第10話

「あのう……」


 声をかけてきたのは緑色の狩人服を身に着け、背中にはいかつい弓を背負っている女性だった。さらに特徴を言うと水色の瞳に人間とは違った長い耳。さらには前髪をたらし、後ろでは一つ結びをしている金色の長い髪が美しさを強調している。おそらくはエルフなのだろう。アニメや漫画でもよく見るが外れは絶対にないようだ。目の前で起きた自然現象にびっくりしすぎたせいで助ける目的でここに来たことをすっかり忘れていた。


「すいません。どうかなさいましたか?」

「はい。まずは助けていただきありがとうございます」

「いえいえ、全然気にしなくて大丈夫ですよ」


 同年代の女性はもとより、大人の女性と話すのはやはり緊張してしまう。「ドクドク」と次第に早くなっていく心臓の音。今の僕はどんな顔をしているのだろうか……。


「にいに、顔赤いよ。どうしたの?」

「そ、そ、そ、そ、それはだな……」


 体が火照りすぎて、最後まで言い切ることはできなかった。(やばい柚子に気付かれてしまうよ。僕がコミュ障だということを……)


「あれ、兄さん。もしかして緊張してる?」


 エルフの女性は僕をからかうような口調で話しながら、肩を組むように僕に触れてくる。やわらかいものも僕の体に接触している。


「ひゃ、ひゃい」


 おどおどした表情。まさか触れてくるなんて思ってもいなかったため、語彙力が低下してしまった。


「にひひ……若いねぇぇ」

「か、からかうのはやめてください!」


 苦しながらに絞り出した声。今にも倒れてしまいそうだった。恋愛経験=年齢の僕にとってはとてもきつかった。


「それくらいにしとけよ、ルル。少年が困っているではないか」

「そうですよ、ルルさん。やめてあげてください」


 あきれたように近づいてくる二人のうち一人目はレア度の高そうなミスリル鉱石の防具に身を包み、魔剣のように赤黒い色をした片手剣に盾を背負った二十代後半くらいの顔。魔物に裂かれたような傷が右目に残っており、茶色の髪はオールバックにしていた。二人目は黒色の忍び装束のような格好で陰の仕事を受ける暗殺者って感じの雰囲気。腰には二本のダガーを装備している落ち着いた黒色の髪型の二十代男性だった。


「ごめんね、ウルガ、ギル。からかいたくなっちゃった」


 そう言いながらルルさんは僕から離れる。


「もしかして、三人はパーティーですか?」


 ウルガさんとギルさんのおかげでルルから解放された僕は落ち着きをとり戻し、会話を続ける。


「にいに。パーティーって何?」

「向こうの世界で言うと、グループって感じかな」

「お友達と集まるやつ?」

「そうだよ」

「そうなんだ。柚子もね、パーティーになりたい」

「それはウルガさんたちに許可を取らないとな……」


 僕はウルガさんたちに視線を送る。この世界に来て僕以外に初めて会う人。柚子も楽しそうだ。


「きゃぁー!可愛い。この子」

「くすぐったいよ。お姉さん」

「お姉さんだって。やだぁな、もう……」


 大人しくなっていたはずのルルさんが柚子の近くに駆け寄り、抱きしめる。とろけた顔もまた美しい。ウルガさんとギルさんは(また始まったよ。やれやれ)みたいな顔をしている。


「主人様に気やすく触らないでください!」


 僕の左肩に乗っていたベガが柚子の右肩に飛び乗り、ルルを押して引き離そうとしている。小さい状態で必死になっているベガも可愛い。この状態がしばらく続きそうだ。

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