遺跡攻略戦後編

第17話

 転送が始まり、ふわりとした感覚が僕を包み込む。まるで鳥のように空を飛んでいる気分になり、爽快な気持ちになる。時間は一瞬、それだけでも十分に満足することができた。隣には柚子が手を繋ぎながら立っており、ベガが僕たちの後ろにいた。アルタイルにウグル、そしてウルガさんたちの姿はなく、別々の場所に飛ばされてしまったみたいなのだ。


「柚子―柚子!」


 僕は軽く頬をつねり柚子をこちら側に引き戻す。


「にいに……!にいに……!ひっく……ひっく……」


 何を思ったのか、柚子は抱きついてくる。悪夢でも見てしまったのか、冷や汗をかきながら弾くように泣く。


「もう大丈夫だよ」


 柚子に優しい声をかけながら落ち着くまで包み込む。


「主人様、前方に何かいますよ」 


 ベガの視線の先には、二メートルくらいの大きさで、黄色で頑丈そうなロボットみたいな体。そして体の周りには「ビリビリ」と帯電している。ウルガさんがいないので正式名称はよく分からないが、ライトニングゴ―レムと言ったところだろうか。


「転送してすぐボス戦だとは聞いてないぜ……柚子、やれるか?」

「うん!」


 柚子と目を合わせたあとに腰のガンケースからハンドガンを取り出す。コマのように体を回転させるライトニングゴーレム。天井からはランダムに雷が落ちて来ている。ベガの上に落ちて来ても結界を張って防御しているので、ダメージは受けることはないだろう。それに雷の落ちてくる場所は多少明るくなるので、どこに落ちてくるかは目で見れば分かる。柚子も分かっているようなので走りながら、左右それぞれに展開する。


「雷を避けれそうに無かったら、防御を頼む」

「了解です。主人様」


 これで無茶して突っ込んでしまってもフォローはしてくれるだろう。ベガを使えば簡単に倒せてしまい、僕と柚子の練習にならない為、今回は防御に回ってもらうことにしたのだ。ディアルハンドガンから発射される銃弾。ライトニングゴーレムに命中したが、効いていなさそうである。柚子もハンドガンから僕と同じように銃弾を発射しているが、結果は変わっていないようだ。ライトニングゴーレムの両手が外れ僕と柚子を襲う。厄介なことに追撃機能があるようで避けても避けても近づいてくる。


「柚子!これはい追撃式だ!軌道を読んで土属性の障壁を張るんだ!」

「はいです!」


 避けたあとすぐに障壁を張るのは軌道が読みづらく難しい。よって手が一直線に僕に向かってくるようにしばらくの間だけ真っ直ぐ走ればいい。予想通りに手は一直線に僕を追撃してくる。


「ここだ!」


 僕は土属性の衝撃を張り、手を弾き飛ばす。手を避けながら僕を見ていた柚子も真似をする。ライトニングゴーレムの手は元位置に戻る。


「土属性の魔法を銃弾に付与してみよう」

「分かった」 

 

 僕の言葉に柚子は元気に返事を返す。そして再び土属性を付与した銃弾をライトニングゴーレムに当てる。一瞬だけだがライトニングゴーレムの帯電が解除され、ダメージが入った。これを蓄積させていけばライトニングゴーレムを倒せる。そう思ったのは束の間、ライトニングゴ―レムは手から雷を直線に放ち、体を回転させる。雷の高さは僕の腰あたり、柚子の場合は頭の辺りだ。


「主人様たち、これを使ってください」


 僕と柚子の地面から突如として現れた登り風。僕と柚子はそれに足から飛び込み縄跳びのようにジャンプで避ける。何周もして目が回ってしまったのか、ライトニングゴーレムはクラクラしている様子だ。 


「撃ちまくれ!」


 僕と柚子はハンドガンからサブマシンガンの形に変形させて、挟み込むように土属性弾を撃ち込む。短機関銃とも呼ばれ、フルオート式で五十メートルから二百メートルの範囲ならば、威力減衰を受けることのなく、近接戦闘に特化した高い火力の武器だ。それが連続で当たるわけだからライトニングゴーレムも無事では済まないだろう。胴体が破壊され倒したかと思ったが、体が再生していく。


「やっぱり、核を壊さないとダメかな……」


 漫画やラノベでよく見るゴーレムの倒し方は核を破壊することだったはず、見た感じ胴体にはないようなので頭にあるのかもしれない。完全復活したライトニングゴーレムは十個の電撃玉を宙に漂わせ、僕と柚子に向かって発射してくる。追尾機能のある電撃玉。やはり厄介だ。


「にいに!この玉、撃てる」


 柚子が電撃玉を破壊したのを見て、僕も真似することにした。


「自分で色々試すのはいいことだ。柚子」 

「うん!面白い!」


 僕の戦い方にだいぶ染まって来た柚子。成長に少しだけ嬉しく思ってしまう自分がいる。


「ベガ!あいつの動きを止めることはできるのか?」

「もちろんです!主人様」

「核を見つける為に頭を撃ちたいから頼んでいいか?」

「了解です」 


 羽を少しだけ動かし、ベガは風を利用した全サイドロックを発動した。ものすごく繊細な魔法制御で、どの方向から吹く風も中央に向かって吹いているので、真ん中にいるライトニングゴーレムは身動きが取れなくなってしまった。


「おらぁ!」

 

 サブマシンガンからショットガンに変形させ、近距離で一発。粉々になった頭の中から一際目立つ瑠璃色の魔石が姿を表した。


「柚子!引き抜くぞ!」

「うん!」


 核の周辺は帯電していないので、僕と柚子は同時に魔石に触れて全力で引っ張る。柚子の背が足りない部分は先ほどの登り風で高さを上げている。魔石を壊さないのはしっかりとした理由がある。魔石は高く売ることもできるし、魔道具とかの動力にも利用できる。これもラノベやアニメの知識の一つだ。全力で引っ張っていると次第に頭部から引き剥がされ、引き抜くことに成功した。ゴーレンは動力源を失い再生することはなかった。


「よし!魔石ゲット〜!」

「にいに!この魔石綺麗だね」

「綺麗だよね!何に使おうかなぁ〜」


 僕は魔石の使い道を楽しく考えてしまっていた。今回はベガのアシストもあってか、かすり傷、一つ受けずに倒すことができた。ノーダメージ攻略というやつだ。僕と柚子の連携も上手に取れるようになって来た。ウルガさんたちは大丈夫なのだろうか……。そう思ったのは束の間、ライトニングゴーレムが動かなくなって十秒もたたないうちに床が抜ける。


「噓だろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 僕と柚子は抵抗することも許されず、暗い空間に飲み込まれていく。


「主人様!背中に乗せてお連れします」


 僕と柚子の下に潜り込みすくい上げるように背中に乗せるベガ。そのまま何も見えない空間に緩やかに下りていく。

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