ここに家を建てたい
第13話
地面にはいくつもの水たまりができ、僕たちが眠っている巣穴に少しの水が流れ込む。横殴りの雨に「ザザザァァァ」という激しい音。ひんやりとした風が僕の目を覚まさせる。異世界に来て久しぶりに見た光景。これは豪雨というやつだ。
「これは最悪だなぁ」
今日、遺跡に向かって出発するというのに悪天候に見舞われてしまった。僕に引っ付くように寝ていた柚子。それからウルガさん、ギルさん、ルルさんも起きる。
「優さん!拘束を解いていただいても?」
「あぁあ!ごめんなさい。ごめんなさい。忘れていました」
「忘れないでよ……もう!」
膨れ顔をするルルさん。こういう時の表情は可愛いというのに……。昨日、ウルガさんと話を終えてから、ルルさんの拘束を解くかどうかの会議になった。だが、満場一致でそのまま朝まで過ごしてもらうという話になったのでこの状況が出来上がっているのだ。拘束をできるということは、もちろん解除魔法も存在する。なので僕は解除魔法を銃弾に込めてハンドガンから発射した。
「すっきりしたぁぁぁぁ‼」
拘束が解けたルルさんは両手を上に伸ばす。
「ルルさん。反省しましたか?」
「うんうん。もちろん、もちろん」
ギルさんの質問にルルさんは反省したそぶりを見せることなく、適当に返事を返す。
「すいません。足が滑りました」
ギルさんはルルさんの背後から思いっ切り蹴飛ばす。すっかりと油断してしまっていたのか、無防備のルルさんは踏ん張ることなく、顔から水たまりに突っ込んだ。
「何するのよ!ギル!」
びしょびしょの顔に濡れてしまった服。ルルさんは顔も真っ赤にしてギルさんを睨みつける。
「反省していないようだったので、制裁を加えさせていただきました」
穏やかな顔をしながら、なんと恐ろしいことを……。ギルさんは怒らせてはいけない部類の人だったのだ。僕と柚子、そしてウルガさん。それからアルタイルとベガ。ウルグまでもが大爆笑をしてしまった。
「もう……!」
恥ずかしそうに捨て台詞を吐いたルルさんは大人しくなり、狩人服を脱いで焚火の近くに置く。幸いなことだがズボンは濡れておらず、上の服だけを乾かしていた。シャツ一枚になったルルさん。胸の形がはっきりと見えてしまっていた。(これは目に毒、これは目に毒)と呪文のように心の中で唱えた僕はできるだけルルさんを見ないようにした。いつもならばからかってくるのにすっかりと大人しくなってしまった。
「お姉さん!大きいね!」
そう言いながらルルさんの胸元に飛びつく柚子。男性連中は少し顔を赤くして、顔をしかめる。ルルさんは柚子が自分から飛びついてくれたので、まんざらでもない表情をしている。
「おっと、これは失礼しました」
僕とウルガさんにだけ聞こえる声でギルさんが誤る。ギルさんもだいぶ反省しているようだ。
そんなちょっとした騒動があり、ルルさんの服が乾いた時には雨は上がって、眩しい太陽が僕たちを明るく照らしていた。
「おっ!これで遺跡に向かうことができるぞ」
「そうですね!行きましょう!アルタイル、ベガ。大きくなってくれるか?」
「了解した」
「代行指示、承りました」
ベガが契約しているのは柚子なのだが、柚子が大きくなるまで、僕が代行指示をするというルールを設けている。それにはベガの納得してくれていることなので、積極的に指示を出すようにしている。
「我の出番は?」
少しだけ寂しそうな表情をしているウグル。
「ごめんな〜。ウグルの力が絶対に必要になる時が来るからその時まで力を蓄えておいてくれるか?」
僕は、ウグルをなだめる。
「分かった。その時が来たら絶対に使ってくれよ」
「もちろんだよ」
納得をした表情を見せるウルグ。そのまま静かに僕の右肩に乗る。アルタイルの背中に乗るのは僕と柚子、そしてルルさんだった。柚子は僕の前に座っているので、後ろにはルルさんが座ることになる。ルルさんは僕の肩に手を置き、体を近づける。ルルさんの顔を見ると(さっきのお返しだ)と言わんばかりの表情をしていた。(僕がやったわけじゃないのに……)と思いながらもそれはえ声に出さなかった。柔らかい胸が接触する。僕は身震いをしてしまった。対して、ベガにはウルガさんとギルさんが乗っている。二人は僕の顔を見ると「ごめんな」と右手を顔の前に添えて、少しだけ頭を下げる。遺跡に着くまでに僕の心臓が持つかどうか心配になってしまう。
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