ルミナスの領主
第26話
服屋さんに頼んだ僕と柚子の服が夜に届くことになっていたので、昨日はウルガさんの家に泊まらせてもらった。ウルガさんに買ってもらった服を着て、部屋を出る。柚子はと言うとアリスちゃんの要望で、一緒の部屋で寝ているはずだ。この屋敷で迷子にならないためにアリーシャさんに屋敷を案内してもらったので、迷子になることはないだろう。柚子の面倒はアリーシャさんが見てれるみたいなので、今日は起こしに行く必要はない。朝食を取るために食堂の中に入っていくとウルガさんとサーシャさんが席に座っていた。長いテーブルを中心に席が十一席ほど並べられている。
「おはようございます」
会議の司会席みたいにみんなの顔が見える位置に座るウルガさん。そしてウルガさんから見て、サーシャさんは斜め右隣の席に座っていた。僕は二人の顔をしっかりと見て、明るく挨拶をする。
「優、おはよう」
「優さん、おはようございます」
ウルガさんとサーシャさんは明るく僕に挨拶をしてくれた。僕はそのままサーシャさんの目の前の席に座る、柚子とアリスちゃんはここにはいない。アリーシャさんもいないことから察するに起こしに行ったんだと思う。
「昨日はよく眠れたか?」
「おかげさまで、ぐっすりと眠れました。野宿していた時よりも疲れが取れている気がします」
「当たり前だ。野宿していた時よりも疲れが取れていなかったら、私はショックだよ」
「それもそうですね」
朝から笑顔が食卓に溢れる。こんな感覚は前の世界家族で食事をとった時以来だ。もう会えない家族のことを思い出してしまっている。
「優さん?どうしたのですか?」
「あれ……おかしいな……もう吹っ切れたと思っていたのに……」
拭っても拭っても止まらない。
「くうっ……くっくっ……ううっ……うっうっ……あっあっ……」
サーシャさんの暖かな温もり、僕の顔は胸のくぼみに包み込まれている。「ドクッドクッ」と聞こえる心臓の鼓動。安心するこの感覚は何だろう……。思い出した、母親に抱きしめられた時と同じような感覚だ……。
「大丈夫……。大丈夫……。もう我慢しなくていいのだよ」
「お父さん……、お母さん……、に会いたいよぉぉぉ〜……。あぁぁぁぁ……うわぁー」
こんなことされたら押さえ込むなんて不可能だ。全て出し切ってしまいたい……。
数分が経過し、扉の開く音がする。支度を終えた柚子とアリスちゃんが来たのだろう。
「にいに、ウルガさん、サーシャさん、おはよう」
「おはよう……ございます……」
元気な柚子に対して、勇気を出して挨拶をしてくれたアリスちゃん。まだ声は小さいがかなり成長したと感じている。
「柚子、アリスちゃん、おはよう」
僕の後に嬉しそうなウルガさんとサーシャさんも挨拶を返す。
「アリス、挨拶できたね、えらいえらい」
「アリス、挨拶できるようになったのか。えらいぞ」
ウルガさんとサーシャさんはアリスちゃんを褒める。柚子は僕の隣にそしてアリスちゃんは柚子の隣に座る。
「食事が出来上がりました」
アリーシャさんは朝食をテーブルの上に並べる。主食はパン、そして目玉焼きやベーコン。少ない量の野菜がワンプレート皿に並ぶ。朝から栄養バランスがしっかりと考えられており、美味しそうだ。
「いただきます」
食事前の挨拶をしっかりとして、僕たちは朝食を食べる。
「優、柚子、朝食を食べ終わったら領主のところに調査報告をしにいくぞ」
「分かりました」
「は〜い」
食事後、僕と柚子はルミナスの領主のところにウルガさんと行くことになった。どんな人なのか楽しみだ。
食事を終えて、屋敷の外に出る。庭ではアルタイル、ベガ、ウグルが遊んでいた。昨日から姿が見えないと思っていたが、外にいるとは思いもしなかった。
「アルタイル、ベガ、ウグル。行くよ」
三人は返事をすると僕と柚子の肩に乗った。縄文はすぐ近くにあるので、馬車に乗る必要はない。僕たちは歩いてお城のある城門に向かった。巨大門の前に門番がおり、ウルガさんは領主からの依頼書を見せた。
「あれが領主の家だ」
圧倒的な存在感のお城。ルミナスに来た時から見えてはいたが、近くで見ると圧倒される。
「でかいですね」
「凄い大きい」
僕と柚子はお城を見上げながら言う。城前には多くのメイド。そして五十代くらいの執事が一人立っていた。
「ウルガさまですね。領主さまがお待ちです」
「お出迎え、ありがとう」
執事にお礼を言うとウルガさんは歩き出す。僕と柚子もその後をついていく。
「いらっしゃいませ」
メイドたちの綺麗に揃った掛け声に、お辞儀。まるでシンクロ水泳のようだ。執事に扉を開けてもらった後、中に入っていく。天井からは大きなシャンデリア、目の前には二階に続く巨大階段。そして白色ベースの綺麗な柱や壁、こんな立派なお城に入る日が来るとは思わなかった。
「こちらで城主様がお待ちです」
執事が扉を開けてくれるので僕たちは中に入る。執事は扉を閉め、廊下で待っているようだ。部屋の中には茶髪で前髪を中央で分け、短めの髪をした三十代男性で、ウルガさんとどこか雰囲気が似ている人がいた。
「アウル・ローラット伯爵様、ご依頼された件の調査報告の為に参りました」
膝をつき、胸に手をあてて頭を下げるウルガさん。僕と柚子も慣れていないが、真似をする。伯爵位はウルガさんの子爵位よりも一つ上の階級で、第三位の爵位だ。失礼があってはならない。
「よく来たな、弟よ!」
「兄上、お久しぶりです」
薄々は気づいてはいたが、アウル伯爵様とウルガさんは兄弟だったみたいだ。二人の笑顔を見るに関係は良好なようだ。
「そこにいる二人が、聖獣や怪物とも契約している、例の神話級の武器の持ち主か?」
「そうです、兄上。両方ともこの世界とは別のところから来た異世界人です」
「ほほぅ……興味深いな。そこの二人名は何と言うのだ?」
「はい、一ノ瀬優と申します」
「猫塚柚子と申しまちゅ……」
柚子は慣れない言葉遣いを使うところや緊張から、噛んでしまったみたいだ。
「そんなに硬くなるな、楽にするといい」
そんな柚子を笑いながら、優しく声をかけてくれるアウル伯爵様。(器のでかい人だな)と思った。アウル伯爵様に言われる通りに、席に座る僕たち。距離が近くなった分、余計に緊張してしまう。
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