第29話

 夜も更け、多くの冒険者が眠っている中、僕は夜風に当たるため外に出る。今日ここに来た時にアルタイルで降り立った場所に一人で寝転がる。空には星が綺麗に輝いており、見入ってしまう。


「アルタイル、ベガ、ウグル、話そう」


 ここ最近、忙しかったので話す時間を取れていなかった。アルタイルとも後で時間を作ると約束していたので、時間を作ったのだ。


「主人」

「主人様」

「優」


 アルタイルの声はウルガさんの屋敷から飛んできた時に乗ったので声を聞いていたが、ベガとウグルの声を聞いたのは久しぶりな気がする。三人は僕の肩に乗れる程度の大きさで近くに座る。


「ウルガさんが貴族だったなんて、びっくりしたよね?」

「そうだな。可愛い妻と娘がいたなんて、驚いたぞ」

「ほんと、可愛かったよねぇ」

「もちろんだ!我も柚子を手に入れたくなったぞ!」

「それはダメです!」


 嬉しそうな顔で冗談を言うウグル。いつも通りにツッコミを入れておく。


「主人様、可愛くなりましたよね」

「主人?あぁあ。柚子のことね」

「そうです!」


 ベガは子供を見るときの親のような目をしている。


「ベガ、主人様だと紛らわしいから優でいいよ」

「そうですね。優様と呼ばせていただきます」 

「うん、よろしく」


 よく考えてみれば、主人様と呼ばれて僕と柚子の両方が反応していた気がする。(もっと早くから区別をつけて呼んで貰えばよかったかも)なんて思ったが、今更気が付いても遅いと思ったので、頭の片隅に置いておく。


「うんうん、柚子は可愛いよね。分かる、よく分かる」

「分かってくれますか!主人さ……。あっ、優様」

「無理しなくていいのに……」


 珍しく興奮しているベガ。それに必死に優様と呼ぼうとしてくれている姿に「クスクス」と笑ってしまう。


「笑わないでください」

「ごめん、ごめん」


 恥ずかしがっているベガには謝罪しておく。


「主人、その服似合ってるな」

「そう?こう言う服を一度でいいから着てみたかったんだよね」

「そうなのか!二着買ったから毎日、着れるな」

「そうだね、せっかくウルガさんに買ってもらったから大事に着ようと思っているよ」

「その心がけ、さすがは主人だ」

「ありがとう、少しだけ照れるなぁ。あはは」


 頭をかきながら顔を赤く染める僕を見て、アルタイルは笑っているように見えた。


「おーい、優。ここに居たのか」


 柚子を背負いながら僕に近づいてくるウルガさん。あんなに飲んでいたのに全然平気なようだ。


「はい!アルタイルたちと話していました」

「そうか、そうか。時間をとってやれなくて悪かったな」

「いえいえ、全然」


 申し訳なさそうな顔をしているウルガさん。やっぱりこの人はいい人だ。


「私はここに泊まっていくから、柚子を連れて家に帰るといい」

「宿とっていないですけど」

「心配はいらない。自分の家を建てるまで、私の家を拠点にしていいから」

「それは流石に申し訳ないですよ」

「気にしないでいいぞ、早くお金を貯めるのだな。はっはっは」


 いつも通りのウルガさん。救出されたお礼だと言って服も買ってもらったし、これ以上は申し訳ないと本気で思っているが、ウルガさん押されて家に住まわせてもらうことになった。ウルガさんが言うには、ウルガさんの屋敷の全員には許可をとっているとのことだった。

 僕は柚子をウルガさんから受け取り、アルタイルの背に乗ってウルガさんの屋敷に戻った。屋敷の明かりはまだついており、誰かは起きているみたいだった。僕は扉を叩いて見る。失礼かもしれないが、チャイムもない状態で中の人に気づかせるにはこの方法しかなかった。それでも屋敷は広いので不安になってしまう。「カチャ」と言う音を立てて扉が開く。


「おかえりなさいませ。優様」


 出て来たのはアリーシャさんだった。出迎えられたことのない僕にとっては、深く一礼をした姿を見て、少しだけ後退してしまう。


「どうされましたか?」 


 アリーシャさんは首を傾げていた。


「いえいえ、何でもないです」


 僕は慌てて、返事をする。慣れていないのは僕だけであって、屋敷に使えるメイドさんにとっては普通のことだ。アリーシャさんに部屋の中に誘導されて中に入っていく。


「お風呂は沸いていますよ」

「ありがとうございます。柚子を頼んでもいいですか?」

「承知いたしました」


 僕は柚子をアリーシャさんに預けて、お風呂に入る。お風呂から出て、着替え終わって外に出るとアリーシャさんがいた。


「アリーシャさん、いつから待っていたのですか?」

「先ほど来たばかりなので、気にしないでください」

「そうですか」

「はい、では優様のお部屋まで案内しますね」

「あのう……。その前にサーシャさんに挨拶したいのですが、起きていますか?」


 これからしばらくの間お世話になるのだ。挨拶するのは礼儀というものだろう。


「起きていらっしゃいます。先にそちらに案内しますね」

「ありがとうございます。お願いします」

アリーシャさんに連れられて、サーシャさんの部屋に連れて行ってもらう。

「奥様。優様がお見えです」

「通してください」


 サーシャさんの返事を聞いた後にアリーシャさんは部屋の扉を開ける。


「優さん、おかえりなさい」

「ただいま」


 反射的に答えてしまったが、失礼になっていないか心配になってしまう。


「ふふふ。優さん、心配しなくても怒っていません」


 サーシャさんは口を押さえながら、笑っていた。僕は胸を撫で下ろす。


「優さんは、顔に出やすいのですね」

「そんなに分かりやすいですか?すいません……」

「ふふふ、全然いいのですよ。自分の家のようにくつろいでいってください」

「ありがとうございます。しばらくの間よろしくお願いします」

「こちらこそ」

「それとウルガさんは冒険者ギルドで泊まるみたいです」

「事前に聞いているので、知っています。報告、ありがとうございます」


 母親のような雰囲気を出しているサーシャさん。向こうの世界の家族のことを思い出してしまったことで、家族に会いたくなってしまう。挨拶を終え、アリーシャさんに部屋に案内してもらい、僕はベッドに飛び込む。人疲れのせいか、そのまま僕は数秒も経たないうちに眠りに落ちた。

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