第二章 異世界に家を建てる
初めての人の街
第23話
聖なる泉を照らす太陽の光で目を覚ます。今日は人の住む街への出発の日だ。帰ったらすぐに温泉に入れてくれるとウルガさんは言っていて、それが楽しみなのかすっきりとした気持ちで起きることが出来ていた。僕以外に起きている人はいなく、柚子の寝顔を見ながら起きるのを待った。
「むにゃむにゃむにゃ……。おはようござましゅう」
久々に発動した柚子現象。目をこすりながら体を起こす柚子はやっぱり可愛い。
「優、柚子、おはよう」
僕と柚子の枕になってくれていたウルグは起き上がった。
「ウルグ、おはよう」
「おはようござましゅう」
完全に覚醒していない柚子は柚子現象を連発する。ウルグは何も気にしてはいなそうだが、僕は表情を崩してしまう。
「優、今日は人の街に行くんだったな」
「そうだよ、どうしたの?」
「我はどう立ち回ればいいんだ?」
「僕の召喚獣として立ち回ってくれればいいと思うよ」
「怪物と言うのは伏せたほうが良いか?」
「そうだねー。知っている人がいたら敵対されると思うから。それとアルタイルとベガにも言うつもりだけど地形操作を使うのはなしだよ」
「分かっている!」
聖獣と怪物が持つ、地形操作と天候操作の魔法は人の街で使ったら多くの死者が出る。それは絶対に避けないといけないので、しっかりと釘を打っておく。その後、アルタイルとベガも起きたのでウグルと同じように釘を打っておいた。
「おはよう、優」
「おはようございます」
「おっはよー」
ウルガさんたちも起きたようだ。
「おはようございます」
僕の後に続いて柚子も挨拶をした。これで街に行くメンバーは全員、起きたことになる。
「シリウスさん、ここをしっかりと守ってくださいよ」
「分かっています。いつでもここに来てくださいね」
「分かりました。ありがとうございます」
シリウスさんから聖域にいつでも来ていいと許可をもらった僕たちは人の街に向かう。移動はもちろんアルタイルとベガを使っている、ウグルは小さくなって僕の肩に乗っている。
「ウルガさん、僕たちが向かっている街の名前はなんですか?」
「ルミナスの街だぞ」
「ルミナス!いい名前ですね」
「いい街だ。いろいろ紹介したいものだな」
「是非!是非!お願いします!」
ウルガさんが言うほどならいい街なのだろう。ギルさんとルルさんも頷いている。僕はワクワクしているのを感じていた。
「街を堪能して欲しいから、ここで降りるぞ!」
「分かりました、アルタイルとベガ僕と柚子の肩に乗ってくれ」
「了解した」
「了解しました」
ウルガさんは僕たちが初めての人の街で楽しめるように配慮してくれている。僕はみんなが下りた後にアルタイルとベガに指示を出した。巨大な防壁で囲まれたルミナス。そして目を引くような巨大門の少し前の茂みで僕たちは降りた。巨大門には二人の門番がいて鉄の装備を全身に着用している。
「お疲れ様です、ウルガ・ローラット子爵様」
「お疲れ様、しっかりな」
「はい!」
姿勢を正す二人の門番。僕たちはルミナスの中に入っていく。
「ウルガさん!貴族だったんですか⁉」
「実はそうなんだ……。黙っていてすまんな……」
ウルガさんは照れくさそうな顔をしている。子爵位と言うのは貴族階級の中では第四位の爵位だ。そんな爵位の人がなぜに冒険者をやっているのかは疑問だ。
「貴族なのになぜ冒険者を?」
「それはだな~。ルミナスに物資を調達する役目を担っているのが、三大子爵家の一角であるローラット家の仕事だからだ」
「そうなんですか。貴族が先頭に立って仕事をするなんて聞いたことがなかったので、驚いています」
「上のものが仕事をする姿を見せないと、下の者たちはついてきてくれないからな」
「いい貴族ですね」
「そうか?それならよかった」
ラノベやアニメに出てくる貴族は自分のことしか考えていない人がほとんどだったのにウルガさんはそれとは違った。ルミナスはウルガさんが言った通りでいい街だということを確信した。
「冒険者ギルドに戻りますね」
「私も~!」
「分かった、また手伝ってくれよ」
「ばいばい、お姉ちゃんたち~」
「また会いましょう」
西洋風の建物が一列に並ぶ街並み、整備された中央通りの奥にはまたしても巨大な城門に城壁。その奥にはお城が建っており、圧倒的な存在感を放っている。ルルさんとギルさんは僕たちに手を振って、中央通りを右に曲がり姿が見えなくなった。
「疲れただろう?馬車にでも乗ろうか」
「はい!よろしくお願いします!」
疲れた顔をしている柚子を見て、気を使てくれるウルガさん僕はご厚意に甘えることにした。街は活気にあふれており、多くの人々が出歩く中で向こうの世界のバスみたいに巡回する馬車を止め乗車する。
「ウルガ・ローラット子爵様!ローラット邸まででよろしいですか?」
「それで頼む」
「了解いたしました」
馬車を運転する御者はそう言うとゆっくりと馬車を走らせる。馬車の窓越しから見える店頭に並ぶ野菜の数々。冒険者が捕まえたであろう魔物のお肉が売り出されている。
「わぁ~。賑わっていますね~」
「にいに、あれおいしそう」
柚子は店頭に並ぶお肉を指さしながら嬉しそうにしている。僕は僕で街の雰囲気を楽しんでいた。
「楽しんでもらえてうれしいぞ」
ウルガさんは満足そうにしている。巨大な城門の前、馬車の御者さんは門番とやり取りをして中に入っていく。広大な敷地の最奥にはお城があり、その手前にもさらに城壁と城門。簡単に攻め込まれないために厳重になっているようだ。そして三分割された敷地の一つ一つに大きな屋敷があり、そのうちの中央の敷地の中にある屋敷のところへ向かう。
「ウルガ・ローラット子爵様!到着いたしました」
「ありがとう」
ウルガさんはそう言うと馬車の御者さんに銀貨一枚を渡す。銀貨一枚が日本円ではどれくらいの価値があるのかは分からなかった。
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