の女の人。何も聞かないほうがよさそうだ。


「冒険者カードは持ていますか?」

「はい」


 僕は食事の時にウルガさんからもらった冒険者カードを見せる。


「なるほど、なるほど。昨日の……」


 冒険者カードを見て頷く女の人。そして僕をチラチラと見ている。


「どうかされましたか?」

「いえいえ。私はここで受付嬢をやっているカミラです」

「一ノ瀬優です」

「猫塚柚子です」


 名前を名乗られたので、僕と柚子もすぐに名前を言う。


「この依頼ですね。すぐに手続きしますね」


 カミラさんはハンコを書類に押してくれた。


「受注完了です。気をつけて行って来てください」


 僕は柚子と冒険者ギルドの外に出ようとしたのだが、ガラの悪い三人組に絡まれる。


「Cランクなりたてのお兄ちゃんたちにはまだ早いって。ヒャヒャヒャ〜」

「そうだぞぉ!私たちにその依頼をよこしなぁ!」

「ウルガさんに好かれているからって調子に乗るなよぉ〜!」


 柚子はすっかりと怯えてしまっている。この依頼を受けれるということはおそらく同じランクの冒険者なのだろう。しかし柚子を脅した上に依頼を横取りしようとする姿にはイライラしていた。


「僕たちが先に受けた依頼なので、横取りするのはちょっと……」

「あぁん!お前、俺たちに喧嘩を売ってるのか⁈」


 今にも殴りかかって来そうなオーラを出すリーダーの男。穏便に済ませたかったが、やるしかないのか……。


「何やってるんじゃ!」


 ギルドの中から出て来たギルドマスターとアイゼさん。


「ギルドマスター!こいつらが危険な魔物を倒しに行こうとしているから止めただけだぜ」


 先ほどとは打って変わって、態度を変えるリーダーの男。案外、気が小さいのかもしれない。


「分かりました!そんなに止めたいとおっしゃるのなら決闘してみたらどうですか?」


 アイゼさんの提案に悪い笑みを見せる男たち。余裕に勝てると思っているのだろうか……。


「いいぜ!ウルガさんのコネで上がった雑魚どもにどっちが上か教えてやるよ!」


 ギルドマスターとアイゼさんは平静を装っているが、怒っていることはひしひしと伝わってくる。


「分かりました。受けて立ちましょう。柚子やれるか?」


 怯えている柚子にしゃがみながら話しかける。


「うん。にいにと一緒なら」

「よしよし、偉いな。勝ったらあとで何か買ってあげるよ」

「ほんと‼︎やったぁー‼︎」


 巻き込んでしまってすまないと思いながらも、いつもの調子に戻った柚子を見てホッとする。両者の承諾を得たことで、決闘することになった僕と柚子。アイゼさんに決闘が行われている会場に案内された。


「絶対に買ってくださいね」


 笑っているが、「勝たないと許さないよ!」と言われているのは伝わって来た。ギルドマスターの表情も「息子に恥をかかせるなよ!」と言っているようだ。


「わ、分かっています……」


 無言の圧が逆に怖い。僕と柚子の負けられない戦いが始まる。

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