白銀の守護竜
第20話
大きな扉に近づくと自動的に開き始める。奥には分断された時と同じように魔法陣が地面に描かれている。
「また魔法陣ですか……」
ギルさんの嫌そうな顔。先ほどの分断転送がまた起きるかと思うと納得のいく表情だった。今回はルルさんも先陣をきるつもりはなさそうだ。ウルガさんに熱い視線を向けている。
「分かった、分かった。私が先陣をきろう」
ため息をついた後、ウルガさんは歩き出す。
「ドンマイです!ウルガさん」
「本当に困った仲間たちだよ……。こういう時は私にまず行かせるのだからな」
「それがリーダーというものですね」
「本当にな……」
「僕がお供します」
「それは助かるな」
僕とウルガさんのひそひそ話。誰も聞こえていないみたいだ。僕たちの後を柚子たちは追いかける。魔法陣の上に立ち、転送が始まる。転送が終わるとそこは遺跡の印象とは正反対の場所だった。元気に育っている草や花。空には赤色の月が輝き怪しく照らす。遺跡とは全く違う異次元空間と呼んだほうが、納得いくかもしれない。今回は分断されてはおらす、全員が同じ場所に転送させられていた。中央には白銀の胴体。そして大きな翼をもった十五メートルくらいの竜。月の明かりに照らさせてギラギラに光っている。体からは怪しげな魔力を漂わせており、目は赤色に輝いていた。
「グオオオオオオーン!」
大地を震わせるような咆哮。そして話すそぶりを一切見せずに白銀色のブレスを放ってくる。
「危ない!」
「下がってください!」
僕たちの目の前に飛び出すアルタイルとベガ。そして結界を張り竜のブレスを防いでくれた。
「優!我も本気で行かせてもらう!」
「アオーーーーーーン!」
ウルグの遠吠えに反応するように狼たちが出現する。そしてブレスを一斉に放って竜を攻撃した。竜は全く怯むことなく結界を張ってブレスを防ぐ。
「アルタイル、あの結界って……」
「主人の思っている通りだ。今は正気を失っているが同族だ」
アルタイルと同族ってことは聖獣だということだ。なぜ正気を失っているかは分からないが、助けることが可能ならば助けたい。
「おいおいおいおい。今まで出てきた魔物や魔導兵器とはけた違いの強さじゃないか……」
冷や汗をかき、体を震わせていたウルガさんの姿がそこにはあった。ウルグと対峙したことのある僕には良く分かる。恐怖心と言うものなのだろう。ギルさんとルルさんもウルガさんと一緒の状況に陥っている。すでにウルグを目の当たりにしている柚子は、ウルガさんたちほど怖がっていない。
「しっかりしてください!ウルガさんたち!竜が来ますよ!」
勢いよく突進をしてくる竜。ウルグの召喚した狼たちが体にかみついているのだが全く動じていない様子だ。体を動かすことのできないウルガさんたち。それを見かねてかウルグが竜のサイドから突進をして怯ませる。アルタイルとベガの光の槍の嵐、そして竜は動きを止めた。
「この相手ならばこれに決まっている!」
僕は対物用のスナイパーライフルの形に変形させる。高倍率スコープがついており、長距離射撃向けのこの武器は重機関銃と同じ種類の弾を使う。対物ライフルに分類されるこれはセミオート式である。狙撃手向きの武器なので、動き回ることはできず。その場に留まって射撃する必要がある。僕と柚子はギリースーツを着ている。この環境なら気付かれずに撃つことは可能だろう。
「柚子!戦えるな?」
「うん!」
「ギリースーツのフードを被って、僕についてきてくれ」
「分かった」
アルタイルとベガ、ウルグが竜の気を引いてくれているうちに僕と柚子は行動を起こす。幸いなことにこの場所は広く、竜の姿が小さく見える位置まで離れることに成功した。
「柚子!僕が持っている形に銃を変形させるんだ」
「はいです!」
僕と柚子は少しだけ離れて狙撃の姿勢をとる。
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「何をやっているんだ……。私たちは……。アルタイルさんやベガさん、そしてウグルさんに任せてばかりではないか……。優や柚子も自ら行動を起こして、この場にはいなくなっているというのに……」
ウルガは頬を両手でたたき、渇を入れた。
「ギル!ルル!そこで震えている暇はないぞ!」
声を荒げ、ギルとルルに行動するように促す。
「そうでしたね……優さんと柚子さんには負けられません」
「柚子ちゃんが頑張っているのに何もしないわけにはいかないね」
重たい腰を上げるウルガたち。全員、覚悟は決まったようだ。
「やっとやる気になったのか!ウルガたちよ」
「遅かったですね」
「待っていた!」
アルタイルさんとベガさん、ウルグさんにここまで言われて、引き下がるわけにはいかない。
「私だって、Åランク冒険者だ!」
竜の体を回転させるような尻尾攻撃、ウルガは自慢のドレットシールドで攻撃を防ぎ、グランマの剣を強化する。そしてそのまま尻尾を斬る。尻尾切断とはいかないが、赤色の血を吹き出した竜。
「グオオオオオーン!」
あまりの痛さに、竜は悲鳴を上げる。竜はその場から後ろに飛んで退いた。空を飛ぼうとする竜。飛ばれてしまえば、攻撃が通らなくなってしまう。それにどこかで身をひそめている優と柚子が見つかってしまうかもしれない。
「竜さん、飛ばせませんよ」
ギルはダガーを投擲し、竜の腹部に指す。鱗がないこの部分はある意味、竜の弱点かもしれない。そのままダガーの重量を重くして竜を地面へと叩き落す。地面に落ちた竜の懐に短距離空間移動で潜り込みダガーを回収し、元場所に戻ってくる。体を起こそうとする竜。
「今だよね!」
ルルは弓を構え、竜の顔面に三本の矢を同時発射。風属性を纏っており、竜に接触した瞬間に斬り刻む。【鎌鼬】これはルルの中では最高威力の魔法であり、どんなに硬い体でも貫通するという。竜は顔面から血を出す。
「グオオオオオオーン!」
怒った竜は赤い目を強く光らせ、ブレスを吐こうとする。それを狙っていたかのように見えないところから二発の銃弾が飛んできて、竜の口の中に入っていく。銃弾は竜の喉部分に直撃してそのまま貫通。優と柚子の仕業だろう。ウルガが視認することのできない場所からどうしてあんなに正確に狙えるのだろう。
「グオオオオオオーン!」
喉を貫かれブレスは止まった。だが竜はこれだけでは倒れない全方位に白銀色の衝撃波を発生させてウルガたちを飛ばそうとする。
「させないですよ!」
「ウルグ!離れるんだ!」
アルタイルさんとベガさんの竜を囲むようなドーム型の結界。そして衝撃波を封じ込める。
「なんて規模なのだ」
「あんな規模の結界なんて見たことがないよ」
「凄いですね」
見たことのない大きな結界にウルガたちは感心してしまう。
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