第24話
「支払ってくれてありがとうございます」
「ありがとう」
僕と柚子はウルガさんにお礼を言った。
「客人だからな、気にしなくていいぞ」
ウルガさんはそう言うと屋敷の大扉へと足を進める。僕と柚子はその後ろをついていく。扉の開く音。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
音に気が付いたのか、玄関の前に急いで駆けつけてきたメイド服を着た赤髪の女性。
「今、戻った。早速だが客人にお風呂場へと案内してくれるか?」
「かしこまりました。こちらにどうぞ」
メイドさんに迎え入れられて、お風呂場まで案内してもらう。ウルガさんは「報告がある」と言って別の部屋に向かった。ウルガさんと別れてメイドさんと柚子と三人になった僕はメイドさんになんと話しかけようかと悩んでいた。
「お姉ちゃん、名前はなんていうの?」
話題を振ったのは柚子だった。
「わたくしですか?」
「うん」
「アリーシャと申します」
柚子のおかげで名前を聞くことができた。その後、会話はなくお風呂場に到着する。お風呂場は男性と女性で分かれていることはなく一つの入り口しかなかった。柚子が一人でお風呂に入れるか分からない僕は一緒に入ることにする。一人でお風呂に入れて溺れてしまうことがあったら大変だからだ。
「着替えは洗うので、ここに置いておいてください!替えの服はお風呂に入っている間に用意しておきます。ではごゆっくりなさってください」
「分かりました、ありがとうございます」
そう言って服を脱ぎ、用意されていた小さいタオルで大事なところを隠す。柚子は自分で服を脱ぐことはできるみたいなので、手は出さないでおく。扉を開けると大浴場が広がっていた。普通の一般家庭ではないサイズで旅館の温泉みたいな大きさをしている。大浴場に広がる湯気が体を温める。露天風呂はないみたいだが、それでも十分かと思えるほどだ。
「体と頭を先に洗おうか」
「うん」
まず僕と柚子は洗い場に行き体と頭を洗う。柚子はまだ一人ではできないみたいだったので手伝ってあげた。体と頭を洗った後はいよいよ入浴だ。僕は柚子の隣でお湯につかる。
「体が温まるなぁ~」
懐かしさを感じる、入ったのは一か月ぶりだった。悪いものが体から洗い流されていく感覚になり自然に声が出てしまう。
「見て、見て、にいに~!泳げるよ」
「溺れないようにな」
「うん」
はしゃぐ柚子もまた可愛いが、溺れないようにしっかりと監視しておく必要がありそうだ。
入浴を始めてから二十分以上が経ち、のぼせてしまう前にお風呂から出ようと思った。どんな着替えが用意されているかは少しだけ気になっていた。
「柚子、そろそろ出ようか」
「うん」
大浴場を出て着替えが二つ用意されていた。着替える前に体と頭を用意されていたバスタオルでふく。柚子の体と頭もふいてあげた。そして服を着てみる。西洋貴族が着るような白色のカッターシャツ。その上には半袖の灰色のセーター。膝下まで伸びた黒色のロングコート、薄茶色のズボンに隠れてはいるが灰色のロングソックスだった。
「すげぇ~。ファンタジー作品でよく見る格好だ」
僕は服装に感心してしまっていた。
「にいに……これ、どうやって着るの?」
下着しか着用していない柚子はオレンジ色のドレスを見て、質問してくる。
「ん~。僕も分からないな……アリーシャさんいますか?」
「お呼びでしょうか?」
近くにいたアリーシャさんはお風呂場の中へ入ってくる。
「あの、ですね……柚子にこれの着方を教えてあげてください」
「承知いたしました」
あとはアリーシャさんに任せて僕は鏡の前でドライヤーを作り出し髪の毛を乾かす。
「にいに……似合う?」
柚子に呼ばれて後ろを振り向く。
「かわいいよ」
「えへへ」
柚子は顔を赤くして照れている。僕の目の前にはドレス姿の柚子が立っていた。少女とは思えないくらい大人びて見えるが、どこか幼さを残す顔。似合っているって表現だと、物足りない気がするくらい見入ってしまっていた。
「アリーシャさん、あとはこれを使って髪を乾かしてあげてください」
「失礼ですが、どうやって使えばいいですか?」
「ここを押すだけで、使用することができます」
電源を入れる部分を指さしながら、アリーシャさんに説明する。電気はこの世界にはないようなので、魔力を流し込んで充電をする方式になっているのだ。空イヤーを使うのが初めてなアリーシャさんは慣れない手つきで、柚子の髪を乾かす。そして髪を一つ結びに結ぶ。一つ結びにするだけでも全然印象が変わるみたいだ。
「これは便利ですね、なんという魔道具なんですか?」
「ドライヤーと言います。あげましょうか?」
「ありがとうございます。ご主人様に相談して許可をもらえましたらいただきたいと思います」
無表情な女性と言う印象だったのだが、ドライヤーを渡したことで、少しだけ表情が緩んでしまっているようだ。
「この奥でご主人様がお待ちです」
お風呂場を出てある部屋の扉の前でアリーシャさんが扉を開ける。アリーシャさんが扉を開けてくれたので、僕と柚子は中に入っていく。僕と柚子が部屋に入ってたのを確認した後にアリーシャさんも中に入り扉を閉めた。部屋の中は真ん中にある大きなテーブルを挟んで、ソファーが二つ。客人と面談さるためだけに設けられた部屋という印象だ。
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