第16話

 飛行型ガーディアンが守っていた空間を出て、何もない通路をただまっすぐに進む。先ほどよりも薄暗いのに何も起きていないことが不思議だ。「カチ」と言う起動音が響く。


「ごめ〜ん。何か踏んじゃった」


 ルルさんは申し訳なさそうに笑う。「ゴロゴロゴロ」という玉が転がるような音。そして通路をと同じ大きさの玉が僕たちに向かって転がって来ているのだ。


「ウルガさん。これどうしましょうね」


 ギルさんはウルガさんの顔を見ながら言う。


「逃げるか……」


 いくつもの魔法陣が重なって強化されているような玉。人の力では到底、壊すことができそうにもない。僕と柚子が同時に銃を撃っても壊れる気がしない。僕も逃げることが最善の策だと思った。


「我に任せるが良い!」


 本来の大きさに戻っているウグルが自身ありげに言う。


「ウグルー任せた!」


 僕はウグルを信じることにした。ウグルの口は赤色に輝き出す。そしてブレスを放った。玉は粉々、それでもブレスの勢いは止まることを知らない。そのまま壁に激突して、ブレスは消えた。凄まじい威力に一同呆然と立ち尽くす。あの時、ブレスを受け切る為に障壁を十重に重ねて置いたのは正解だったようだ。


「優!我の力はどうだ?」

「遺跡が崩れるかと思ったよ」

「あともう少し威力が出せていれば崩せたのにな」

「そこまでやらなくていい!」


 そうツッコミながらもウグルの首元辺りを撫でる。この場所はウグルのお気に入りの場所みたいなのだ。犬みたいに尻尾を振りながら喜んでいる様子。トラップを力技で回避した僕たちはさらに奥に向かう。その他にもタイミングよく進まないと床から出てくる針に刺さってしまうものやぶら下がっている揺れた刃物を避けながら進むものなど様々なトラップを攻略していく。


「今どの辺りにいるのかな?」

「この場所、さっきも通りませんでしたか?」


 ずっと同じ景色が続き、この道であっているのか心配になっているルルさん。僕は僕で、同じ場所を何回もループしているような気がしているのだ。


「ループしているかどうか確かめるために荷物でも置いておこう」


 ウルガさんは僕が遺跡に来る前に預けた携帯ろ過装置を地面に置いた。(貴重なろ過装置を……)と思ったが、特徴的でこの場になじんでいない分、見分けやすいと思ったのだろう。ろ過装置を置いた後に道なりに進んでみると、携帯ろ過装置が再び現れた。


「これはループしていますね。何らかの魔法でもかかっているのでしょうか?」

「そうだとすると解除する方法を見つけないとな」


 冷静に状況を確すると原因を突き止めるために行動するウルガさんとギルさん。さすがは経験豊富な冒険者さんだ。


「区画分けして仕掛けを探してみませんか?」


 僕はそう提案する。大きい範囲を全員で探索するよりも区画分けして、確認した箇所に印をつけていけば効率よく作業が進むと思ったからだ。整理整頓をしているときにもよく使われる基本的な手法の一つだ。


「それはいいアイデアだ。どうやって区画分けするのだ?」

「それはですね。こうします」


 僕はウルガさんの疑問に実演して答える。壁、床そして天井に光の線で作った。区画を表示してその範囲を別の人に見てもらうと言うものだ。第三者から見たら膨大な魔力の無駄遣いと言われるかもしれないが、薄暗い中では分かりやすいと思った。


「ははは……。これはたまげたな」


 範囲的には畳六畳ほどだが、普通の人間にはできない芸当だ。だからウルガさんは驚いているのだろう。ウルガさんたちは手始めに壁の区画の端から端までしっかりと調べていく。


「壁には何もないね……」


 調べ始めて数分、ルルさんがポツリと呟く。壁には何もなかったようだ。次は床、玉のトラップを起動したときのように手で触って動きそうな箇所を調べていく。


「床もはずれですね」


 ギルさんも呟く。そうなると最後は天井なのだが、全体的に光の線を表示させたのに陰になっている部分が存在していた。それも一つではない複数個所にだ。


「あれ?おかしいな」


 天井を見上げながら僕は頭をひねる。


「にいに、今、動いたよ」

「えっ?嘘?」


 天井を指さす柚子。しかし僕は動いたのを確認できていない。柚子はハンドガンを手に持ち、天井に向かって発射する。「うぎぃ」という音をたて、何かが地面に落ちてくる。


「これは、Åランク指定の迷宮蝙蝠だ!奴らの牙には猛毒がある。騒ぎ出す前にすぐにバリアを!」


 ウルガさんの指示で僕は魔法を解除し、アルタイルとベガが結界を張る。ルルさんに結界を張らせないのは力を温存しておくためである。人間よりも多いが、僕と柚子みたいに規格外で膨大ではないためだ。結界を張って数秒もしないうちに天井に泊まっていた大量の蝙蝠が集団となって飛び始めた。見ているだけで、気持ち悪くなってしまうほどの数。結界を張っていなかったらどうなってしまっていたのか想像できてしまうのでゾッとする。それにしてもアルタイルの感知に引っかからないほどの隠ぺいのもちの生物がいるとは思いもしなかった。


「おっ!何かが見えてきたぞ」


 ウルガさんの指さす方向には、巨大な魔方陣が床に描かれていた。


「この階層はクリアですかね?ウルガさん」

「多分な、どこまで階層があるのかは未知だけど……」

「ウルガたち、行きましょ!」


 そう言いながら先陣を切ったのはルルさんだ。僕たちはその後をゆっくりとついていく。アルタイルやベガ、ウグルも含めて全員が魔法陣の上に乗った瞬間に転送が始まった。

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