第25話

「優、柚子。その格好、似合っているぞ」

「ありがとうございます」


 僕の真似をして、柚子もお礼を言う。僕はもちろんだが、柚子も緊張しているみたいだ。この部屋にはウルガさん以外にも初めて会う人がいるので、当然のことだ。ウルガさんも戦闘服ではなく僕のような青色ベースの貴族服を着ている。ウルガさんの隣には杏色のロングヘアをたなびかせ、透き通った水色の瞳。青緑色のドレスを着用し、見惚れてしまうほど美しい二十代後半の女性がいた。その後ろで隠れるようにこちらを見ているのは、柚子と同じ年で杏色のショートヘアで女性と同じ色の瞳をしたピンク色のドレスを着た女の子がいる。ウルガさんに言われてソファーに着席する僕と柚子。それを確認した後にウルガさんは口を開いた。


「優、紹介しよう隣にいるのが私の妻で、妻の後ろで隠れているのが娘だ」

「お初にお目にかかります。サーシャ・ローラットと申します」

「初めまして、一ノ瀬優です」

「初めまして、猫塚柚子です」


 僕の言葉遣いを必死にまねる柚子。ぎこちない部分もあるが、しっかりと言えたようだ。


「こら、アリス。挨拶をしなさい」


 緊張してなのか言葉を発しない女の子。サーシャさんが言うにはアリスと言う名前らしい。


「ごめんなさい……。この子は人と話すのが苦手みたいで……」

「アリスちゃん、こんにちは」

「……」


 やはり返事は帰ってこない。


「本当にごめんなさい……」


 申し訳なさそうな顔をするサーシャさん。僕も通ってきた道なのでまったく気にしてはいないのだが……。


「柚子、アリスちゃんとあそこでアリスちゃんと遊んであげて」


 僕は同じ部屋の少し離れた場所に子供が遊べそうな場所を見つけたので、指をさした。


「うん!アリスちゃん、行こ!」

「……うん……」


 アリスちゃんは小さな声で返事をする。そして積極的な柚子に戸惑いながらも、手を引っ張られて移動した。同じ年の女の子となら話せるかもしれないと思ったからだ。


「優、気を使ってくれてありがとな」

「いえいえ、僕も昔あんな感じでしたから、些細な変化もほめてあげると変わるかもしれませんよ」

「なるほど、意識して見守るとしよう」

「そうしましょう」


 何かに納得した二人。(そんなにたいそうなことは言っていないと思うけどなぁ……)


「優さん、主人の危機を救っていただいてありがとうございます」

「いえいえ。たまたま通りかかっただけですよ……」

「優、そんなに謙遜しなくていいぞ。あのまま助けてもらえなかったら今ここにはいないからな。はっはっは」

「あなた、笑い事ではありません!」

「そうか、悪い悪い」

「お二人は、仲がよろしいのですね」


 夫婦の温かい会話を聞いていたら、僕もなんだか温かい気持ちになってしまう。


「それでだな、褒美に優と柚子には何着か服を買ってあげようと思うのだが、受け取ってくれるか?」

「この服をいただいただけでも十分ですよ」

「いいや、受け取ってほしい。それにサイズが合っていないではないか」


 ウルガさん言いたいところを突かれて「ドキッ」としてしまう。この服はおそらくウルガさんのものだ。ウルガさんのほうが、背が高いため、ぶかぶかなのである。それにウルガさんにここまで言われてしまったら受け取らないと申し訳なくなってしまう。


「分かりました。ありがたくいただきます」

「そうか、それはよかった。ところでアリーシャ。その手に持っているものはなんだ?」


 ウルガさんはアリーシャさんに僕が渡したドライヤーのことに気が付く。


「これはですね、優様から頂いた髪を乾かすことのできる魔道具です」

「なんだと!私にも見せてくれるか?」

「承知いたしました」


 ウルガさんはドライヤーを手に持つと、電源を入れるボタンを押す。ドライヤーから暖かい風が吹き始め、ウルガさんに当たった。


「なんと!暖かい風が出てくるなんて不思議だ!優、これ貰っていいか?」

「ご主人様!わたくしがいただいたものです!わたくしがもらいます!」


 真新しいものが欲しいウルガさんにドライヤーを気に入ってしまったアリーシャさんが言い合いをする。雇い主にも負けず劣らずのアリーシャさんを見て、僕はついつい笑ってしまった。


「二人とも!やめなさい!客人の前で!」


 ウルガさんとアリーシャさんの言い合いを見ていたサーシャさんが二人を制した。


「申し訳ございません!サーシャ様」

「私が悪かった。すまん」


 あきれ顔をするサーシャさんに必死に謝るウルガさんとアリーシャさん。どこの家でも女性のほうが強いのかもしれない。


「優さん、これはいくらですの?」

「え~と、こちらの世界のお金の価値が分からないので何とも……」

「これらは優がただでくれたぞ?お金は必要か?」

「当たり前です!あなたしっかりとしなさい!」

「すまん。本当にすまん」


 サーシャさんに怒られて、全力の謝罪を見せる。ウルガさんも素直な人だ(僕が今までタダであげたものを見せなければ、ここまで怒られなかったのに……)そう思いながら見守ることにした。


「優さん、金貨一枚でこれらを買い取らせていただきます」

「金貨一枚?どれくらいの価値なんですか?」

「この世界で一番価値の低い銅貨の千倍の価値ですね」

「サーシャさん、それはさすがに高すぎませんか?」


 この世界の価値は良く分からないが、銅貨と言うと異世界ファンタジー作品の中では日本円で百円の価値になっていることが多い。それを基準にすると金貨一枚の価値は十万円になる。だから僕はそんなに高い額はもらえないと思ったのだ。


「いいえ、これらにはそれくらいの価値があります」

「そうですか……。遠慮なくいただきます」


 僕はサーシャさんに押されて金貨一枚を受け取った。ドライヤーはアリーシャさんが貰うことになったみたいだ。


「アリーシャさん、良かったですね」

「はい!ありがとうございます」


 嬉しそうな顔をしているアリーシャさんを見て僕はホッとしている。


「服屋さんをすでに呼んでいるから、優と柚子を連れて行ってくれるか?」

「承知いたしました」

「柚子、服を採寸しに行くよ」

「分かった。ねぇ、ねぇ、アリスちゃんも連れていていい?」

「いいけどアリスちゃんはどう思っているの?」

「行きたいって言ってるよ」

「アリスちゃんも一緒に来る?」


 僕は威圧をしないためにアリスちゃんの前でしゃがみ質問をする。アリスちゃんは柚子の後ろに隠れながらも小さく頷いた。


「アリス、優さんの質問に答えることができたね。えらい、えらい」


 優しくアリスちゃんの頭を撫でるサーシャさん。アリスちゃんはとても嬉しそうだ。ウルガさんとサーシャさんの許可をもらい、アリスちゃんと一緒に部屋を出て服屋さんのところへ行く。そしてしっかりと採寸をしてもらって、今日の夜に今着ている服と同様のものを二着ずつ持ってくると言っていた。柚子のドレスに関しては動きやすいように少しだけ丈を短くしてもらった

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