遺跡攻略戦前編

第15話

「その袋、便利ですよね」

「これか?高いけど便利だぞ。中は魔法空間になっていてな、多くの荷物を入れることができる優れものだ」


 僕がおいしい水を飲むために使った道具をウルガさん自慢げに巾着袋のようなものに入れる。


「僕も欲しいです」

「そうか、そうか。それなら稼がないとな」


 ウルガさんの勝ち誇ったような口調。僕は悔しがってしまう。一息ついた後に再びアルタイルとベガに僕たちは再び騎乗する。


「ル、ル、ルルさん。またこっちに乗るんですか?」

「当たり前じゃない」


 当たり前のように僕の背中に体を接触させる。(僕の気も知らないで……)諦め半分、そして少しずつだが、ルルさんにも慣れてきたかもしれないと思う気持ちが半分だ。僕たちは寄り道をすることもなく、まっすぐと遺跡に向かう。いつもよりも早く、時速六十キロくらいで飛ぶアルタイルとベガ。僕たちが風の影響を受けないように風の結界で守ってくれている。

 遺跡についたのは、太陽が一番高い位置に来る正午ごろだ。遺跡から漂うただならぬ雰囲気に飲み込まれそうになる。僕の前に座っていた柚子の体は震えている。


「柚子、大丈夫か?」

「うん……」


 頭を縦に振る柚子。いつもとのテンションの違いにすぐに気が付いた。僕でも帰りたくなる雰囲気なのだ。怖くない訳がない。


「にいに……抱っこ……」


 両手を広げる柚子。柚子のほうから要求してきたのは初めてかもしれない。僕は柚子を抱きかかえる。


「すいません。戦闘にあまり参加できないかもしれません」

「心配はいらないぞ!私たちに任せておけ!」

「柚子ちゃんをしっかりと守ってあげなよ」

「気にしないでいいですよ」

「ありがとうございます」


 ウルガさん、ルルさん、ギルさんの温かい心遣い。僕はほんわかとした気持ちになる。何もしないのはさすがに申し訳ないので、アルタイルとベガ、ウグルにウルガさんたちの手助けをしてほしいと頼んでおいた。僕も片手扱うことのできるハンドガンを持っておく。そして遺跡の扉を解放し、中に入っていく。青色の火のついたかけ松明が壁際で光を散らつかせ、何本も柱が均等な間隔で立っている広い空間に出る。至る所に死角があり、どこから攻撃されても気付くのが遅れてしまいそうだ。


「主人たち、何かが索敵領域に侵入して来た!」


 遺跡に入ってから少しして、アルタイルの警戒を促す声が響き渡る。一瞬で全員が戦闘モードになる。複数のドローンの音がこちらに向かってくる。赤い目からはレーザー光線を撃ってきている。


「主人さまたちを守ります!」


 ベガの声とともに僕たちを囲むように鏡の障壁が展開される。レーザー光線は鏡に反射して、五体のドローンを破壊する。


「こいつは飛行型ガーディアン!Åランク指定の魔導兵器だ!」


 ウルガさんは苦笑いを浮かべる。


「こいつらに近距離攻撃で攻めるのは分が悪い。頼めるか?優とルル」

「了解だよ!」

「任せてください!」


 片手で持ったハンドガンで、ルルさんは弓で攻撃を行う。ベガはルルさんとはテレパシーができないので、一定間隔で障壁を解くように指示している。


「くっ……もっと高威力の銃が必要だな」


 ハンドガンだと飛行型ガーディアンを倒すのに十発の弾を消費する。なので一撃で落とせるような銃に変形させたいのだ。


「にいに……柚子も頑張る……」


 戦う僕たちを見て、思ったところがあるのだろう。本当に強い子だ。柚子は僕から降りて銃を構える。


「柚子!これを使うよ!」


 変形した銃は両手持ちのマークスマンライフル。歩兵部隊の中から射撃に秀でたもの、選抜射手(マークスマン)が使用するものだ。セミオート式で、スナイパーライフル程ではないが射程の長い武器で、一撃一撃の威力が高い。


「柚子、落ち着いて狙うんだよ」

「はいです」


 僕と柚子はテレパシーを使ってベガと射撃のタイミングを合わせる。


「今だ、ベガ!一瞬だけ障壁を解いてくれ!」

「了解いたしました」


 ベガが障壁を解いたのと同時に僕と柚子が飛行型ガーディアンを一撃で撃ち落とす。硬い装甲でできた体を容易く貫いたのだ。それを何度か繰り返し、飛行型ガーディアンを一匹残らず破壊した。


「その神話級の武器、やっぱり強いね」


マークスマンライフルを使用し始めた頃から観戦に入っていたルルさんは感心している様子。


「とても強いです!これが無かったらここまで生き残れなかったですね」


 何度も命を助けられたこの武器に僕は感謝の気持ちを持って扱っている。今回の戦闘で倒した飛行型ガーディアンの数は三十体ほどで、ウルガさんたちは飛行型ガーディアンの部品を集めていた。ウルガさんが言うに高く売れるみたいなのだ。後で分けてもらおうと考えている。


「お疲れ、柚子。よく頑張ったな」

「えへへへ」


 頭をなでられてうれしそうな顔をする柚子。これは僕にとっての最高のご褒美だ。ルルさんはというと必死に部品を集めており、こちらに気付いていない様子だ。(ルルさんがこっちを向いたらなでるのやめよう)と考えている。


「ウルガさん、あとで分けてくださいね」

「分かっている。心配するな」


 一通り部品を集め終わったウルガさんたちは僕と柚子の近くに戻ってくる。僕は柚子と手をつなぎながら、ウルガさんたちとハイタッチをして喜びを分かち合う。

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