第19話


 ベガのおかげで命拾いした僕と柚子は円を描くように降りていくベガを眺めていた。地面に着地してすぐに隣からはばたく音が聞こえてくる。「ドン」と勢いよく地面に着地した音もする。


「無事だったか?優」


 アルタイルの上からはウルガさんの声が聞こえてきた。


「はい!ご無事で何よりです」


 ウルガさんの目を見ながら無事を喜ぶ。


「柚子ちゃ~ん。会いたかったよ~」


 アルタイルの上から勢いよく飛び降りて、真っ先に柚子に抱き着くルルさん。


「お姉ちゃん、痛いよ~」


 柚子はそう言いながらも嬉しそうだ。


「ご無事で何よりです。優さん」


 いつも通りで、落ち着いた口調のギルさん。いつも通りの皆さんを見て心の底から喜びがあふれ出ている。


「優!会いたかったぞ!」

「短い間だったけどね」

「それでもだ!嬉しいぞ!」


 ウグルも元気みたいだ。僕は首元を撫でて、フワフワとした毛の感触を楽しむ。


「主人!元気だったか?」

「この通りぴんぴんとしているよ」

「いらない心配だったな」

  

 アルタイルの顔を手でこすり、無事を伝える。一度分断されたパーティーだったが、全員大きなけがもなくこうして再び会うことができた。幸運ともいえるこの状況を僕は大変うれしく思う。ルルさんは柚子にべったりだが、今回は特別に許すことにする。


「この先も続いてそうですね」

「一本道だから誘いだされているような気がするな」


 ウルガさんの言う通りで、誰かに誘い出されているような気がする。罠だと分かっていても戻ることはできないので、進むしかないのだが……。


「ルルさん、柚子さんから離れてください!行きますよ」

「えぇ~。もう少しだけ、ね?ね?」

「お姉ちゃん、みんなに迷惑かけちゃダメだよ」

「は~い」

「はぁ~。柚子さんには素直に従うのですね」


 あきれている表情を浮かべるギルさん。それよりも柚子が人を注意するところを初めて見た気がするので、感心している。道なりに進んでいくと大きな扉の前に三つの石像が飾ってあった。その石像は悪魔のような顔をして角をはやしており、羽もしっかりとついている。鋭い爪に鋭い視線がこちらを監視しているみたいだ。 


「あれは……ガーゴイルだ」


 アニメやラノベでも門番としてよく出てくる怪物。見間違えるはずもない。


「ガーゴイルとは何だ?」


 ウルガさんでも知らないみたいだ。それは当然のことで、ウグルと同種の存在だからだ。


「ウグルと同種の怪物ですよ」 

「何だと……それはまずいのではないのか?」

「えぇえ、かなりまずいですね。近づかなければ害はないですけどね」

「でも行くしかないわけだな」

「そうです。覚悟を決めてください」


 ウルガさんを始め、ルルさんやギルさんの顔色も穏やかではなくなっている。ここと出る為には行くしかないのだ。覚悟を決めた僕たちは大きな扉を目指して歩く。予想してた通りに三体の石像は動き始めた。台座から離れてガーゴイルは空を飛ぶ。


「石像なので、物理攻撃や斬撃攻撃は通らないと思ってください」


 ガーゴイルの厄介なところは攻撃方法が制限されること、ウルガさんの片手剣は勿論のことギルさんのダガーも効かない。ルルさんの射った矢も弾かれてしまうだろう。僕と柚子の銃がガーゴイルに通用するかどうかは試してみないと分からない。


「私とギルが防御に徹するから、ルルは弓矢ではなく魔法で攻撃してくれ」

「分かったよ」


 一体のガーゴイルの引っ掻き攻撃をウルガさんが盾で防ぐ。ガーゴイルの動きが止まったところをルルさんが火属性魔法の【火球】で焼く。命中はしたが、一撃ではやはり死なない。二体目のガーゴイルの引っ掻き攻撃をギルさんが防いでくれているので、僕はリボルバーでガーゴイルを撃つ。銃はガーゴイルにダメージを与えることができるみたいだ。


「柚子!銃ならダメージが入るよ」

「分かった」


 三体目のガーゴイルには柚子がリボルバーで射撃をして、怯ませる。僕たちの攻撃で一旦、後ろに下がったガーゴイルは鉄のように硬そうな球を僕たちに飛ばしてくる。ベガとアルタイルが結界を張り、防ぐことは出来た。ベガとアルタイルは光の槍を体の周りに浮かせて、ガーゴイルに向かって放つ。ガーゴイルは素早い動きで、光の矢を避けている。


「我のことも忘れては困るぞ!」


 ウグルは光の槍の範囲から逃れたガーゴイルに噛み付く。いくら堅い石像だと言ってもウグルに噛みつかれてしまっては砕け散る。一体のガーゴイルはウグルによって倒された。


「柚子!ルルさん!今です」


 ルルさんは火属性魔法の【火柱】を。僕と柚子はリボルバーでルルさんが狙っているガーゴイルに射撃する。僕と柚子の銃弾が先に到達し、ガーゴイルにヒビを入れる。その後、ガーゴイルは【火柱】に飲み込まれ、消滅した。


「優、最後の一体になったな」

「そうですね。あとはアルタイルとベガに任せましょう」

「よし、分かった!聖獣様の力を見せてもらおうかな」


 ウルガさんと話して、アルタイルとベガにあとは任せるということになった。


「了解した」

「了解しました」


 アルタイルとベガの「任せてください」という意志を感じる返事。そしてベガがライトニングゴーレムの時に披露してくれた全サイドロックを発動する。ガーゴイルが動けなくなったところをアルタイルが口から光のレーザーを発射して、体を貫いた。ガーゴイルはそのまま消滅する。


「攻撃が通らないのはきついぜ……」

「そうですね……。攻撃が通らないのは辛いですね……」

「相性があるんだからしょうがないよ」


 落ち込んだ表情をするウルガさんとギルさん。それを見たルルさんは優しく声をかける。この状況を見るとやっぱり仲のいいパーティーだなと感じる。


「扉を開いたらまた次の階層に行くと思いますよ。一旦休憩しますか?」

「そうだな……。連戦続きで疲れているから休憩しよう」


 僕たちは次の階層に行く前に休憩を取ることにした。ルルさんが巾着袋から大きな弁当箱を取り出す。


「私が作った弁当をみんなで食べましょう」


 ルルさんが弁当箱の蓋を開けるとそこには肉類は勿論、野菜やパンなど栄養満点でバランスの取れた食事が入っていた。


「ルルさん料理ができるんですか?」

「当たり前だよ、私の印象ってどうなってるの?」

「少女好きの女の人」

「否定はしないけど、優さん、私はは女性です!料理くらいはしますー!」

「なんかすいません……」


 頬を膨らませて怒っているルルさん。(何か失言でも言ってしまったのか……分からない、本当に分からない)僕はそんなことを考えながら、みんなで「いただきます」と言って食事をとった。 

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