Aランク冒険者パーティーの人たち
第9話
絶え間なく聞こえる「ブンブン」と言う音。ウルガ達はジャイアントキラービーの巣に近づき過ぎてしまったようだ。
「これは最悪な状況だな」
「一旦、引くのも考慮すべきです」
苦しい表情をするウルガにギルは撤退を促す。
「ギル!もう引けなさそうだよ」
後衛であるルルは状況を確認した後、落ち着いた口調で話す。目の前にいる大量のジャイアントキラービーに気を取られすぎて、逃げ道が塞がれていることには気づかなかった。さすがは巨大な魔物でさえも餌にするジャイアントキラービー。ルルが貼ってくれた結界も時期に崩壊してしまうだろう。
「くっ……これを打破するにはどうしたらいいのだ」
難しい顔をするウルガ。脳裏には過去に仲間を亡くした場面がフラッシュバックする。今度の仲間は絶対に無くしたくない。そう強く願った結果、頭がいっぱいいっぱいになってしまったのだ。
「重力操作を使って、一時的に足止めしますからルルさんは範囲攻撃をしてください」
「分かったよ」
この状況でも落ち着いて指示を出してくれるギル。ピンチなのに笑顔を絶やさないルル。ウルガの気持ちは少しだけ楽になった気がした。ギルは地面に紫色の魔法陣を展開する。その瞬間、先程まで、元気に空を飛んでいたジャイアントキラービー達が一斉に地面に這いつくばった。
「ナイス!ギル!」
ルルは明るい表情崩さないままにギルを褒める。そして上空に向かって一本の矢を撃つ。上空に上がった矢は影分身のように分裂して、ジャイアントキラービーを襲う。矢、一本一本が刃のようで、ジャイアントキラービーに接触した瞬間に風を発生させて、斬り刻む。
「ありがとう!二人とも。一旦、引くぞ」
ウルガは仲間が作ってくれたチャンスを生かすために撤退の指示を出す。二人の元気な返事を確認すると全力で走り出した。重力操作の効果が切れ、体勢を立て直したジャイアントキラービーはものすごい勢いで、ウルガたちを追ってくる。
「振り向くな!逃げろ!」
「了解!」
後ろを振り向かないウルガたち。逃げるが勝ちということはこのことを言うのだ。
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アルタイルの背に乗り、上空から周囲の探索をしていた。
「それにしても、この森には何もないな」
「何もない」
僕も柚子も鈍い表情をしている。数時間も探し回っているのに、村一つ出てこないのだ。この魔物の森はどれくらいの広さがあるのだろうか。
「主人方。この森は世界最大ともいわれている広さがあり、ここに足を踏み入れたものは出ることはできないと言われている魔境ですよ。ですので、簡単には人里は見つからないと思います」
「なるほど、魔境ね~。やみくもに探すよりもこの森に来る人を探したほうがいいのかな?」
「そうですね。ですが魔境に足を踏み入れる人はいるのでしょうか」
「それもそうか~」
ベガの言葉に僕は難しい顔になってしまう。
「あそこにいるよ!」
僕とベガの話を聞いて、何かを見つけた柚子は指をさして方向を教えてくれた。柚子が指さす方向を見てみると薄っすらだが、何かが動いているのが確認できる。普通なら見落としてしまいそうだが、柚子はやはりすごい。たまに思うのだが柚子の索敵能力は侮れない。この索敵能力のおかげで救われた部分も多くあるし、なんでも僕よりも先に見つけてしまう。少し悔しく思ってしまうのだが、おとなげないので心の奥にしまっておこう。
「どれどれ?」
僕は望遠鏡を作成して、覗き込んでみる。巨大バチに襲われている人が三人。あまりの数の多さにてこずっている様子だ。
「にいに。柚子にも見せて」
「はいはい。どうぞ」
「やったー!」
嬉しそうな柚子。はしゃぎすぎてアルタイルから落ちてしまわないか心配なので、しっかりと手を添えておこう。
「助けに行こうか」
「うん!行く行く!」
「アルタイル!左に旋回して、まっすぐ地面を目指して!」
「了解した」
アルタイルは僕の言う通りに動く。そして急降下して巨大バチに襲われている人達のもとに向かう。「ドカーン!」巨大な音ともに地面に着地したアルタイルの周りには砂埃が舞う。突然に目の前で起きた出来事に三人の人は言葉を発せず、ポカンと口を開けてしまっている。
「アルタイル!そのままこいつらをぶっ飛ばせ!」
「了解した。主人」
アルタイルは僕の期待にこたえるかのように前足を大きく振り上げて地面を叩く。アルタイルの呼びかけに答えるように叩いた地面に魔法陣が現れる。緑色に輝くその魔方陣には目を奪われてしまうほどだ。先ほどまで晴天だった空は雨が今にも降ってきそうな真っ黒い雲に覆われている。
「天候操作ぁぁぁぁぁぁ⁉噓でしょぉぉぉぉぉ⁉」
「アルタイルさん!すごいぃぃぃぃ‼」
今、目の前に起きているありえない現象に興奮しないわけがない。僕と柚子は自然に大きな声をあげてしまう。たちまち天候は大荒れ。そして僕たちを中心に暴風が円を描くように吹いて巨大バチの群れをはるか彼方に追いやる。ついでに巨大バチの巣も一緒に吹き飛んだ。まるで台風のようだ。台風と言っても陸に上陸して勢力が落ちたものではなく。海上にある勢力の衰えていないものだ。嵐は過ぎ去り先ほど目の前で起きた自然災害は嘘のように無くなり、再び太陽が顔を見せる。それでも被害は甚大だったらしく、東京ドーム一個分くらいの範囲がはげ森になってしまっていた。
「あはは……聖獣だから、これくらいは普通かぁ……あはは……」
僕は呟き、唖然とその場にから動くことができなかった。柚子はというと目をキラキラさせて、(次は何を見せてくれるのかな)みたいな顔をしている。
「もしかしてだけど、ウグルもできたりするのか?」
僕はアルタイルから降りて、ウグルに問い掛ける。ウグルとは僕がフェンリルに授けた名前だ。聖獣ができるということは怪物も天候操作的なものはできるのではないかと思ったからだ。
「当たり前だ!大噴火をおこしてこの場を火の海にできるぞ!見せてやろう!」
「やめぃぃ!」
聞いただけなのに実際に行動に移そうとしていたので頭にチョップをおみまいする。
「痛いぞ。優」
「実際に行動に移す奴があるかい!」
これほどの大魔法。気楽に使わないように釘を打っておく必要があった。
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