第18話

 目を開けてみると闘技場のような大空間にいた。扉もなく完全に隔離されている状態だ。ウルガは辺りを見渡し、ルルとギルが倒れているのを確認する。


「おい!大丈夫か?」


 ウルガはルルの顔の前で両手をたたき、起きるように促す。呼吸は止まっていないので、すぐに目を覚ますと思ったのだ。


「私……何をしていたっけ?」


 転送の反動で少しだけ記憶が飛んでしまっているようなのだ。


「真っ先に魔法陣に乗っていたのに、覚えていないのか?」

「あぁあ!思い出した。転送されたんだった」

「大丈夫そうだな」


 ルルの無事を確認するとウルガはすぐにギルに近づいて、体をゆする。おそらくギルもルルと同じ状況になっているに違いない。


「転送されただけで、気を失ってしまうとは情けないですね」


 そう言いながらゆっくりと起き上がるギル。ルルのように記憶が飛んでしまっていることはなさそうだ。


「ギルも問題なしだな」

「はい、ご心配をおかけました」


 優と柚子の姿はない。完全に分断されてしまったようだ。ウルガの後ろには大きな気配。後ろを振り返ると優と契約しているアルタイルさんとウグルさんの姿が見える。ベガさんは一緒ではないようだ。


「主人と別れてしまったか……」


 気を落としているアルタイルさん。優とどれだけ仲が良いのかが良く分かる。


「優はどこだ?」

 

 口はいいとは言えないが、元気そうなウグルさん。この状況にも動じず平常運転なようだ。


「二人とも無事でしたか。優と柚子と分断されてしまったようなのです。再び合流できるまで力を貸していただけないでしょうか?」

「良かろう」

「了解した」


 二つ返事なウグルさんとアルタイルさん。優と一緒で優しい方たちだ。


「目の前に敵がいる!」


 共闘の約束をして先に進もうとしたのだが、アルタイルさんの索敵に何かが引っ掛かったようだ。


「みんな!戦闘準備だ!」

「分かりました!」

「任せてー!」


 ウルガの指示で戦闘態勢をとるルルとギル。冬と思ってしまうくらいの冷たい風。「パキパキ」と地面が固まるような音。薄暗かった大空間が明るくなる。目の前に立っていたのは水色の硬い装甲をした体に冷気を纏わせたゴーレムがいた。


「アイスゴーレム……Åランク指定の魔導兵器……」

「骨が折れる戦いになりそうね」

「やはりですか……」


 この遺跡に来てÅランク以下の魔物や魔導兵器を見ていない気がする。それでも強敵と戦えるのは大変喜ばしいことである。


「アルタイルさん、ウグルさん!防衛に回っていただいてもよろしいですか?」

「了解した」

「何でだ?我も戦いたいぞ!」

「ウグル!ウルガさんは自分たちの実力で戦いたいと言ってるんだ。我慢しなさい」

「分かった、分かった」


 優がいないときでもしっかりとアルタイルさんがウグルさんを止めている。ウルガは吹き出しそうになってしまったが気に障るといけないので、ぐっとこらえた。


「戦いましょう!ウルガさん」

「了解だ!まずはは距離をとって、攻撃パターンを見るとしようか」


 ギルの発言で戦闘が始まる。最初にやらないといけないのは、攻撃パターンを覚えることだ。昔のウルガがそうだったように無謀に突っ込んでいくことは、仲間を危険にさらすこと。それは絶対に避けないといけない。ウルガを先頭にギル、ルルという順番に並びアイスゴーレムの攻撃を待った。ウルガたちが攻撃してこないので、しびれを切らしたのかアイスゴーレムは両手を地面につける。地面につけた瞬間、床から無数の氷の針が出現し、ウルガたちを襲う。


「私より前には出るなよ」


 ウルガは注意を促した後、盾を構える。すると魔法の障壁のようなものが全員を包み込むように展開される。


「ドレットシールドの効果発動!」


 ウルガが叫ぶと氷の針は盾の中に吸収されていく。これが伝説級武器の効果で吸収したものを右手に持っている片手剣であるグランマの剣の力に変換して攻撃力を高めていくものだ。魔力の消費が多いため、連発して使うことはできない。グランマの剣は赤く輝いている。


「今だ!前に出るぞ!」


 アイスゴーレムが膠着状態に陥っていることを確認するとウルガは指示を出す。


「次はこちらから行きますよ」


 ギルは腰から二本のダガーを抜いた。この伝説級武器はグラビティーダガーでギルの意志一つで重力操作を可能とするもの。重力操作を使えない人は使用不可能だ。ギルはダガーを軽くして投擲する。そしてアイスゴーレムに刺さるのを確認すると重量を重くする。床が少しだけへこみアイスゴーレムは動くことができない様子だ。


「今です!ウルガさん、ルルさん」

「ナイスだぞ!ギル」


 火力の上がった片手剣も上から兜割のように振り下ろす。アイスゴーレムの右肩から手が離れ地面に落ちる。


「ナイスだよ!ギル」


 ルルが持っている弓も伝説級の武器で名前をリブアロウと言う。属性エンチャントができるので、属性耐性の無い敵、もしくは弱点属性をぶつけることで大ダメージを与えることができる。


「ファイヤーエンチャント!」


 そう言いながら矢に火属性を纏わせ、三本の矢の同時発射を二連続で行う。アイスゴーレムの弱点は火属性なので直撃した瞬間に体に穴が開く。


「やったか?」


 ウルガはアイスゴーレムを見て、状況を確認する。アイスゴーレムは右腕、そして穴の開いた部分を素早く再生させる。


「マジでか……見落としている部分でもあるのか?」

「不死身ですか?」

「胴体をちゃんと破壊したのに……」


 あれだけのダメージを追っても再生するゴーレムは見たことがないかもしれない。今まで倒したことのあるゴーレムは胴体を破壊すれば、機能を停止したのだ。どうしてなのだろうか……。そんなことを考えているうちに完全復活したアイスゴーレムは上空から広範囲にツララを落とし始める。


「これはまずい……ルル、障壁を張れるか?」

「任せて!」


 盾は前方向の防御は強いのだが、上方向や後ろ方向からの攻撃にはめっぽう弱い。ここは全方位の守りに強い障壁を張れるルルに任せるしかなかった。それを見たアイスゴーレムはウルガたちを追撃する。アイスゴーレムの体から離れた手が何度も障壁を殴る。破られるのも時間の問題だ。


「力を貸すぞ!ウルガたちよ!」


 ウルガたちのピンチを救ってくれたのはウグルさんだった。ウルガさんは引力の渦を自分の頭上に作り出す。そしてアルタイルさんに視線を送る


「頭上の渦をアイスゴーレムの上まで運べばいいんだな」


 アルタイルさんは風を発生させ、アイスゴーレムの頭上まで引力の渦を運ぶ。無数に落ちてきているツララがアイスゴーレムの頭上に集まり、大きなツララとなりウルグさんの魔法解除とともに落ちていく。アイスゴーレムの頭は割れ、中から魔石が出現する。魔石の破壊はできなかったようだ。


「ウルガさん、思い出しましたよ。あれを壊せばアイスゴーレムの動きは停止します」

「そうか、そうか。今まで戦ってきたゴーレムの魔石は胸にあったのだな」

「そういうことね。なるほど、なるほど」

アイスゴーレムが再生した理由がようやく分かった。理由が分かったのは、ウグルさんとアルタイルさんが頭を破壊してくれたからだ。もしかしたらウルガたちに教えようとしてくれたのかもしれない。

「ウルガさん。行ってきますね」


 ギルは短い距離を空間移動して、アイスゴーレムの真裏に行く、そして魔石を壊さないようにダガーで頭から引きはがして、手に取る。アイスゴーレムは再生しなくなった。


「これは高く売れますからね。しっかりと保管しないといけません」


 満面の笑みを見せるギル。ウルガも口角が緩んでしまった。


「終わったね~」


 ルルは弓をしまい、体を伸ばす。


「お疲れさん」

「お疲れ様です」


 ウルガたちはいつものあいさつをして、一息ついていたのだが、「ゴゴゴゴゴ」という音とともに床が崩れた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「……」


 絶叫をあげるウルガとルルに対し、ギルは無言のまま自由落下をしていく。(何この温度差)とツッコミたくなってしまった。


「我なら大丈夫だ!ウルガたちを助けてやれ」

「はいはい」


 崩れた床の破片を足場にして、下っていくウルグさん。そしてアルタイルさんはウルガたちを拾い下に飛んで降りていく。

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