宴会と冒険者登録

第28話

「冒険者ギルドまで何で行きますか?」

「そうだな、アルタイルさんに乗って行くとしよう。冒険者ギルドに早く着くからな」

「分かりました。アルタイル頼めるか?」

「了解した」


 ルミナスに来て二日ぶりくらいに聞いたアルタイルの声。人の住む街では動物と人間が言葉を通わせていることはないみたいなので、自重してもらっていた。テレパシーなら話せるがここに来てからテレパシーで話せる余裕は正直言って無かった。アルタイルたちとは後で時間をとってしっかりと話すとしよう。アルタイルの上に乗り、空を飛んで冒険者ギルドに向かう。冒険者ギルドの手前には巨大な練習場があり、たくさんの冒険者たちが練習をしている。そしてその隣の大きな広場で、着地する。突然の飛行生物登場に練習をしていた冒険者は一斉にこちらを向く。


「アルタイル、後でゆっくりと話そう」

「分かった主人、楽しみにしている」

「おう」


 アルタイルは小さくなり、僕の肩に乗る。


「ウルガたち。こっち、こっち」


 ルルさんは僕たちに手を振っている。


「ルルさん、こんにちは」

「お姉ちゃん、こんにちは」

「優さん、柚子ちゃん。こんにちは」


 僕と柚子はルルさんに近づいて、挨拶をする。ウルガさんはルルさんに挨拶を済ませた後に二階へと上がって行った。宴会が開かれる場所はギルドの受付のある大部屋、百人は余裕で入れるほどの規模だった。僕と柚子は二十人座れる五つのテーブルのうちの一番左列の受付のある側の席に案内される。


「ギルさん、こんにちは」

「こんにちは」

「優さんと柚子さんではないですか、こんにちは」


 僕と柚子とは反対側の列に座っているギルさんにも挨拶をしっかりとする。「チリンチリン」という鐘が鳴り、外の練習場にいた冒険者たちがゾクゾクと中に入ってくる。そして二回からは六十代の男性と眼鏡をかけた三十代前半くらいの女性。それからウルガさんが降りてきた。いつの間にか柚子の隣で座っていたルルさん。階段から降りてきた三人はギルさんの前の空いている空席のところに座る。あっという間に宴会が行われる会場は満席となった。席の裏側で立っている人もたくさんいる。ウルガさんは席を立ちみんなの前に移動する。


「みなさん!日頃から冒険者の活動に勤しんでくれてありがとう!ここで乾杯と行きたいところだが、その前に今日から二人の新人がこの冒険者ギルドに加わった!二人は前に」


 ウルガさんが見ているのは僕と柚子の方だ。突然の指名に僕と柚子はオドオドしながらウルガさんの横まで移動する。


「二人は自己紹介を」

「はい……僕の名前は一ノ瀬優です……」

「猫塚柚子です……」


 僕と柚子の震えるような声。百人近くいる人の前で自己紹介をしたことなんてこれまでの人生で一度もない。こんな状況で緊張しない訳ない。柚子の方が僕より緊張しているみたいだ。


「私たちのパーティーを救ってくれた彼らには、F級とD級を飛ばして、討伐の依頼が受けられるCランク冒険者から活動をしてもらう!今日は私の奢りだ!存分に楽しんでくれ!それでは乾杯!」

「乾杯!」


 ウルガさんと乾杯した後に僕と柚子は席に戻り、ルルさんたちとも乾杯する。


「ねぇ、優さん。さっき緊張していたでしょ?声が震えていたよ〜」

「当たり前です!あんなに多くの人の前で話したことないんですから!」


 にやけ顔のルルさんに僕は少しだけ顔を赤くしながら言う。


「柚子も緊張したよ」

「柚子ちゃんは可愛いから、いいの」

「どういうことだよ!」


 僕と柚子とでは全く態度が違うルルさん。僕はツッコミを入れてしまう。


「優〜。飲んでるか?」


 酔ってしまっているのか、少しだけ頬を赤くしたウルガさんが僕に言う。


「はい」


 そうは答えたものの実際に飲んでいるのはお酒ではなく、オレンジジュースのようなソフトドリンクだ。向こうの世界の法律通りに二十歳から飲むことに決めている。柚子も僕と同じソフトドリンクを飲んでいる。


「親父!あんまり飲みすぎるなよ」


 ウルガさんは六十歳くらいの男性に話しかける。(親父?もしかしてウルガさんのお父さんなのか)


「分かっておるわ。ウルガ」

「でもこれで、五杯目ですよね?体に触りますよ」

「大丈夫じゃ。心配はいらん」

「そうですか」


 先ほどウルガさんたちと二階から降りて来た眼鏡をかけた女性は六十歳の男性のことを気にかけているようだ。


「優さん、紹介がまだでしたね。この方がギルドマスターのガムル・ローラットさんで、隣にいるのが秘書のアイゼさんですよ」


 ギルさんは僕に二人を紹介してくれた。ギルさんが言うには六十歳の男性がガムル・ローラットさんで女性の方がアイザさんと言うみたいだ。ガムル・ローラットさんはウルガさんと同じ苗字をしており、ウルガさんが親父と言っていたので、お父さんなのだろう。


「どうも、どうも。え〜と、え〜と」

「ギルドマスター。一ノ瀬優さんですよ」

「そうじゃ、そうじゃ、優だった。よろしくな」


 ギルドマスターは忘れっぽいのか、すぐに秘書アイゼさんがフォローに入る。


「よろしくお願いします」


 ギルドマスターもウルガさんやアウル伯爵様みたいに気難しそうな人ではないようなので、安堵する。

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