第14話

 アルタイルの上から望遠鏡を覗き、辺りを見渡していた。人の手が入っていない森なので、何か面白いものでもあるのではないかと言う期待の表れである。


「優さん、何をしているのかな?かな?」


 僕の体にしがみついているルルさんが、残念そうな顔をしながら質問する。体を接触させているのに知らない顔をする僕に少しだけ怒ってしまったのか……。もちろん知らない顔をしているわけではない意識してしまうと心臓がもたないので、考えないようにしているだけなのだ。


「んーとですね。開拓されてない場所なので、何かないか見ているだけですよ」

「ふ〜ん」


 あまり興味のなさそうなルルさん。僕はルルさんのことは気にせず更に集中して見る。


「あぁぁぁぁぁぁぁ!いいもの見つけた!」

「優さん?」


 急に大きな声を出した僕にドン引き気味なルルさん。


「にいに、どうしちゃったの?」

「頭がおかしくなったのよ」

「柚子に変なこと吹き込まないでくれますか!ルルさん!」

「ごめん、ごめん。それでどうしたの?」

「あれを見てください」


 僕はルルさんに望遠鏡を渡して、覗いてもらった。


「すごいね、この魔道具。物が大きく見える」


 感心している様子のルルさん。僕が指をさした先をじっくりと覗いている。


「水があふれているね。あれは何なの?」

「湧水です。地中から水が湧き出したものです」

「へぇ~。そんなものがあるんだね」

「あれがあれば、水問題クリアです。近くで見てみますか?」

「そうだねー。見てみたいかも」


 少しだが、興味を示すルルさん。僕はアルタイルに着地の指示をだす。上空ではテレパシーでしゃべったほうが確実に聞こえるので、ベガにもテレパシーで着地指示を出す。

 湧水を囲むように僕たちは立つ。そして鍋、鍋を置く台、携帯ろ過装置を創造して水を汲む。


「優、その魔道具はなんだ?もっと近くで見せてくれ!」


 ウルガさんは目を「キラキラ」させて鍋を見つめる。真新しいものを見ると興奮するのは健在のようだ。


「これは鍋です!この台において、下から焚火で沸騰するまで加熱します。それからろ過を行うことで、安全に飲むことができます」

「ほほう、見たこともないような魔道具を使いよって、ろ過とはなんだ?」

「詳しくは説明できないのですが、目に見えない汚れと水を分離することですね」

「なるほどなぁ」


 ウルガは感心して拍手をしてくれている。他のみんなも僕に拍手をしてくれた。


「あとは僕が持っているこの水筒にろ過した水を入れて、氷を入れます。あとは少し時間をおいて冷やしてから飲む。これで完璧」


 この世界では魔法があるので氷を作ることは容易だ。銃を使ってしまうと水筒が壊れてしまいそうだったので、いつもより倍以上の魔力を使って素手で作り出す。本当にコスパが悪い。


「優、私たちにもその水筒を作ってくれないか?」

「いいですよ!あとは柚子お願い」

「うん!」


 柚子は自分思っている僕と同じ水筒を複製してウルガさんたちに渡した。


「ありがとう」


 三人からの感謝の言葉。すがすがしい気分だ。「ゴクゴク」全員がキンキンに冷えた水を飲み始めた。僕と柚子も真似して水を口に含む。


「うまい!こんな水初めてだ!」

「これはうまいですね。体の芯までしみます」

「優、おいしいよ。ありがとう」


 三人の満面の笑顔。ここに立ち寄って本当によかった。


「ところで、ウルガさん。魔物の森の地図を持っていたりしますか?」

「もちろんあるぞ!今はこのあたりにいる」


 両手には収まらないような大きな地図を指さして、現在地を教えてくれる。ウルガさんが指しているのは、魔物の森の中央あたり。人の住む街はここから南西に行ったところにあるみたいだ。鮮明に描かれた地図を見るに、どれだけこの森に調査に来ていたのかがよく分かる。


「この場所を記しておきませんか?僕はここに家を建てたいです」

「いいのだけど、本当にここに家を建てるのか?」

「はい!」

「ははは、やっぱり面白いやつだな。そう言うことなら街に帰ったら領主の許可をとりに行こうか」


 ウルガさんの豪快な笑い声。僕は少しだけ気恥ずかしくなったけども、異世界の拠点はここにするときめた。そのためにはウルガさんたちと依頼を早くクリアしてお金を貯めなければならない。そんな目標を今この瞬間に立てた。

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